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 緊張した面持ちで室内に入ったローザとルリアンに、国王陛下はソファーに座るように命じた。


 国王陛下の話では、昨夜ドミニク殿下が訪れ、嫡男であるアラン殿下や三人の王子にも執事と秘書をつけたいとの申し出があった。


 国王陛下にすればドミニク殿下は叔父にあたり、アラン殿下は従兄にあたる。アラン殿下は一時的に王室を離脱した時点で、王位継承権を放棄してはいるが、王室に戻ったことで三人の王子には王位継承権を与えるようにと要望した。


 国王陛下とマリリン王妃にはトーマス王太子殿下しか子はいないため、三人の王子に王族として復帰させ王位継承権を与えることは国王陛下の意思だけではなく、政治の議会で決定された。パープル王国は議員内閣制であるため、国王陛下にその決定権はない。


 トーマス王太子殿下が御成婚し、王子か王女を授かれば、王位継承問題で王室も揺らぐことはないが、ドミニク殿下もアラン殿下もパープル王国の公爵家より王妃を迎えたため、隣国の公爵家よりお妃を迎えた国王陛下よりも、パープル王国の血筋をより濃くした家系となっている。


 ドミニク殿下はトーマス王太子殿下の黒髪をしきりに気にしていた。のちにお妃となったマリリン王妃は元メイドで一般人でもあり、子を授からなかったこともドミニク殿下の復帰を後押しした。


 たとえトーマス王太子殿下が、国王陛下の血を引いてなくとも、国王陛下はそれを公表するつもりはないが、それでもドミニク殿下一族の動向により揺らぎかねない。


「ローザ・キャッツアイ、あなたはメイサ妃の侍女であったため、すでに理解していると思うが、本来ならば我が弟のカムリ王子が王位継承第二位になるはずだった。カムリ王子がオレンジ王国の王女と結婚し我が国の王位継承権を放棄した。それゆえ、ドミニク殿下一族の復帰を議員の強い後押しもあり叶えられた。現在は別宅の宮殿に戻られ、三人の王子に王位継承順位が授けられた。この国を思うとそれは当然のことであると解釈はしているが、前国王陛下や王太后はドミニク殿下とはそりが合わず、王太后は今後の王室についてたいそう危惧しておられる」


「その件は私もたいそう危惧しております。トーマス王太子殿下の黒髪はメイサ妃の亡き祖母であられるメトロ・ダイヤモンド公爵夫人の遺伝でございます。メイサ妃の母であられるメリー・サファイア公爵夫人も黒髪でございます。お二人はレッドローズ王国の民族性を重んじて、わざわざ黒髪を金髪に染めていらっしゃいました。メイサ妃も国王陛下との御成婚後もウィッグで金髪を貫いてこられましたが、トーマス王太子殿下をご出産され、黒髪に違和感を抱いたパープル王国の国民の不安を払拭されるために、自ら黒髪であることを公表されました。確かに、レッドローズ王国でも黒髪は移民と見られがちですが、すでにダイヤモンド公爵夫人は他界されているため、確認するすべはございません。今は多様性の時代でございます。もしもダイヤモンド公爵夫人が移民であったとしても、トーマス王太子殿下の王位継承順位に変わりはございません」


「それはわかっている。トーマスは私の嫡男であるが、それをドミニク殿下に覆されたらどうなってしまうのか、それが心配なのだ。アニー・アントワネットはトーマス王太子殿下の第一秘書であった。今はドミニク殿下の秘書だ。トーマス王太子殿下のことをどこまで知っている?」


「トーマス王太子殿下は長きに渡り留学されておりました。第一秘書とはいえ、帰国されてからのこと。出生の秘密までは存じておりません」


「そうか。ルリアン・トルマリンはどうだ?」


 ルリアンは名指しされ、正直に答えるべきかたいそう迷った。トーマス王太子殿下の出生の秘密はハイスクール時代にすでに聞いていたからだ。そのことはローザも知っている。


「国王陛下に偽りを申すわけにはいきますまい。トーマス王太子殿下とルリアン・トルマリンは七年前より交際をしております。あの事件でルリアンは真実をトーマス王太子殿下ご本人から聞いております」


「やはりそうであったか。それならば話は早い。ルリアン・トルマリン、トーマス王太子殿下の出生に関しては決して何人なんびとにも他言してはならぬ。よいな」


「はい。決して他言は致しません」

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