第63話 再生
魔法20回分の魔力なので以前と同様脱力するかと思ったが何ともない。
以前は魔力73の1/5を使って脱力したが、今回は100分割分の1/5で大丈夫とは。
毎日の魔力切れでも魔力は73から増えないが、魔法を使う時の魔力の使用量は確実に減っている。
「ユーゴ・・・殿か?」
「気がついたか、取り敢えず怪我は治したが・・・」
「此処は公爵様の執務室だな」
「もう様を付ける必要はないぞ、奴も嫡男も死んだし夫人は蟄居を命じられたからな。大分痛めつけられた様なので治療はしたが、当分は体力回復に励まなければならないな」
「治療してくれたのは有り難いが、目も足も駄目だったか」
「それなんだが、試したい事があるのでそのままでいてくれ」
目の上にスカーフを乗せ右目の上に掌を乗せると、眼球の修復を願ってゆっくりと魔力を流し始める。
予定の20/100の魔力を流し終えて、スカーフを外して右目の確認。
額から頬にかけてついた傷はそのままだが、潰れた目は元通りに見えるが反応が無い。
傷の復元は出来たが視力が回復していないのは何故か、視力の回復を願わなかったからなのか魔力が足りなかったからか。
再度スカーフを乗せて治療をするが、今回は視力の回復を願って20/100の魔力を流す。
ちょっと疲れて膝が震えるが、急いでスカーフを外して覗き込む。
閉じられていた瞼が開くと目がきょろりと動く。
「見えるか」
右目にスカーフを乗せて尋ねる。
「ああ、公爵様があんたを欲しがった訳だ・・・が、相手が悪かった様だな」
「まぁな。地下牢に閉じ込められて居た魔法使い達を見れば、それだけの為とも思えんがね。それより足も試してみたいのだが、目だけで相当魔力を使ってしまったので回復迄まってくれ」
「治るのか?」
「腐っていたので斬り落としたが、多分復元できると思う。だがどれ程の魔力を必要とするのか判らない。魔力の回復を待つ間に、あんたと後任の騎士団長を不当に扱った奴等の氏名を書き出しておいてくれ」
「どうするんだ」
「今回は依頼を受けているんだ『騎士団長を不当に扱った者達の捕獲』って言う依頼をな。公爵家の力を削ぐ糸口にするつもりだった様だが、公爵家は消えるだろう。だが、遣られたままでは気分が悪いだろう」
「勿論だ。生きて出られたら、必ずやり返すつもりだったからな」
* * * * * * *
「ベクシオンの死亡報告、あれは何だ! あの様な戯れ言で王家を騙せると思ったのか」
国王陛下の前で跪くベクシオン伯爵の嫡男ヨルド・ベクシオンは、冷や汗を流しながら必死に言い訳を考える。
「エレバリン公爵家の執事より、父グロッセ・ベクシオンの遺体が届けられたのがご報告の一日前で御座います。敬愛する父の悲惨な死に気が動転して、ベクシオン家の体面を考えるあまりいらぬ細工を致しました。お許し下さい」
「その方、父親が何をしていたのか何も知らぬと申すのか? 何故エレバリン共々死んだのかも」
「我が父は何かと秘密にしたがる性格にて、嫡男と謂えども・・・」
「それにしては、親子共々エレバリンの館によく出入りしていたな。エレバリンの執事はよく喋ってくれたぞ。お前からも色々聞きたい事がある、呼び出すまで控えの間でのんびりするが良い」
ヨルド・ベクシオンが王城に呼び出されてからは、エレバリン公爵に連なる貴族達が一人、又一人と静かに王城へ呼び出されては控えの間に軟禁されていった。
* * * * * * *
ホリエントを救出して、一応の治療をしてから地下牢から救出した魔法使い達の様子を見に行く。
13名の魔法使いの内治癒魔法を授かっている者は二人で、他は火魔法・土魔法・氷結魔法・雷撃魔法の攻撃魔法を授かっている者ばかりである。
しかも全員が魔力80以上だった。
怪我をしている者達の治療を済ませると、もう少し辛抱すれば自由の身にしてやれるので大人しく待っている様にと言い聞かせる。
執事を呼び付けて魔法部隊の総数を尋ねると100名を超えていたが、以前多数の魔法使いを失ったので現在は少し少なくなっていると答える。
魔法部隊の者を全員執務室向かいの部屋に集めろと命じる。
俺の考えが当たっていれば、エレバリン公爵は唯の鼠ではなかったのかも知れない。
魔法部隊の者達は土魔法・氷結魔法・火魔法・雷撃魔法の攻撃魔法の者が殆どで、水魔法や風魔法の者は数名しかいなかった。
その上見事に魔力80以上の者ばかりを集めていた。
空間収納や治癒魔法を授かっている者達は公爵直属で、別の部所に居ると口々に答える。
転移魔法使いは特別な訓練を受けているとかで、誰も何処で何をしているのか知らないと言い、執事を呼びつけて何名いるのか尋ねた。
転移魔法使いは後二名いるが、領地にて訓練させており必要な時以外は王都には来ないと答える。
多分転移魔法と暗殺の訓練をさせているので、身近に置くと自分が暗殺される危険があるので遠ざけているのだろう。
魔力が65~80の者は、配下の貴族に下げ渡して訓練させているそうだ。
執事や魔法使い達から聞き取った事と推測を交えて宰相に書面を送り、交代要員を送れと催促する。
俺の代わりが来たら依頼完了なので、それ迄にホリエントの足を再生出来るか試す事にした。
ホリエントの世話係のメイドを執務室から放り出すと、ソファーを結界で囲ってから魔力の残量確認〔魔力・71〕
眼球一つ再生するのに20/100の魔力を二度使ったので、踝の少し上で斬り落とした足の再生にどれ程の魔力が必要なのか判らない。
ホリエントの横たわるソファーの側に、もう一つソファーを並べて魔力切れに備える。
期待と不安の混じった顔で俺を見るホリエントを無視して、斬り落とした足に魔力を流し始めたがきつい。
一度目で斬り落としたところから5cm程肉が盛り上がり、成長しているのが確認出来た。
三度目の治療で踝の下まで再生出来たが、前回同様1/5の魔力を連続三回使用した時点で膝が震えだし、用意のソファーに崩れ落ちる。
「大丈夫か?」
「いやいや、目の玉一つでも大量に魔力を使ったが、今回はそれ以上だよ。続きは魔力の回復を待ってからだな」
* * * * * * *
ホリエントの向かいのソファーに横たわり魔力の回復を待っていると、執事がやって来て王家差し回しの者達が来ておりますと教えられた。
ホリエントにはシーツに包まって足を見せるなと注意してから、執務机の椅子にふんぞり返り入れろと命じる。
王都騎士団の者四名と、ヘルシンド宰相の補佐官の一人に事務方と思われる男が五人やってきた。
面倒事を押しつける相手が来たが人数が少なすぎる。
補佐官の男が一礼して、国王陛下の命によりエレバリン公爵邸を受け取りに参りましたと言う。
「数が少なすぎないか」
「大勢で来ると噂になりますので、必要な人員を順次送り込むとの事です。それ迄はフェルナンド様の指示に従う様に命じられています」
「隣の部屋に地下牢に放り込まれていた魔法使い達が居るので、彼等の安全と魔法部隊の人員で強制的に連れて来られた者を一ヶ所に集めろ。俺はちょっと執事に用が有るので任せたぞ」
補佐官の男に、ホリエントの書きだした名簿を渡して拘束しておけと命じる。
暫くは執務室の向かいの部屋を使えと言って、部屋から放り出す。
「さてと、お宝とご対面といきますか。案内してくれるよね執事君」
「それは・・・エレバリン公爵家の財産に手を付ける事は・・・」
「別に根こそぎ寄越せなんて言ってないよ。強制的に連れてきた魔法使いや二人の騎士団長に対する謝罪と賠償金だよ。それと地下室に居た者達を治療した代金な、嫌とは言わせないぞ。嫌なら其れでもよいが、どうせ地下室だろうがぶち壊しても良いんだぞ」
「やれやれ、国王陛下差し回しの者とは思えない台詞だな」
「なに、俺は冒険者として依頼を受けて来たんだ。獲物を自由にする権利が有るのさ。案内をするのが嫌なら、用は無いので騎士団に引き渡すだけだ」
「ご案内致します」
余程取り調べがキツかったのか、即座に返事をすると執務室の金庫から地下室の鍵を取り出した。
金庫室には革袋がぎっしりって言葉通り、頑丈な棚にズラリと並んでいた。
先ず地下牢に居た魔法使い13名分の慰謝料と生活の保証として金貨の袋13個、ホリエントに謝罪と補償として3袋をマジックポーチにポイ。
無くなった後任の男の家族に5袋を追加し、14人分の治療費として14袋をマジックポーチに入れる。
情けなそうな執事には、魔法部隊の者で意に反して連れて来られた者の分は後から貰うと告げておく。
合計350,000,000ダーラをせしめてから、待望の酒蔵へ行く。
ズラリと並ぶボトルを見ても善し悪しが分からないので、それぞれ20本ずつ適当にマジックポーチに放り込んで終わり。
20種類近くを各20本ずつ頂いたので、400本近い酒を確保できた。
執務室に戻り、ホリエントにマジックポーチや剣等はどうしたと聞くと、全て取り上げられてしまったそうだ。
亡くなった男の分も含めて後で取り返すと約束して、安全の為に結界を張ると魔力の回復を待つ為に昼寝をする。
ホリエントに起こされて眠い目をこすると、何やら俺に相談が有ると俺を呼んでいると教えられた。
結界を解除し執務室の扉を開けると補佐官の男が立っていて、ご指示通り名簿に書かれていた男達を拘束いたしましたと告げられた。
場所はと問えば「地下牢です」と簡潔な答えが返ってきた。
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