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「マリリン王妃は確かにお怒りだったが、国王陛下は私達の交際を認めてくれたんだ。『結婚に家柄は関係ありません』と、マリリン王妃に言ってくれたんだよ。ルリアン、嬉しくないのか? 私達は堂々と交際できるんだよ。国王陛下はルリアンのご両親と一緒に会食しようと言って下さった」
「私の両親と国王陛下と王妃が会食ですって!? ム、ムリムリ、今の義父さんには絶対ムリ」
「今の義父さん? 実父が見つかったのか?」
「そうじゃなくて……。ほら、両親はテーブルマナーなんて知らないから。うちは大皿にちょっとだけ盛り付けた粗末な料理を家族で奪い合うんだから」
トーマス王太子殿下は『家族で奪い合う』と聞き楽しそうに笑っている。どうやら会食の回避は難しいようだとルリアンは悟り冷や汗が出る。
「ルリアン、テーブルマナーなんて気にしなくていいんだよ。顔合わせがすんだら、私達は正式に婚約できるんだ。国内外に婚約を発表するなら早い方がいいと思うんだ。トータス王子が婚約発表する前にね」
「トータス王子が婚約発表? トーマス王太子殿下、それはどういうことですか?」
トーマス王太子殿下は自分が『クリスタル』に戻ることが交換条件だとは、ルリアンには敢えて言わなかった。ルリアンに言えば、反対すると思ったからだ。
「実はトータス王子とダリアさんの婚約が整いつつある。ピンクダイヤモンド公爵家なら家柄は申し分ない。ダリアさんは結婚を解消したばかりだが、ピンクダイヤモンド公爵夫妻は王族との結婚に乗り気だそうだ」
「ダリアさんはトーマス王太子殿下の婚約者候補でしたよね? 私がそれを邪魔したから……ダリアさんは……」
「何言ってるんだよ。あれはマリリン王妃が勝手に勧めたことだ。私の意思ではない。だから婚約を断った。ルリアン、会食の日取りは国王陛下と王妃の都合を優先してもいいかな? ご両親にはこちらの都合に合わせて欲しい。できるだけ早い時期にしたいんだ。国王陛下と王妃のスケジュールをローザに確認して連絡するよ」
「ま、待って……。本当に私でいいの? それより会食することで、逆に幻滅されて国王陛下や王妃が反対しない?」
「そんなことはさせないよ。正式に婚約したら、秘書もしなくていいんだよ」
「秘書も……」
トーマス王太子殿下はルリアンを抱き締めた。
(昨日義父さんが私を迎えに来た。私はいつか現世に戻る身だ。でもこの異世界にルリアン・トルマリンもタルマン・トルマリンも存在している。私はルリアンの体を借りているに過ぎない。ルリアンにメイサ妃みたいな悲しい恋をして欲しくない。現世に戻る前に、私はルリアンとトーマス王太子殿下の婚約をちゃんと整えて、それから義父さんと現世に戻る。)
「トーマス王太子殿下、わかりました。私のような身分の者を受け入れて下さった国王陛下に感謝申し上げます。両親にも会食の話はしておきます。会食よりお茶会くらいの方が義父のボロが出なくていいのですが、やはり会食でないとダメでしょうか?」
「婚約の話だからね。申し訳ないが宜しく頼む」
(ですよね……。お茶会でもムリなのに。会食なんてハードルが高すぎる。まだ本物のタルマン・トルマリンならテーブルマナーの練習をすれば何とかなったかもしれないが、今のタルマンは現世から来た義父さんなんだよ。ああ、頭痛がしてきた。前途多難だ。)
トントンとドアがノックされ、スポロンがトーマス王太子殿下を迎えに来た。
「トーマス王太子殿下、準備は整いましたか? お車が待っています」
「もうそんな時間か。スポロン、今すぐ着替えるよ。ケビン伯爵夫妻との会食用のスーツとオーケストラ鑑賞用のスーツはメイドに準備させてくれ」
「畏まりました。それでは博物館の開館式はこの濃いパープルのスーツに、パープルとホワイトのストライプのネクタイで。革靴はこちらをお履き下さい」
スポロンは手慣れた様子でスーツやネクタイ、靴に至るまで瞬時に選んだ。その場にどの服装が相応しいのかよくわかっているようだった。
新人秘書のルリアンよりも、長年連れ添った夫婦のように、トーマス王太子殿下の好みも衣装の組み合わせも頭の中に入っている。
(さすが執事だな。トーマス王太子殿下が信頼を寄せているはずだ。これなら秘書なんていらないね。)
「ルリアンさんはトーマス王太子殿下の専属秘書ですから、制服のまま同行して下さい。ご公務の間は目立たないように控えるように」
「はい」
「スポロン、ルリアンをオーケストラの鑑賞に同行させても構わないか? 正装させて」
「金髪のウイッグに赤いドレスだなんて、もう言わないで下さいよ。これはご公務です。公爵家や伯爵家も招待され、一般の国民もおりますゆえ、お戯れはやめて下さい」
「それなんだけど。メモリー・ダイヤモンドの正体は昨晩のディナーで国王陛下にバレたから」
平気な顔で頷くスポロン。
「さようですか。はあ? 国王陛下にバレた!? もう知られたのですか? まさかルリアンさんだと白状されたのですか? ああ、なんということを……。私も同罪です。解雇かも……」
スポロンは両手で頭を抱え込んだ。
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