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悪戯っ子みたいな笑みを浮かべるトーマス王太子殿下。二人で一階の会議室に降り、ルリアンはドアを遠慮がちにノックした。
「はい。どなた? 本日と明日は第二会議室は貸し切りです。立ち入ることは許しませんよ」
ローザの厳しい口調に、両親の存在を隠してくれている気遣いが伝わる。
「ルリアン・トルマリンです」
「おや、ルリアンさんですか。お入りなさい」
ドアを開けると会議室のテーブルが長方形になるように長く並べられ、椅子も間隔を開けて、王室のダイニングテーブルと同じ配置にしてあった。
両親はまだ椅子にも座っていない。まるで悪戯をして廊下に立たされた小学生のように直立不動だ。
「ルリアン……」
タルマンもナターリアもまだ何もしてないのにすでにガチガチで泣きそうだ。
「ルリアンさん、どうされました?」
「実は……トーマス王太子殿下が両親に挨拶をしたいと仰られ、会議室に……」
「ト、トーマス王太子殿下!!」
ナターリアはその名を聞いただけで、思わず
「やだ。母さん、しっかりして。トーマス王太子殿下、どうぞお入り下さい」
ルリアンはトーマス王太子殿下が入室すると直ぐに会議室のドアを閉めた。
「トルマリンさん、私はトーマスです。ご挨拶が遅くなり申し訳ありませんでした。私はお嬢さんのルリアンさんとハイスクールの頃から交際をしています。この度はご両親の了承も得ず、ルリアンさんと正式に婚約をしたいと国王陛下に申しました。国王陛下は私とルリアンさんの交際を認めて下さいました。国王陛下や王妃もご公務で忙しいため、急で申し訳ありませんが、明後日、両家で顔合わせをすることになりました。会食といっても形式的なものです。御父様も御母様も緊張なさらずリラックスして下さい」
「御父様……御母様……」
トーマス王太子殿下がナターリアに近付き、両手で握手をすると、ナターリアは目をぐるぐるさせてその場にひっくり返った。
「やだ、母さん! 母さん! トーマス王太子殿下、だから言ったではありませんか」
「すまない。でも私如きで気絶をしていたら、国王陛下や王妃に逢ったらどうなるんだ? ルリアン、御母様は大丈夫かな」
トーマス王太子殿下は心配そうにナターリアを抱き上げた。タルマンは驚き、ナターリアをトーマス王太子殿下から奪い返す。
(義父さん……何をやってんだか。ここはヤキモチ妬くとこじゃないでしょうに。)
「おやまあ、これは重症だこと。困りましたね。トーマス王太子殿下と握手しただけで気絶とは。まだ国王陛下へのご挨拶の練習しかしていませんのに。タルマンさん、ナターリアさんは過度の緊張性のようです。王太子殿下から、いきなり娘との交際宣言をされたら、まあ無理もありませんが。タルマンさんに全てがかかっています。いいですね。このミッションをクリア出来なければ、戻れませんよ。死ぬ気で特訓しなさい」
「わかってます。ナターリアのフォローは私がやります! ルリアン、任せとけ。トーマス王太子殿下、ルリアンを宜しくお願いします。何があってもルリアンをお妃に迎えると約束して下さい!」
「はい。あの……トルマリンさん大丈夫ですか? 目が血走ってますけど」
「義父さん、そんなに力まないで」
ルリアンはローザの『このミッションをクリア出来なければ、戻れませんよ。死ぬ気で特訓しなさい』という強い言葉や『何があってもルリアンをお妃に迎えると約束して下さい!』というタルマンの言葉が何を意味しているのかわかっていたが、トーマス王太子殿下にはまだ言えなかった。
「トーマス王太子殿下、そろそろ時間です。もう部屋に戻りましょう。義父さん、母さんを頼んだからね。ちゃんとローザさんから教わったことを忘れないでよ」
「忘れるもんか。絶対に完璧にマスターして、自慢の娘を国王陛下に認めてもらうんだからな」
「自慢の……。あはっ、マナーだけ学べばいいから。余計なことは話さないで。では、ローザさん、両親のこと宜しくお願いします」
「畏まりました」
「ローザ、私が必要ならまた来るよ。見慣れた方がいいだろう?」
「もう、トーマス王太子殿下、ローザさんの邪魔しないで。さあ、行きますよ」
「邪魔とはなんだ。邪魔とは。私は仮にも王太子殿下だよ」
「はいはい。わかりました、わかりました」
ルリアンは「クスクス」笑っているローザに背を向けて、トーマス王太子殿下の背中を押して会議室から出た。
トーマス王太子殿下と二人で王宮のエレベーターに乗り込む。
「もう全然ダメだわ。トーマス王太子殿下申し訳ありません」
「ルリアンが謝ることはないよ。それよりローザの言葉が妙に引っかかる。『このミッションをクリア出来なければ、戻れませんよ。死ぬ気で特訓しなさい』の『戻れませんよ』とは、どう言う意味だ?」
(……っ、そこはスルーするところだよ。ツッコまないで。)
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