56
―王宮―
午後六時過ぎ、メイドや執事を室内から引き払い、国王陛下は王妃とトーマス王太子殿下と三人でディナーをしていた。テーブルの上にはレッドローズ王国の赤ワインがグラスに注がれていた。
「トーマス、休暇は楽しめたようだね。サファイア公爵家の皆さんはお元気でしたか?」
「はい。サファイア公爵家への訪問を許可して下さりありがとうございました。数年ぶりに弟にも逢え楽しい時間を過ごせました」
「それはよかった。本来ならば堂々と訪問させてやりたかったが、トーマスはもう我が国の王太子だ。生母に逢うことに反発する王族もいるだろう。マスコミ対策のため、極秘の訪問となり申し訳なかったが、無事に帰国してくれてホッとしたよ。もしかしたらトーマスはもう王室には戻らないかもしれないと不安だった。だから何年もメイサ妃から遠ざけてしまった。メイサ妃にもご家族にもトーマスにも寂しい思いをさせた」
国王陛下の優しい言葉に、マリリン王妃がワインを口にし言葉を発した。
「レッドローズ王国の特産の赤ワインは私にもたいそう懐かしい味ですが、私はパープル王国の赤ワインの方が口に合います。それよりもサファイア公爵家の訪問をお許しになるなんて国王陛下はお優し過ぎるのでは? 今、王室は王位争いの
「マリリン王妃、誰からそれを?」
「トータス王子ですよ。昨夜赤いドレスの美女とご一緒だったとか? トーマス王太子も青年王族ですから女性の一人や二人いても不思議はございませんが、レッドローズ王国というのが気になります。しかもダイヤモンド公爵家の遠縁とは、これはサファイア公爵家の差し金でしょうか?」
「告げ口をしたのはトータス王子ですか。ペラペラペラペラ口が軽い男だ。彼女はメモリー・ダイヤモンドです。サファイア公爵家の差し金などとは、生母に対する冒涜ですか?」
「冒涜ですって? 私はトーマス王太子のことを思って言っているのです。国王陛下はどう思われているのですか。国民はトーマス王太子がパープル王国の公爵令嬢とご成婚されることを願っているのですよ」
「マリリン落ち着きなさい。せっかくトーマス王太子と食事しているのです。今はその話はよいではありませんか。私はマリリンと結婚しました。結婚に家柄は関係ありません」
マリリン王妃は怒ったようにナイフとフォークを置いた。
「それが嫌なのです。国王陛下は家柄は関係ないと言いながら、本当はメイサ妃のことを今も愛しているのでしょう。私は貧しい家柄出身だからこそ、トーマス王太子には公爵令嬢とご成婚して欲しいのです」
その時、ドアがノックされマリリン王妃の元侍女であり、現在は秘書をしているトリビア・カルローが入室し、マリリン王妃の耳元で何やら囁いた。
「トリビア、知らせてくれてありがとう。これでトーマス王太子も目が覚めるでしょう。もう下がってよいですよ」
「はい。国王陛下、王太子殿下、食事中失礼致しました」
トリビアは国王陛下と王太子殿下に深々と頭を下げて退室した。
「マリリン、どうしたのだ?」
「国王陛下、メモリー・ダイヤモンドは下品極まりない女性です。トーマス王太子と一夜を過ごしながら、親子ほどの年齢差があるタクシー運転手と郊外のドライブインに入ったそうです。二時間休憩し、着替えて再びタクシー運転手と王都方面に消えたそうですよ。なんとはしたない。メモリー・ダイヤモンドという名は偽名ではありませんか? 調べればすぐにわかることです。トーマス王太子は女性を知らなすぎるのです。あの女性に騙されていたのですよ。金目当てか、あわよくばお妃にでもなれるとでも思ったのかしら。なんと浅はかな女性だこと。そのような女性とはお別れなさい」
マリリン王妃は勝ち誇ったように高笑いした。トーマス王太子殿下はメモリーの素性が直ぐにバレてしまったことで、逆に吹っ切れた。ルリアンには申し訳ないが、これ以上国王陛下を騙すことは出来なかったし、いつになく攻撃的な発言をするマリリン王妃の態度に、怒りにも似た苛立ちを覚えた。
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