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「ドミニク殿下、いえ、叔父様、本日はトーマス王太子とルリアンさんの婚約を正式に承認するための会食です。マリリンの過去やトルマリン夫妻やルリアンさんの髪色で移民を卑下したような物言いは、トーマス王太子に無礼ですよ。マリリンの懐妊のことなら、叔父様に言われなくとも私が一番わかっております。私はそれが偽証だったとしても、マリリンと結婚したことを後悔しておりません」


「なんと、国王陛下は全て知った上でメイサ妃と離縁し、メイドだった王妃を選んだと申すのか。メイサ妃との離縁は考えてみれば正しい選択だったかもしれないが、トーマス王太子を王位継承者にしたのは果たして正しいことだったのかな? メイサ妃はサファイア公爵家にお戻りになられたそうではありませんか。トーマス王太子もサファイア公爵家にお戻りになられた方が幸せなのでは? パープル王国の王室なら、心配無用、トータス王子とダリアさんが継承してくれます」


 とても温厚で怒りを表に出さない国王陛下が、いきなりテーブルを叩いた。その振る舞いにマリリン王妃もトーマス王太子殿下も驚きを隠せない。


「ドミニク殿下、パープル王国の国王はこの私です。トーマス王太子の王位継承順位はすでに議会で認められていること。ドミニク殿下が何を申されても、トーマス王太子は私とメイサ妃の嫡男、トータス王子がダリアさんと御成婚されても、王位継承順位は変わりません。髪色で人を差別し、このパープル王国を移民の国などと愚弄されるドミニク殿下とその一族に、パープル王国の王位継承者となる資格はございません。移民であろうが、今はパープル王国の国民です。もしや、この私が何も知らないとでも? ドミニク殿下一族の欲にまみれた公務や土地建物に関する収賄、それこそが王位継承者として相応しくはございません。収賄罪で訴えられる前に、三人の王子の王位継承権を放棄して下さい」


「トム、それが叔父である私に言うことか! お前さえいなければ、兄のあとを継ぎ国王になるべき者は、この私であったのだぞ」


「叔父様、見苦しいですよ。あなたは私と弟が生まれたあと、王位継承権を放棄し公爵家となられた。それなのに再び王宮に戻り、トーマス王太子から王位継承権を剥奪しようと木論でいる。ドミニク殿下が何をされても、このパープル王国もこの私の立場も揺らぐことはございません」


 国王陛下の言葉に、着席していたダリアがスッと立ち上がる。


「王族は高貴な方だと尊敬申し上げていたのに、ガッカリですわ」


 トータス王子がダリアのかたを持つように口を開いた。


「そうですよね。ダリアさんの言われる通り、国王陛下やトーマス王太子にはガッカリですよね。この私が王位継承第一位となれるように、議会に働きかけます。ピンクダイヤモンド公爵令嬢と婚約すれば、議会も無視するわけにはいきますまい」


「トータス王子、ご冗談でしょう? 私がいつあなたとの婚約をお受けしました? 両親の手前、会食にお付き合いしただけです。偽証罪だの収賄罪だの、たいそう面白いものを見せていただきました。シルバーの髪色なら、みんな紳士や淑女とお思いですか。私は自分の結婚相手はお見合いではなく自分で決めます。バカバカしくて会食など付き合っていられませんわ。国王陛下、マリリン王妃、トーマス王太子殿下、ルリアンさん、御婚約おめでとうございます。それでは私はこれにて失礼致します」


「待って下さい。ダリアさん、ダリアさん」


 トータス王子は席を立ち、ダリアを追いかけた。ドミニク殿下は「公爵令嬢なら幾らでもおるわい」と強がったが、国王陛下を貶めるつもりが、逆に悪事を暴露され居づらくなった。


 メイドが入室し、会食の準備を始める。


「国王陛下、私どもはこれにて失礼致します。皆、帰るぞ」


「はい」


 ドミニク殿下一族は一斉に立ち上がる。

 ローザはそれを見てほくそ笑む。


「ドミニク殿下、皆様、もうお帰りですか? 先ほど王立警察の警視総監がお見えになり、ドミニク殿下を第一会議室でお待ちですよ」


「な、なんだと!」


 応接室の外には、王立警察官が数名待機していた。ドミニク殿下一族は警察官に同行を求められた。


 ローザはそれを見届け、応接室のドアを閉めた。


「それでは両家の会食を始めましょうか。席替えをして頂きます。トーマス王太子殿下はマリリン王妃の隣席へお座り下さい。国王陛下とマリリン王妃の前にトルマリン夫妻はお座り下さい。ルリアンさんはトーマス王太子殿下の前に」


「はい」


 トーマス王太子殿下はローザの言葉に素直に従った。


「ローザ、ドミニク殿下一族の欲にまみれた公務や土地建物に関する収賄疑惑の証拠を調べてくれてありがとう。王立警察を呼んだのもローザなのだろう」

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