エピローグ
89
【異世界】
レッドローズ王国で起きた不幸な事故。
巨大な岩に正面衝突したタクシー。モクモクと上がる黒煙。衝撃の凄まじさから、ボンネットは大破し、トランクは開いていた。数メートルあとを走っていた公用車の運転手がすぐさま運転席から降り、レッドローズ王国の警察に自動車事故が発生したと連絡した。
いつの間にかオーロラのように幾重にも光彩が重なり上空に上がっていたパープルの光は消えていた。
『こちらは救命救急ダイヤルです。自動車事故ですか? 場所は? 要救助者は何名ですか?』
公用車の運転手は恐る恐るタクシーに近付く。タクシーは大破しているが、人影はない。公用車の運転手は震える声で警察に告げた。
「要救助者は……消えました」
タクシーのトランクには黒いパンプスが片方だけ残されていた。
◇
―あれから一ヶ月―
パープル王国・トルマリン邸。
寝室には昏睡状態に陥ったままのタルマンとルリアンが眠っていた。意識はないが自発呼吸もでき、国王陛下の計らいでトルマリン邸には王立病院の医師と看護師が住み込み治療をしている。
「これはトーマス王太子殿下、ようこそいらっしゃいました」
「アクアマロン、トルマリンさんとルリアンはどうだ?」
「ご容体に変化はございません」
「ローザはどうなっている?」
「ローザさんはレッドローズ王国に行かれる前に、異国の医療チームと契約を交わされていまして、万が一事故に遭い昏睡状態に陥った場合、『コールドスリープ』とやらで眠らせて欲しいと申し込まれていたため、お約束通り、まだ研究段階ではありますが医療チームにより『コールドスリープ』とやらで、眠られています」
「そうか。まさかトルマリンさんのタクシーのトランクにローザが隠れていたとはな。しかも『コールドスリープ』とはなんだ。不老不死を手に入れ氷の女神にでもなるつもりか」
トーマス王太子殿下は冗談のつもりで言ったが、アクアマロンは真顔だった。
「そうかもしれませんね。私はローザさんの直属の部下ですから。私を造ったのはローザさんですから、指示に従うまでです」
「直属の部下? アクアマロンを造った? ローザは有能な秘書室長だったからね。ルル・アクアマロンも有能な秘書だよ」
「お褒めのお言葉、ありがとうございます」
トーマス王太子殿下はタルマンとルリアンが眠る寝室に入る。
「レッドローズ王国の事故で忽然と消えた二人が、まさか自宅の寝室に突如現れるとは。まるで魔法のようだよ。これはローザがかけた魔法か?」
「ローザさんは魔法使いではございません。きっとルリアン様の強い想いが通じ、このご自宅に戻られたのでしょう。この事故で婚約破棄などされませんよね? トーマス王太子殿下がルリアン様と婚約破棄されたら、このルル・アクアマロンが許しませぬ」
「アクアマロンはまるでローザみたいだな。ルリアンと最後に逢った夜、ルリアンの様子がおかしくて気になっていたんだ。まるで永遠の別れのようで……。その時、ふと思い出したんだ。トルマリンさんが昔記憶喪失になっていて、記憶を取り戻した直後に、ローザとの車中の会話を……。もしかしたらルリアンは異国から転移とやらをして来た女性ではないかと……」
(ルリアン・トルマリンは確かに私の知っているルリアンだったが、もしも異国から転移した魂がルリアンの心を支配していたとしたら……。ルリアンのあの夜の会話もルリアンの行動も全て納得がいく。)
トーマス王太子殿下はハイスクール時代に、タルマンが記憶を取り戻した日を回想した。
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