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「国王陛下、マリリン王妃、私は嘘をついておりました。申し訳ございません。昨夜一緒に過ごした女性はレッドローズ王国のダイヤモンド公爵家の遠縁ではございません。彼女に赤いドレスや赤いハイヒールをプレゼントしてくれたのは、私の生母です。彼女に金髪のウイッグを強要したのは変装しパパラッチから身を守るためでございます」
「その女性はレッドローズ王国の公爵令嬢ではないというのですか。金髪のウイッグとは……」
「はい。マリリン王妃はトリビア・カルローを使って彼女を尾行したのですね。もしや、私の部屋に盗聴器を仕掛けたのもトリビア・カルローですか。全てマリリン王妃の指示なのでしょう。トリビアはポール・キャンデラの事件を不問とされ、その弱味もあり、マリリン王妃の命令には逆らえないのでしょう」
マリリン王妃はトーマス王太子殿下の推測を強く否定した。
「トーマス王太子、国王陛下の前で憶測でものを言わないで下さい。私は仮にもトーマス王太子の義母なのですよ。王妃が王太子を心配して何が悪いのです。今まで危険な目に何度も遭っているのです。盗聴器も王宮の防犯カメラも不審者や強盗から王族の身を守るためです」
マリリン王妃は明らかに開き直っている。トーマス王太子殿下とマリリン王妃の話を黙って聞いていた国王陛下が静かに口を開いた。
「マリリン、そなたは幼いトーマス王子を我が子のように慈しみ育ててくれました。マリリンのトーマス王太子に対する深い愛情は私が誰よりもよくわかっています。ですが、トリビア・カルローを使いトーマス王太子の部屋に盗聴器を仕掛けたり、メモリー・ダイヤモンド嬢を尾行するとは、私も行き過ぎた行為だと思いますよ。マリリンが義母であろうが、生母であろうが、そんなことは母親のすることではありません」
「国王陛下……。私はパープル王国の王位継承者としてトーマス王太子に自覚して欲しいのです。青年王族としての大人の行動を取って欲しいのです」
「わかっています。マリリンのトーマス王太子を思う気持ちは理解しています。ですが、王族にもプライバシーはあります。私達のプライベートルームに盗聴器や盗撮カメラがあればそれは犯罪行為ですよ。トーマス、メモリー・ダイヤモンドは架空の人物だと認めるんだね。だから変装をさせた。それはローザの指示ですか? ローザならば身の安全を守るために、そのようなこともやりかねない。メモリーの正体はトーマスの秘書、ルリアン・トルマリン。郊外のドライブインにいたのは父親のタルマン・トルマリンといったところかな。きっとルリアンさんが赤いドレスを着替えたかったのでしょう。もちろんこれは私の推測ですが」
国王陛下はトーマス王太子殿下を見つめて、優しく微笑んだ。全てお見通しの国王陛下にトーマス王太子殿下は脱帽だった。
「国王陛下、その通りです」
「トーマスの秘書にルリアンさんが就任した時から、二人の関係は薄々気付いていました。まさかハイスクールの時からずっと交際が続いていたとは。トーマスの長期留学でも破局しないほど、二人は強い絆で結ばれていたのですね。マリリン、私はさきほど『結婚に家柄は関係ありません』と申しました。マリリンを家柄で差別したことは一度もありません。ただマリリンが周囲からそのような偏見を受けていたとしたら、マリリンを庇いきれなかった私を許して下さい」
国王陛下に謝罪され、マリリン王妃は慌てている。まさかそのような話になるとは思っていなかったからだ。
「国王陛下、そのようなことは……。私のような者を王妃にして下さり感謝しかありません」
「マリリン、ドミニク一族が王位継承を目論んでいることも薄々わかっています。特にトータス王子はしたたかな王子だ。きっとダリアさんとの婚約を強行し、国民を味方につけるつもりだろう。もしかしたら、私やトーマスの秘密もすでに調べて知っているのかもしれません。そうだとしても、このパープル王国の王位継承第一位はトーマス王太子です。そのトーマスが長きに渡り愛を育んだ女性を、家柄を理由にこの私がどうして引き裂くことが出来るでしょうか。誰が反対しようと、私は二人を応援します。トーマス、今度ルリアンさんのご家族と一緒に食事の席を設けよう」
「国王陛下、宜しいのですか?」
「もちろんです。私はメイサ妃からトーマスを預かり育ててきました。トーマスの意思を尊重します」
「ありがとうございます。きっとルリアンも喜びます」
「その代わり、正式に婚約するとなると、国内外にも発表しなければなりません。ずっと先延ばしにしてきたことだが、ブラックオパールからクリスタルに戻ってはくれないか。ドミニク一族も国民もそのことは重視するはずだ。メイサ妃の再婚相手も婿入りし、サファイア公爵の後継者となられるとの報告を受けた。今までは特例承認だったが、トーマスが新たにサファイアを名乗ることを議会は承認しないだろう。クリスタルに戻るべきだ」
ルリアンと正式に婚約するためには、王族としてのケジメをつけるということ。愛する母のためにサファイア公爵家への婿入りを決意したレイモンド・ブラックオパールの思いがどれほどのものだったのか、トーマス王太子殿下は自分の身に置き換え、やっと理解できた。
国王陛下もまた、その話をメイサ妃から聞き、トーマス王太子殿下をクリスタルに戻すと強く決めていたのだ。
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