第49話 作り話
治癒魔法使いにして土魔法と氷結魔法に結界魔法を使い熟すか。
このような貴重な人材は王国に仕えさせて、その力を存分に利用すべきだろう。
ブルメナウには出頭命令を出しているので、明日クリスタルフラワーを陛下に献上した後で、ユーゴとやら冒険者の事を詳しく聞かねばならない。
それとは別にエレバリン公爵邸でユーゴと一悶着あった様だが、詳しい事がさっぱり判らない。
大規模な魔法が使われたとの報告も来ているが、此れも真偽不明だ。
ダブリンズ領シエナラのロスラント子爵からの報告と、冒険者ギルドを調べさせた耳からの報告ももう一度精査する必要が出てきた。
まさか冒険者になって間もない子供が、此ほどの魔法を使い熟しているとは信じられなかったのだが大誤算だ。
もう一つ、コッコラ商会の会長コッコラが、何故ユーゴと面識が有るのかも調べておくべきかも。
* * * * * * *
ブルメナウ会長は国王陛下に献上するクリスタルフラワーを、ヘルシンド宰相と共に国王陛下に披露して下がったが、そのまま執務室に招き入れられた。
改めて宰相執務室でユーゴの事に関して聞かれたが、治療依頼を出していたが受けて貰えるとは思っていなかった事。
コッコラ会長からユーゴがキエテフに向かっているとの知らせを受けたこと以外詳しい事を知らなかった。
孫娘の病気が治り経過を見ていたユーゴが森に行きたいと言い出したので、木材伐採に行く者達との同行を勧めた。
唯、木材伐採に付いて森に入ったユーゴは、クリスタルフラワー以外にも多数の野獣を討伐していたと伐採責任者から聞かされた事を話す。
討伐した野獣はシルバータイガを筆頭にブラックベア1頭,オークキング2頭オーク9頭,フォレストウルフ23頭を、一人で討伐したそうですと言われて信じられなかった。
クリスタルフラワーも孫娘ミシェルと母親の土産にと貰ったが、珍奇で高価な物だと伝えたが何の興味も示さなかったと話す。
「その男、王家に仕えると思うか? いや仕えさせられるだろうか」
「良く存じませんが無理では無いかと・・・仕官を望み栄達を求めるのなら、とうに何れかの貴族家に仕官したはずでしょう。彼は治癒魔法の報酬として、私を含め三家から多額の金貨を受け取っています。生きる事に何の心配もありません」
「そこだな。それに高ランク冒険者を貴族に取り立てても、今ひとつ王家に対する忠誠が薄く、中には貴族位をあっさり捨てる輩までいる始末だ。その男を手懐ける良い手立ては無いか?」
「孫娘の病が治り経過を見て貰っていましたが、王都に帰る前に森が見たいと言い出す御方です。ただ多数の依頼があるそうですが、どれも気に入らないと申しておりましたので・・・」
「思い通りに動かすのは、難しいか」
ブルメナウ会長が黙って頭を下げる。
* * * * * * *
その後コッコラ会長もヘルシンド宰相から呼び出され、ユーゴの事を色々と尋ねられたが答えは用意されていたのでそれに沿って話す。
「ユーゴとは、ホニングス侯爵様の領地フォーレンの近くで出会いました。商売の為に馬車で移動中、ファングドッグ十数頭の群れに襲われていた時に助けられました。私を助けても何も要求せず、フォーレンに仕事を探しに行くところだと聞き護衛に雇いました。何せ見事な氷結魔法でして、ファングドッグを次々と追い払うんですからねぇ」
「そんなに見事だったのか」
「何て言うのでしょうか、氷の礫を次々と射ち出しては百発百中で、あっという間にファングドッグを追い払っていましたよ。暫くファーレンの私の店にいましたが、助けて貰った謝礼に金貨10枚を渡すと、王都に行って冒険者になると言い出しましてね。このまま手放すのは惜しいと思いまして、何か困った事があれば何時でも相談に来る様に言って送り出しました」
「つまり雇っている訳では無いのか?」
「宰相閣下、冒険者になろうと言う者ですよ、一時的には雇えますが忠誠を誓わせようなどとは無理でしょう。勿論望めば即座に高額で雇い入れますがね」
自分の所へ、ユーゴを紹介しろと様々な方面から圧力が掛かった時に、ユーゴと取り決めたでっち上げ話である。
これはホニングス公爵家の異変に王家が気付いても、自分やユーゴに疑いの目が向かない為のカモフラージュでもあった。
* * * * * * *
支配人に暫く帰らないからと告げて草原に行き、土魔法で岩に見せかけたドームを作る。
今回は魔法の威力と魔力の使用量の検証なので、25m付近に的を作り実験するのだが昼間は寝て過ごす。
陽もとっぷりと暮れて月が昇ると、月明かりの下で実験開始。
先ず何時もの様に1/73の魔力を使ってのアイスバレットからだが、標的に当たると〈ドカーン〉〈ドカーン〉といい音を立てて氷が砕ける。
五発射ってから1/73の魔力で氷塊を作ってみると、目の前に直径1m近い氷塊が浮かぶ。
〈ドスン〉と地響きを立てて地面に落ちた氷塊を見て失敗に、と言うか間違いに気付いた。
氷塊を作って始めて気付いたが、1/73の魔力量で作れる氷塊の大きさを確かめていなかった。
魔法が使えて練習が出来る嬉しさに、拳大の氷塊やアイスアロー作りに励む余り基本的な事を忘れていた。
試しに1m近い氷塊を作り、水平発射して見たところ50~60mは楽に飛んでいる。
それ以上は猫人族並みの視力をもってしても、月明かりでは正確に見えなかった。
氷塊を作る前の魔力を鑑定して48、氷塊を射ち出した後では46の魔力残の結果だ。
今までは、氷塊なりアイスランスを作ると射つを一つのものとして遣っていたが、個別にやれば威力は上がるが魔力の使用が倍になる。
今までは1/73分割して抜き取っていた魔力の使用量を減らし、同一魔法でどの程度魔力の使用を減らせるかの実験に切り替える。
ハティーやホウルに教えていた様に、使う魔法に必要な最低限の魔力量の確認だ。
結果として今まで魔力溜りから抜き取っていた魔力の一つを、少しだけ少なくするのは難しいので100分割することにする。
100分割した魔力でも魔法は過不足無く発動することが確認出来た。
調子に乗って110分割120分割と試してみたら、120分割では魔法が安定しない事が判明。
問題なく発動しても、次には立ち消えとかヘロヘロのバレットになったりするし、酷い時は発動すらしない。
魔法を使う上で100分割なら安心出来るので、100分割の魔力量を無意識にでもつまみ出せる様に練習する。
此まで73発だったストーンランスやアイスランスが100発射てる事になるし、治癒魔法や結界も魔力切れの心配が少なくなる。
練習していて思ったがミシェルの治療に使った魔力は1/5を心がけたが、実質3/10の魔力を使っていた様だ。
1/3近い魔力を一気に使えば脱力するはずだと納得。
魔力切れからの回復時間は約6時間、本格的に魔力切れをやり始めてから此の一年の成果は、魔力切れからの回復時間の短縮と魔法の使用回数が増えたこと。
自己鑑定では〔魔力・73〕のままだ。
ストーンランスとアイスランスの飛距離は、70m前後まではほぼ水平射撃が可能だが、それ以上になると重力に負けて高度が落ちる。
飛距離を稼ごうと思えば仰角射撃になるが、命中率が格段に落ちるので練習を放棄した。
* * * * * * *
十日ほど訓練をしてから王都に戻り、屋台の食事を楽しんだ後ホテルに戻る。
何やら渋い顔の支配人に迎えられて渡された依頼書の束、又増えているのだが問題が起きている様だ。
「ユーゴ様、依頼書を出された方々にはお言いつけ通り、依頼を受ける場合はユーゴ様が訪ねて行く事になっていると・・・」
「ごり押しかな」
「なんと申しますか、毎日ユーゴ様を尋ねて来られて迷惑しております」
「相手は?」
「オスロン・レトウィク伯爵様の使いの方です。お渡しした依頼書の中に名前が御座います」
手元の用紙をめくると、7枚の依頼書の中にその名を見つけた。
毎日来るって事は明日もやって来るだろうから脅しておくか。
「後は任せて、そのレトウィク伯爵の使いには俺から言い聞かせるよ」
翌朝食堂で朝食を取っていると、6人ほどの騎士達がやって来たよ。
横柄な態度でホテルに入るとカウンターに直行し「ユーゴとやらは未だ帰らないのか!」と銅鑼声で問いかける。
朝の食事の時間帯に無作法だなと思っていると「支配人を呼べ! 我等を何方様の使いだと思っている!」と騒ぎ出した。
これは確かに迷惑極まりないし、貴族の使いだと言って威張りすぎ。
食堂を見回していた騎士と目が合うと、怒鳴っている男に何事か告げている。
あ~ぁ、不幸は向こうからやってくるって言葉を思い出した。
「ふむ、その髪色と縞模様に目の色、ユーゴに間違いないな!」
上から目線の横柄な物言いに、返事をする気にもなれず黙って食事を続ける。
「隊長が尋ねているのだ! 返事をしろ!」
「食事中なのが見えないのか、他の客の迷惑だ静かにしろよ」
「ほう・・・冒険者風情が、我等は」
「レトウィク伯爵のお使いだろう。礼儀を弁えないと、ご主人様が恥を掻くよ」
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