第64話 解放の条件

 地下牢には顔を腫らした馴染みの男も居た。


 「俺だけじゃ飽き足らずに、ホリエントとその後任の騎士団長も甚振ってくれたそうだな」


 「王家の手先になって意気がるなよ。野良猫風情が男爵だと、笑わせるぜ」


 「元気だねぇ~、それ位じゃないと甚振りがいがないので楽しみだよ」


 腹に一発アイスバレットを射ち込み、悶絶している奴を同室の者に鉄格子の所へ連れて来させる。

 鉄格子に大の字に押しつけさせ、土魔法で手足と腰を鉄格子に固定する。


 「ホリエント達から巻き上げた物はどうした?」


 「何の事だ、猫の言葉は知らねえから判る様に言ってくれ」


 「そうか、では理解出来る様にしてやるよ」


 男の股間にフレイムを押し当てると、〈ウオォォォー、ガーアァ、熱いぃぃぃ〉絶叫を上げながら腰を振っている。

 俺のフレイムは最大10cmの大きさで、魔力の投入次第では股間が黒焦げになっても燃え続ける。


 鉄格子に欲情して腰を振る男を、同室の男達が冷や汗を流しながら見ている。 白目を剥き涎を垂らして気絶した男を(鑑定!・状態)〔火傷、重傷〕

 安らかに眠る男の耳たぶに、豆粒ほどのフレイムを乗せて優しく起こしてやる。


 〈うわっちちち・・・つつ、糞ッ〉


 「お早う、股間の丸焼きの感想は?」


 「必ずお前を殺す! 忘れするな!」


 「すまないねぇ~、俺って敵が多すぎて覚えきれないんだよ。今度出会ったら名乗ってね、棍棒男ですって。冗談はさておき、ご子息様が黒焦げですが痛くないんですか?」


 冷や汗を流しながら歯軋りして睨んでくるので(ヒール!)の一言で治してやる。

 痛みが無くなりほっとしている男に優しく教えてやる。


 「さぁ~て、又ご子息様の黒焼きを始めるけど、黒焦げになったら治癒魔法で治してあげるからね♪ 何回黒焼きに耐えられるかなぁ~」


 ねっとりとした口調で教えると、頬がピクピクして額から汗が滴り落ちる。

 男の顔を見て御子息をチラリと見て(フレイム)と聞こえる様に呟き二度目の黒焼きを始める。

 〈ウオォォォー、糞ぉぉぉぉ、止めろぉぉぉ〉

 「ダーメ!」


 今度は気絶する前にフレイムの魔力を抜き、火傷の痛さだけをじっくりと味わって貰う。


 「俺の話が理解出来る様になったら呼んでくれ」


 棍棒男に告げ、同室のお仲間達に向き直る。


 「此の男には火傷の痛みをじっくりと堪能して貰うが、お前達も俺の問いかけにまともに答えなければ火炙りを楽しませてやるよ」


 「サディスト野郎が!」


 「ホリエントと後釜の騎士団長を、楽しみの為に甚振ったお前達ほどじゃないので気にするな。お仕置きが足りない様だな」


 氷結魔法を削除して火魔法を貼付する〔火魔法×9〕

 頭の上にソフトボール大の火球を浮かべて、鉄格子と腹の間にもバレーボール大の火球を作る。


 「うおぉぉぉぉぉ、止めろ野良猫野郎! 糞ッォォォ」


 鉄格子に大の字に固定されていて逃げられないのに、必死で逃げようとしているが無駄。

 必死で頭を振って火を消そうとしているので、頭髪が燃え尽きたところで魔力を抜いて火球を消し、腹の火も失神する前に消してやる。


 (鑑定!・症状)〔火傷・重傷〕


 「俺に礼儀を教えるって言っていたが、お前も礼儀がなってないな。死にそうになったら何度でも治療してやるから頑張れよ」


 牢内に居る奴等に向かって「ホリエントと後任の騎士団長の持ち物はどうしたのか言え!」と怒鳴りつける。

 静まりかえる地下牢、誰も一言も喋らないので各部屋にバレーボール大の火球を浮かべる。


 「よく見ろ! 5分や10分は消えないぞ。お前等が素直に喋るまで一人ずつ火炙りにして遣るからな。お前達を死なせはしない、何度でも治しては火炙りにして遣るから覚悟しろ」


 地下牢の片隅で見ていた騎士に、二人の持ち物の行方を聞き出しておけと命じる。

 聞き出せなかったら呼びに来いと言って本館へ引き返す。


 魔力が70迄回復しているので、馬鹿を相手にするよりホリエントの足を復元する方が先だ。


 改めて結界を張り、ホリエントの足元に座り治療を始める。

 (ヒール!)と呟きながら足の再生を願い、20/100の魔力を流し込む。

 三度20/100の魔力を使い、踵とから先を再生できてほっとする。

 後一度なら耐えられるが、踝の少し上から下を再生するのに魔力20/100を六回使う事になるとは思わなかった。


 切り傷や骨折と違い、再生治療は大量の魔力を必要とする。

 その為に治癒魔法を授かっても、魔力の使い方に精通してなければ多少の怪我や病気を治せても、再生治療は無理って事だな。

 「はぁ~・・・疲れた。足の感覚はどうだ?」


 足の指をつまんで聞いてみる。


 「足先までの感覚は有るが、力が入らないんだが」


 「そりゃー出来たばかりの足だからだよ。歩く練習から始めなきゃならないさ」


 「ん? だが目は直ぐに見えたぞ」


 「目は練習しなくても見えて当然さ、生まれたての子供じゃあるまいし大人の目だぞ。見えて当然だよ」


 「残念だ、俺達を甚振ってくれた屑共を後悔させてやろうと思っていたのだが」


 「棍棒の好きな部隊長なら、股間の黒焼きに苦しんでいると思うぞ」


 俺の話を聞いたホリエントが爆笑し、最後には腹を抱えてヒィヒィ言っていた。


 * * * * * * *


 ホリエントと地下牢から救出した魔法使い達を客間に移し、執務室を宰相の補佐官に明け渡した。

 何せ数日の内に50人以上に増えて彼此忙しそうだし、俺は魔法使い達から聞き取った調査用紙を睨みながら、今後の事を考えなければならなかった。

 その間に魔法部隊の者達から、各種魔法の読み取りと記憶で在庫を増やしていった。

 お陰で転移魔法以外の魔法は全て20個を記憶できたので満足だ。


 しかしエレバリン公爵って結構な渋ちんだった様で、魔法使いの給金がメイドより安い15万ダーラから20万ダーラ。

 此れで忠誠を誓って訓練に励めってのは無理だろう。

 相応の忠誠を求めるのなら、其れだけの待遇が必要になる筈なんだけどなぁ。


 会社や他の組織でもそうだが、変に忠誠心を求める所って待遇が悪いところが多いのは何故なんだと、真剣に考えてしまった。

 待遇が悪くて辞められては不味いが、給料は安く抑えたい。

 忠誠心を持ち出せば、馬鹿は従ってくれるし懐は痛まないからだろうな。


 * * * * * * *


 翌日王城より迎えの馬車が来て、魔法部隊の事で聞きたい事が有るので来てくれと宰相から連絡が来た。


 「困りますねぇ、私は臣下ではありません。依頼でもないのにホイホイ呼び出さないで下さい」


 「済まないね。魔法部隊の事は本当かね?」


 「それね、地下牢に放り込まれていた魔法使いも魔法部隊も全員魔力80以上の者です。それも四大攻撃魔法の者が殆どです。転移魔法使いは領地にて特別訓練中って聞きましたよ。それと魔力が65から80の者は配下の貴族に下げ渡して訓練中だそうです」


 「王家や他の貴族達の魔法部隊も似た様な構成で、それだけでは何とも言えないな」


 「別に信じろなんて言いませんよ。当事者達は死んでいますから確認のしようもないでしょうから。ですが集めた魔法使いでやる気の無い者や上達しない者達を、地下牢に入れてまで教育しますか? 是が非でも強力な魔法部隊が欲しかったのでしょうが、何故?」


 考え込むヘルシンド宰相に、ホリエントと地下牢に居た魔法使い13名は俺が引き取り、落ち着いたら解放する。

 彼等に対する謝罪と賠償金などの手数料は貰ったと告げておく。

 魔法部隊の者も貴族に仕えるのが嫌な者は相応の手当を渡して解放するが、仕官を望むものは王家で引き取れないかと打診する。


 俺の言葉にポカンとしていたが、このまま王家に渡せば金貨数枚か十数枚を渡して終わりにされるだろう。

 それなら俺が地下室からがっぽり掻っ攫って、各自に配った方がマシだ。


 「魔法部隊の者は、毎月の手当が15万ダーラから20万ダーラですよ。優秀な魔法使い達が大量に手に入るチャンスですがどうします」


 「まさか、そんなに安く使っていたのか?」


 「公爵の権力と一部の騎士達を使ってね。彼等を放り出せばエレバリン公爵の事が明るみに出ますよ」


 「それは困る」


 「だからですよ。自由になりたい者達には、公爵家の財産から口止め料をたっぷりと渡して解放します」


 陛下と相談してくると言って慌てて出て行った宰相だが、戻って来た時には国王陛下も居た。


 「ユーゴあの話は本当か?」


 「仲良しの貴族達を締め上げれば何か判るでしょう。頭が潰れて結束の緩んでいる今なら簡単でしょう」


 「うむ、既にベクシオン伯爵の嫡男や主立った貴族共は王城に呼び出して軟禁し取り調べている」


 おうおぅ、流石は狸か狐親爺だ抜け目がないな。


 「エレバリンの魔法部隊の者で、王家に仕えようと思う者はそれなりの給金で迎えよう。騎士団長と13名の魔法使い達は其方に任せる。勿論自由になりたいと望む者も其方に任せる」


 良し! 言質は貰ったので、地下室の金貨は使い放題だ♪

 王家に仕えたい者と自由になりたい者の希望を聞いておくので、早く引き取りに来る様に伝えてエレバリンの館へ戻る。

 

 魔法部隊の者を集めて、エレバリン公爵家の魔法部隊は消滅するので王家に仕えたい者は魔法部隊長に、自由になりたい者は執事に名乗れと伝える。

 その際、安い給金で使われていたので、一人金貨50~100枚を公爵家から詫び料として支払われると伝えると歓声が上がった。


 メイドより安い給金で働かされて居たので、相当鬱憤が溜まっていたのだろう。

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