第82話 オールズの魔法

 ブレメナウ会長の馬車で王都冒険者ギルドに出向き、グレンを先頭にギルドに入り解体場へ入らせて貰った。


 解体主任が俺の顔を見るといそいそとやって来るが、ブレメナウ会長を見てちょっと不審気である。


 「今日はブレメナウ会長から獲物の解体依頼なんですよ。グレンから会長に贈られたホワイトフォックスを、俺が預かって持って来ただけ」


 ホワイトフォックスと聞いて解体主任の目が光るが、他に獲物は無いぞ。

 ブレメナウ会長の希望として、解体と皮の鞣しと肉及び魔石の引き取りである。


 「こんな見事なホワイトフォックスの解体料だけかよ。皮の鞣し加工は専門業者に別注だな。会長さん、せめて肉を半分ギルドに卸しちゃくれないかね」


 「グレン殿から肉は中々の上物だと聞きましたので、王家に献上しますので無理です」


 〈おい見ろよ! 凄え奴を持って来ているぞ〉

 〈此れって、フォックスだよな〉

 〈こんなに真っ白な奴がいるのか?〉

 〈ばーか、王都周辺にこんな奴はいないよ〉


 〈こらぁ~、触るな! てめえ等はクリーンを掛けていても、触ると承知しねえぞ!〉


 獲物を売りに来た奴等が、珍しさから撫で回していたので解体主任が切れている。

 解体料と皮の鞣し料は俺のギルド口座からの引き落としにして貰い、買い取りカウンターへ向かう。

 今度はグレンが買い取りのオッサンに「クリスタルフラワーを売りたい」と告げる。


 「はっ・・・今、なんて言った?」


 「クリスタルフラワーだよ。三本持っているんだが、要らないのなら別の所へ持っていくぞ」


 「待て! 待てまて! 見せろ!」


 「オッサン声が大きいぞ。見ろよ、食堂に居た連中が興味津々で見ているじゃねえか」


 「本当だな!」


 グレンが黙ってマジックポーチから三本の茶筒状の容器を取り出すと、すかさず俺が開封する。

 それをグレンが徐に蓋の部分をゆっくりと持ち上げる。

 薄緑色の半透明な花が現れると同時に、甘く優しい香りが溢れでて広がる。


 〈凄~い〉

 〈なんて素敵な香りなの〉

 〈クリスタルフラワーって本当なの?〉

 〈此れがあの貴重な花の・・・〉


 カウンター奥の女性達が騒ぎ出し、続々と花の周りに集まって来る。


 〈綺麗ねぇ~〉

 〈半透明な花って本当なんだ〉

 〈凄く素敵な香りねぇ〉


 「あぁ~煩ぇぞ! サブマスを呼んで来い! お前達も何をしにきている! 黙ってエールを飲んでいろ!」


 食堂で飲んでいた冒険者達もカウンター前に来ていたが、買い取りのオッサンに怒鳴られて散って行く。


 あ~あ、買い取りのオッサンがぶち切れているが、元はと言えば大声を出したお前のせいだぞ。


 「おいおい、クリスタルフラワーだって。どいつが持って来たんだ・・・って、お前かよ」


 「失礼なおっさんだねぇ。俺じゃないよ、隣のグレンとオールズの親子だよ」


 「これはこれは、オンデウス男爵殿」


 「サブマス、嫌みったらしいな。そう言う態度なら俺にも考えがあるぞ」


 「いやいや、嘗てのドラゴン討伐メンバーの一員たる、グレン・オンデウスに敬意を表しているんだよ」


 「はん、昔の話は良いんだよ。此奴を三本預ける」


 「此れはオークションだぞ」


 「判っている。代金は俺とオールズの口座に振り込んでおいてくれ」


 三本の茶筒の蓋を取り状態を確認すると直ぐに蓋をして、マジックバッグに入れている。

 ちょっと読み取ってみると5-90の物で、俺の記憶には無いので読み取らせて貰った。

 〔マジックバッグ・5-90×6〕と6回しか読み取りと記憶が出来なかったが、久方ぶりにマジックバッグの在庫が増えた。


 預かり証を貰ってギルドを後に、グレンの家まで送って貰いブレメナウ会長とお別れした。


 * * * * * * *


 ブルメナウ会長より、クリスタルフラワーが手に入ったとの報告を受け取ったヘルシンド宰相は、国王陛下に報告に向かった。


 「相変わらずあの男は自由気儘だのう。それにしてもあの花をこうも気軽に採取してくるか」


 「ブルメナウの報告によりますと、今回はグレン・オンデウス男爵とその子息が同行したようです。オンデウス男爵が三本を冒険者ギルドに提出し、フェルナンド男爵はブルメナウの孫娘と母親に、入学祝いとして花を贈ったそうです」


 「あの男は、花を摘みにカターニア領キエテフの街まで旅をしていたのか」


 「キエテフの街より森に入り、一月近く掛かって街に帰って来たそうです。その際オンデウス男爵がホワイトフォックスを一頭討伐しており、ブルメナウに馬車の謝礼として贈っています」


 「オンデウス男爵か・・・何処かで聞いた名だな」


 「以前数組の冒険者パーティーで、ドラゴン討伐を為した者の一人です。その功績により年金貴族として男爵位を与えています」


 「ドラゴンか、高品位ポーションが材料不足だという話はどうなっている?」


 「幾つかの薬草とドラゴンの内臓などが不足しておりまして、冒険者ギルドに依頼はしておりますが、応じる者がおらず困っております」


 「フェルナンドと、オンデウスの仲はどうだ?」


 「新年の宴の時にオンデウスから声を掛けた様で、その後フェルナンド男爵より魔法の手ほどきを受けていました。元々雷撃魔法の優れた使い手だったのですが、今は魔法部隊の者では太刀打ちできない腕になっています」


 * * * * * * *


 骨休みがてら市場で食料をたっぷり仕入れてから、グレン達の訓練の為に王都を出る。

 今回は落雷音は出ないので、王都から一時間程離れた草原に大きめな結界のドームを作る。


 まずオールズにストーンランスを二本作って貰い、それを打ち合わせてみるがちょっと音が鈍い。

 試しに思いっきり打ち合わせると、ポッキリと折れた。


 「今一だね。ウルフ程度なら討ち取れるけど、この程度だと避難所やドームは破られる恐れが有るな。見本に渡した物とよく比べてみてよ」


 落ち込むオールズの尻を叩き、結界の中に避難所を作ってみせる。

 グレンとオールズ二人用なので直径1mもあれば良いのだが、1.5m程度で高さも3m程で上部を絞り込み空気穴を残す。

 ゆっくりと作ったので作る課程は理解したと思う。

 出入り口を作り外に出ると、構造と何故この程度なのか空気穴の必要性などをきっちり教えておく。


 「良ーく見て頭に叩き込んだら、此れと同じ物を作って貰うがゆっくりで良いよ。いきなり同じ様な速度と強度は無理だから、慣れたら一瞬で出来る様になるさ」


 そう言って後は放置、どうせオールズは直ぐに魔力切れでパタンキュウーになるのだから。

 その為に大きめの結界の中で教えているのだ。


 グレンにはアイスアローの射ち方から教えるつもりだったが、アイスランスの硬さに満足したので避難所作りから教える事にした。


 「俺も避難所を作るのか?」


 「ん、当然だよ。岩の如く固い氷なら、一時的な避難所は作れるし有れば便利だよ。オールズの避難所は当分無理そうだからね」


 「でも、奴も結構使える様になってきたぞ」


 「グレン、オールズの魔力は24だぞ。グレンと同じ量練習をしようとすれば、何十回魔力切れをすると思っているの」


 グレンは流石に魔力が92有るだけあって、練習数の成果かほぼ一日で強固な避難所を作れる様になった。

 それでも3~4秒の時間は掛かるが、地面にもしっかり固定されていて強度的にも問題なし。

 出入り口を作るのも直ぐに慣れて、魔力を抜く事もあっさり習得したので、翌日からはアイスアローの標的射撃を教える事にした。


 オールズには引き続き結界のドーム内で、避難所作りに励んでもらう。

 グレンは土魔法のドーム内から穴を通して、アイスアローで近距離の標的を射つ練習だ。


 「アイスアローやアイスランス一つ作ると魔力を一つ使うんだ。此れを射つと又一つ魔力を使う。つまり作ると射つで二回魔力を使うのだが、此れを一つの動作で矢を作って射つと一つの魔力で済む。雷撃と同じだな。標的に腕を向けたら標的を撃ち抜く事を想定して、アイスアローと呟くと同時に魔力を流せば良いんだ。散々アイスアロー作りをしているので、矢を作る事は考えなくても出来る筈だよ」


 掌より少し大きな穴を通しての射撃は的が見づらいのか、だんだん穴に近づき最後には穴から腕が出そうになる。

 その度に注意して、穴から腕を出す危険性や掌大の穴は野獣が口を突っ込んでくる恐れもあると教える。

 現にファングモンキーに襲われたダルバ達は、火魔法を射つのを猿に妨害されて難儀していた。

 それを指摘すると、安全な位置からの射撃に気を使う様になった。


 オールズも一週間も経つと4~5秒で避難所を作れる様になったので、強化策として魔力の追加を教えておく。

 最後に野営用のドーム作りは、見本として3m程の直径の物を作り真似させる。

 出来上がったドームに、グレンがアイスバレットを射ち込み強度試験だ。


 中々強力なアイスバレットで、野営用ドームを易々と射ち抜きオールズをガッカリさせている。

 三度魔力を込めて漸くアイスバレットに耐え、四度魔力を込めてアイスランスの攻撃にも耐えられた。


 緊急時にはグレンが氷の避難所を作り、その中に一際小さい土の避難所を作れば良いとアドバイス。

 但しオールズには完璧な避難所と野営用ドームが作れる様になるまでは攻撃魔法の練習は禁止。

 攻撃魔法を覚えても避難所やドームの外での使用は緊急時以外禁止と言い渡す。


 俺は王都に帰ってのんびりするので、後はパパから教われと言って帰る事にした。

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