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トーマス王太子殿下とスポロンが話し合っている最中に、応接室の電話が鳴った。
ルリアンだと思ったトーマス王太子殿下は直ぐさま受話器を取る。だが、その電話は国王陛下からの直伝だった。
「これは国王陛下、どうされたのですか? 私の休暇のことで何か不都合でも?」
「トーマスも長きにわたりメイサ妃と逢っていないだろう。サファイア公爵夫妻もご高齢になられた。久しぶりに孫の顔も見たいに違いない。ローザと護衛をつけるなら、サファイア公爵邸を訪問することは許可する。先ほど警備員より報告があった。その結果、盗撮用カメラは発見されなかったが、応接室のテーブルの下と花籠の中から盗聴器が発見されたそうだな。念のため王宮内の全室の点検を命じたところだ」
「そうですか。実は花籠は先日ピンクダイヤモンド公爵令嬢のダリアさんが私の部屋に持ち込んだ物だったそうです」
「ダリアさんが?」
「はい。ですが、ダリアさんは婚約されていて挙式の日取りも決まっているため、スポロンは他者が花籠に忍ばせたのではないかと予測しています。もしかしたらドミニク殿下一族と何ら拘わりがある者の仕業かもしれませんね」
「トーマス、実は他でもない。ピンクダイヤモンド公爵家とマティーニ公爵家の結婚が破談になったそうだ」
「破談? なぜです? 挙式は来月だったはずでは?」
「ジョニー・マティーニ令息に愛人がいたそうだ」
「あのジョニーさんに愛人ですか? ですが、公爵家ではよくある話では?」
由緒あるマティーニ公爵家、ジョニーは嫡男であり生まれながらのサラブレッド。誠実な方だと思われていたが、まさか挙式直前に愛人が発覚するとは。でもダリアなら、婚約者に愛人の一人や二人いても、結婚の障害になるとは思えなかった。ダリアはピンクダイヤモンド公爵家の繁栄を一番に考えている女性だからだ。
「その愛人に子が出来たそうだ」
「子……ですか」
「愛人はまだカレッジスクールの学生で、自分よりも先に愛人に子が出来てしまったことが、ダリアさんのプライドを深く傷つけたようだ。ジョニーさんもその愛人を正妻として迎えることになったらしい」
「そうですか……」
まるで国王陛下と実母とマリリン王妃のようだと、トーマス王太子殿下は複雑な気持ちだった。
「ピンクダイヤモンド公爵家とマティーニ公爵家のご縁もこれで白紙になった。電話したのはそれを伝えたかったからだ。盗聴器の件もある。食事をまだしてないなら、家族で一緒に食事をしながら今後のことを話さないか?」
トーマス王太子殿下は『家族』という言葉に敏感に反応してしまった。国王陛下は父として尊敬はしているが、マリリン王妃だけは好きにはなれなかったからだ。今回の盗聴器はダリアやドミニク殿下一族よりも、他国より取り寄せた防犯カメラを王宮に設置したマリリン王妃が一番疑わしいと疑念を抱いていた。
全ては強盗や不審者に対する対策ではなく、トーマス王太子殿下とルリアンの動向を見張るためだと勘ぐっていたからだ。
「申し訳ございません。マリリン王妃はダリアさんととても親しくされていました。私とのことも再び蒸し返されるやもしれません。本日は申し訳ございませんが、会食はご遠慮申し上げます。明日の準備もありますので」
「そうか、パープル王国の名産品をローザにお土産に持たせるゆえ、メイサ妃に宜しく伝えてくれ」
「国王陛下、お気遣いありがとうございます。母もきっと喜ぶと思います」
「トーマス、無事に王宮に戻ってきてくれ。その時は家族で食事をしよう」
「はい」
トーマス王太子殿下は国王陛下との電話を切り、スポロンにピンクダイヤモンド公爵家とマティーニ公爵家の結婚が破談になったことを伝えた。
「あの花籠を持ってこられた時に、もしかしたらダリアさんは全てご存知だったのかもしれませんね。破談になればトーマス王太子殿下との縁談も可能であると考えられたのでしょうか」
「それはないだろう。ハイスクールの頃から私がルリアンと交際していたことは知っていたはず。私はダリアさんに婚約の話はお断りしたのだから」
「女性の心は雲のように掴めません。雲は時には純白の綿毛のようにも見え、時には黒い悪魔のようにもなります。気位の高いダリアさんがどれほど傷つかれたか。マティーニ公爵家よりも高貴な方を結婚相手に選ぼうと考えられることでしょう。マリリン王妃のお考えはわかりませんけどね。挙式前に破談にされた女性をトーマス王太子殿下のお妃には選ばれないと思われますが、パープル王国でピンクダイヤモンド公爵家より由緒ある家系の公爵令嬢はいらっしゃらないでしょうからね」
「スポロン、私のお妃はすでに決まっている。そのような話は無用だ」
「これはご無礼致しました。ただ心配なのは、ダリアさんがトータス王子とのご婚約を望まれた場合、国民がどう捉えるかです」
「国民がルリアンよりも、ダリアさんとの婚約を祝福すると言いたいのか」
「申し訳ございません。トーマス王太子殿下が身分の差を気にされないことは理解しておりますが、国民の真意はどうなのか計り知れません」
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