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「すみません。トルマリンさん、もう少しルリアンと二人で休日を過ごさせていただけますか。これからの話もしたいですし、ルリアンはちょうど変装してますしね」
「ちょっと待ったあ! 私の娘を……夜のお相手に……」
「愛しています。それではお疲れ様でした。おやすみなさい」
『愛してます』でトドメをさされたタルマンは、固まって動けない。ルリアンは『夜のお相手』とタルマンに言われ、恥ずかしくて仕方がない。
個人タクシーのドアはスポロンにより開かれた。トーマス王太子殿下は金髪のウイッグをつけた赤いドレスのルリアンに手を差し伸べる。
「義父さん、母さんには言わないでね」
「わかってるよ。口が裂けても言えるわけがない。これは口止め料に貰っておく」
タルマンは助手席に置いた金髪のウイッグを再び被り、「ふん」と鼻を鳴らした。ルリアンは呆れて小さなため息を吐いた。
「トーマス王太子殿下、本当に大丈夫ですか?」
「平気だよ。堂々としてろ。スポロン、トルマリンさんに給金をお支払いして。明日一日、メイドは私の部屋には入れないでくれ。明日は休暇の最終日だからね」
「はい。畏まりました。では、トルマリンさんは事務室にお越し下さい。メイサ妃からいただいた赤ワインと白ワインを数本奥様にどうぞお土産にお持ち帰り下さい」
「大事な娘と引き換えに、赤ワインと白ワイン数本で誤魔化すとは。スポロンさんも極悪人ですね」
「やだ、義父さん! スポロンさんに極悪人とは何よ。バカバカ、スポロンさんに謝罪して」
「謝罪はしない。ルリアンは私の娘だからな」
(ていうか、義理の娘ですけど。向きになる義父さんが、だんだん本当の父さんに思えてくるから不思議だ。)
スポロンはタルマンの言葉をスルーし、スタスタと事務室に向かう。タルマンもふて腐れたままスポロンの後に続いた。
トーマス王太子殿下はルリアンと一緒に王族専用のエレベーターを待つ。ルリアンは緊張のあまり顔を上げることができない。
王族専用のエレベーターの扉が目の前で開き、トータス王子が降りた。
「これはこれはトーマス王太子殿下、三日間ご公務を休まれ、休暇を取られていると伺いましたが、まさかこのような美しいご令嬢とご一緒とは。驚きましたね。どちらの公爵令嬢ですか? 金髪に赤いドレス、赤いハイヒール。まさかレッドローズ王国の公爵令嬢ですか? 血は争えませんね。女性の好みは国王陛下と同じとは」
「トータス王子、国王陛下や私の生母をバカにしているのですか? それは侮辱罪ですよ」
トータス王子は口角を引き上げる。
「とんでもない。令嬢のあまりの美しさに目が眩んだほどです。よろしければ令嬢のお名前を教えて下さいませんか?」
「トータス王子に教える必要はない。それよりこんなに遅い時間に、別宅の王宮ではなくこちらにお越しとは。何か急用でも?」
「国王陛下や王妃に良き縁談はないかと、ご相談していた次第です。私は王位継承第二位ですからね。何人か公爵令嬢や伯爵令嬢のお見合い写真を見せていただきました。でもトーマス王太子殿下にそのような恋人がいらっしゃるとは、初耳でした。今夜はトーマス王太子殿下の部屋にお泊まりですか? これは羨ましい限りですね」
トーマス王太子殿下はルリアンを自分の体で隠し、王族専用のエレベーターに乗り込んだ。
「トータス王子、ちょっと失礼します」
ローザがすかさずエレベーターに乗り込み、トータス王子は仕方なくその場を立ち去る。ローザは今では国王陛下の秘書を務めているため、この王宮では絶大な力を持っていたからだ。
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