第24話 旅立ち
ハリスン達との訓練の合間に王都へ戻り、ハリスン達と別れてコッコラ商会に行き会長と面談する。
最近は顔を見せると黙ってコッコラ会長の所へ案内してくれるので楽だ。
「なんと、代替わりですか?」
「ええ、四男が侯爵家を継ぐことになると思いますが、如何なる干渉も不要と伝えて相手も了承しました。口約束ですがね」
「まさか・・・侯爵様を」
黙って肩を竦めてると、コッコラ会長が大きな溜め息を吐く。
「時々寄らせて頂きますので、侯爵家の状況を教えて貰えませんか」
探る必要は無い、公式に判ることだけで良いと伝えて、コッコラ商会を後にした。
* * * * * * *
「痛てっ、痛たたた、待てまてまて。参った! ルッカスには勝てねえなぁ」
「よーし次は俺な、今度こそルッカスをボコボコにしてやる!」
激しく打ち合うルッカスとホウル、体中赤痣だらけのハリスンが俺の前に来て頭を下げる。
「ユーゴ、宜しく頼むよ」
「また派手にやられたね。ルッカスは頭一つ抜けているな」
「一番練習熱心な事もあるけど、長剣スキルを授かっているのも大きいんじゃないのか」
あんたにも、内緒で長剣スキルを貼付しているんだけどな。
他の二人にも長剣スキルを貼付しているのだけれど、授かっているという自信なのかな。
俺が魔法やスキルを貼付出来る事は教えていないので黙っているが、四人とも相当腕を上げているのは間違いないだろう。
ショートソードスキルってのが見当たらないので長剣スキルの貼付だけど結構自在に革袋を振り回している。
グロスタの治療が終わったらホウルがやって来る、此方も結構殴られて痛そうだ。
「いやー、ユーゴがいなきゃこんな訓練は無理だよ」
「だけどゴブリンの4、5頭なら、一人で殺れる自信が付いたよな」
「この間の、ホーンドッグの群れにも対応出来たしな」
「ショートソードの縛りが無けりゃ、もっと楽に対応出来るんだけどなぁ」
「とっさの時に、短槍をマジックポーチから取り出す暇なんて無いぞ。それに此は対人戦の訓練でもあるのだからな、長剣を模した木刀も楽に振り回せるだろう」
「ああ、ロングソードより握りが長くて扱い難いと思ったが、結構自在に振れるよな」
* * * * * * *
二月の半ばにコッコラ商会を訪れた時、ホニングス侯爵の後継者が爵位継承を認められたと教えられた。
新たなホニングス侯爵の名は〔シャリフ・ホニングス〕「ノルカ・ホニングス侯爵の不慮の死の後を継いだそうですよ」とコッコラ会長が小声で教えてくれた。
不慮の死には間違いないし、差し障りの無い様にそう発表したのかな。
その夜再びコッコラ商会の馬車に乗り貴族街の近くで降ろしてもらった。
寒風吹きすさぶ貴族街の街路は、人影も無くのんびり散歩気分で歩く。
今夜も衛兵達は暇そうだが挨拶は割愛して建物の正面までジャンプして、玄関ホール内の気配を探るが、人の気配は無し。
気配察知と転移魔法が有れば、家宅侵入も気楽な作業って感じだ。
分厚い絨毯を踏みしめて執務室の前まで来て、左右と向かいの部屋を探るが無人の様だ。
扉の前の護衛はしっかり見張っているが、隠形に魔力を乗せて姿を隠し静かに歩く俺にはまったく気付いていない。
室内には左右の壁際に四名と執務机の所に二人の気配が在る。
部屋の中央にジャンプして静かに執事の背後に立つ。
「シャリフ・ホニングス、侯爵家を継いだ様だから聞きたい事が有って来た」
執事の身体がピクンと撥ねて直立不動のまま冷や汗を流し、護衛達は剣を抜いたが俺の姿が見えない為に動けずにいる。
「誰も動くな。お待ちしておりました。領地には未だ帰っていませんのでウイラー・ホニングスの扱いについては今暫くお待ち願えますか」
「良いだろう。以前頼みと言ったのを覚えているか」
「はい『二つが成ったなら頼みが一つある』と申されましたね」
「当家に使えている魔法使い達と話がしたいのだが、風・水・火・土・雷・氷と治癒,結界,転移に空間収納と、それぞれ一番優秀な者を一人ずつ集めて貰えないか」
執事に命じて魔法使い達を執務室に呼び、壁際に一列に並んでもらった。
隠形を解除し当主と並んで立つ、覆面をした冒険者スタイルの俺を不思議そうに見ている。
シャリフが質問には包み隠さず答えよと命じたので、俺の質問にもすらすらと答えてもらえた。
治癒魔法で治せる病人の症状や数と、怪我人でもどの程度治せるのか。
魔力切れ寸前でも同じ様に治せるのかどうか等を詳しく聞く。
空間収納持ちには、どの程度の収納力が在るのか、授かって以後収納力は増えたのか等々。
魔力は増えるのか、増えるとの答えが返って来たが魔力切れを数十回経験してもストーンアローで一発か二発程度らしい。
それも人によりけりで、数十回どころか数百回経験しても増えなかった者もいると言われた。
ストーンジャベリンやアイスジャベリンを射つには、大量の魔力を必要とする為に滅多に撃つことは無いとも言った。
ホニングス侯爵家に仕える魔法使いは野獣討伐の経験の無い者ばかりだった。
待望の結界魔法持ちの結界魔法は、精々戸板1枚程度の大きさでハルバートや大槌程度の打撃には耐えられるが、ストーンランスには射ち抜かれると話した。
熱心に話を聞いている風を装いながら、(読み取り・記憶)〔結界魔法×15〕と足りなかった魔法の記憶に励んだ。
勿論最初の記憶は即座に自分に貼付し。〔土魔法・治癒魔法・空間収納・転移魔法・結界魔法・5/5〕となった。
此で全ての魔法を記憶しているので、削除と貼付を繰り返せば全ての魔法が使える事になった。
空間収納はマジックポーチとマジックバッグが有るので氷結魔法を外すかを悩んだが、時々転移や結界を外して氷結魔法で氷を大量に作り、空間収納に保存することで手を打った。
一度削除した魔法も、再度貼付すれば自由に使えるので良しとする。
魔法使い達に礼を言って下がらせると、シャリフにウイラー・ホニングスの追放が済んだら、王都のコッコラ商会の会長宛に〔全て終わった〕との一文を記した書状を送る様に頼んだ。
「邪魔したな、俺を探したりコッコラ商会に干渉しなければ二度と会うことは無いだろう」
それだけを告げて隠蔽スキルで姿を隠し、隣の部屋にジャンプしてから庭に跳び、ホニングス侯爵邸を後にした。
* * * * * * *
夜明けを待って朝市の屋台で朝食を取った後、コッコラ商会に出むいた。
「するとシャリフ・ホニングス侯爵から〔全て終わった〕との一文の書状が届けば、此の件は終わったと言う事ですか」
「そうです。ホニングス侯爵が領地に帰らなければ、最後の始末を付けられないのですが約束は守られるでしょう」
さもなくばウイラー・ホニングス男爵が侯爵位を狙って、シャリフを追い落としに掛かるのは目に見えてい。
そうで無くても、父ノルカ・ホニングスと結託して悪事を働き自分を蔑ろにしてきた一人なので、俺に示唆されなくても喜んで追放するだろう。
ウイラー・ホニングス男爵とその女房や二人の餓鬼エレノアとオルドも、男爵家の一員としての特権を使えず屈辱を味わう事になるだろう。
書状を受け取ったら、ホラード通りのベルリオホテルに居る俺宛に、全て終わったと伝言してくれる様に頼みコッコラ商会を後にした。
* * * * * * *
ベルリオホテルでハリスン達と合流し、そろそろ王都を離れるのでお別れだと告げる。
「何処へ行くつもりなんだい?」
「以前居た街で世話になった冒険者パーティーに会いたくてね。王都で会う約束をしていたんだけど、俺の到着が少し遅かった様なので他の街に移動したんだろう。そうなると稼げる獲物の多い所へ行ったと思うので、其処へ行こうと思っている」
「俺達も行っても良いかな。ユーゴとの約束が終わったのなら、俺達も無理して王都に居る必要が無いので」
「親兄弟は?」
「巣立ちの儀が終わって家を放り出された口だぜ、どのみち王都に帰る家は無いからね。ユーゴのお陰で在る程度の自信は付いたので、稼げるところに行くのは当たり前だろう」
「王都周辺では、冒険者が多すぎて獲物が少ないしね」
「冒険者になった時から、旅は憧れだから何処でも良いよ」
「男なら一度は旅をしろってね」
ハリスン達と冒険者ギルドに行き、延び延びになっていたパーティー登録をする。
〔王都の穀潰し〕と何とも巫山戯た名だが、家には置いて貰えない穀潰しだからこれで良いと自嘲気味に笑って登録していた。
冒険者ギルドで聞いた獲物の多い街とはダブリンズ領シエナラ、子爵領で三方を森と草原に囲まれていて、獲物が多いので冒険者達が集まる所だと聞いた。
王都から西に馬車で向かえば15~18日と極めて大雑把な距離で、一度は馬車旅をしてみたいと皆が言うので先に行かせた。
馬車旅は一度で懲りたので、王都から馬車で三日先の街アランドで落ち合う事にした。
三日で音を上げてなければ俺も馬車旅に付き合うと約束させられたが、奴等の柔な尻が耐えられるのか甚だ疑問だ。
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