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 ◇◇


 (愛されたいと願うココロ。

 愛されたいと願うカラダ。


 『結婚』出来なくてもいいなんて、そんなのは綺麗ごとだ。愛する人と一緒になりたいと願うことは、自然の成り行き。


『愛してるよ、亜子』


『わかってる』


『こいつ、生意気だな』


 昂幸に愛されているという実感は、カラダで感じているから。


『殿方を知らないお姫様。もっと声を聞かせて』


『……いじわるね』


 意地悪な狼は容赦なく私のカラダを攻める。


 欲するままに……。

 二人のカラダは愛に溺れた。)


 ◇◇


「アコさん、おはようございます。素敵な夢でも見ていられたのですか? 幸せそうな寝顔でした」


「えっ……。やだ、私ったら、あんな夢を見るなんて……。昨晩飲み過ぎましたね」


「あんな夢とは? ちょっとエッチな夢ですか? 年頃ですもの。男も女も恋する夢は見ますよ。夢の中では、あなたはアコさん、恋人のタカユキさんに逢えてよかったですね」


「……っ、ローザさん!? どうして私の部屋に? どうして私の夢の話を? 夢を覗き見したのですか? やだあ、恥ずかしい」


 ルリアンは毛布を頭からすっぽり被り顔を隠す。


「私に他人の夢を覗くなんて、そんな特殊能力はございません。ルリアンさん、昨夜、ご自分は夢の中ではアコで恋人はタカユキだとトーマス王太子殿下に話されたそうですね」


「わ、私がトーマス王太子殿下にそんなバカげた話を? トーマス王太子殿下がいらしたのですか? やだ、それすら覚えてないわ。ローザさん、それは酔っていたからです。私、昨夜のことを本当に覚えていないのです。メイサ妃と赤ワインを飲みながら何か大事な話をしたような気がするのですが、私、メイサ妃に何か失礼なことを言いませんでしたか?」


「はい。ズバズバ話されてましたよ。メイサ妃も酔われていましたからね。昨晩のことは覚えてらっしゃらないかも。ルリアンさんはトーマス王太子殿下に、タカユキという人物はトーマス王太子殿下と瓜二つだと仰られたそうです。トーマス王太子殿下は嫉妬されていましたよ。夢の中の恋人に」


「私、悪酔いしたようです。どうしよう……。トーマス王太子殿下にも失礼なことを……」


「本当にメイサ妃に問われたことを覚えてないのですか?」


「……はい。申し訳ありません」


 ローザは小さなため息を吐き、ルリアンを見つめた。


「何という酒癖の悪さ。ですが、これだけは忠告して差し上げます。一人で何もかも抱え込んでいると、自分の心が壊れてしまいますよ。私は以前、不思議な体験をした殿方を二人知っております。もしもあなたがルリアンさんではなく、アコさんであるなら、私にも何か力になれるかもしれません」


 ルリアンの目から涙が溢れた。ローザはルリアンを優しく抱き締めた。


「泣きたいだけ泣きなさい。あなたは誰なのですか?」


「私はルリアン・トルマリン。亜子ではありません。亜子なんかじゃない。亜子なんかじゃない。亜子はきっともう死んだのよ」


「……そうですか。トルマリンさんもご主人様もおかわりなく過ごされています。あなたは一人でここに来られたのですね。私はあなたの味方ですよ。ルリアンさんであろうが、アコさんであろうが、あなたはあなたなのですから。神は時にわけのわからない悪戯をされるようです。ですが、必ずあなたの魂は夢の世界に戻れる日が訪れるでしょう」


「ローザさん、本当にそうでしょうか?」


「実は昨晩メイサ妃がこう仰られていました。『トルマリンさんが別人ならば、レイモンドも別人のようです。歳を重ねると人は性格も変わるのかもしれませんし、大事故を経験し二度も昏睡状態に陥ったのですから、元通りにはならなくて当然です。生きていること自体が奇跡なのですから』と。メイサ妃は現実を肯定されています。あなたに奇跡が起きるまで、トーマス王太子殿下の愛情を信じなさい。それがこの世界で生きるすべでございます」


「それがこの世界で生きるすべ……」


「情緒不安定なのは、夢の中の恋人だけではなく、トーマス王太子殿下のことも慕われているからでしょう。その感情は素直に認められればよいのです。そうそう昔キダニという人からこっそり教わったのですが『郷に入っては郷に従え』という諺があるそうですよ。私にはよく意味はわかりませんでしたけどね。豪快に笑う方でしたねえ」


 ローザは遠回しに『キダニ』という名前と義父の口癖である諺を口にした。


 ルリアンはローザの言葉を聞き、昂幸を裏切っている自分が心苦しくて堪らなかったが、トーマス王太子殿下のことを慕う気持ちも素直に認めればいいのだと想うと、心が軽くなった気がした。

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