第24話 引き篭もりの本気
引き続き姫乃視点。
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「くたばれクソ野郎」
ライヤーさんが手を前に向けると同時に雷鳴と共に天雷が轟き、天地を覆すかの様な揺れを起こしてボスモンスターを穿つ。
———ピシャァァァアアアアアア!!
「ぐっ……やるね。やっぱりライヤーは———」
「偽物がその声で話すな。死ね」
ボスモンスターが全身ボロボロになりながらも笑みを浮べて話そうとするが、ライヤーさんはいつの間にかボスモンスターの背後に移動していた。
「なっ!?」
「っ!?」
私は自身の目にも見えない速度で移動したライヤーさんに驚愕する。
それはボスモンスターも同じ様で、思わずと言った風に声を上げていた。
しかし次の瞬間———ボスモンスターが突如吹き飛んだ。
「カッ———ハッッ!?」
「…………え?」
《いや……え?》
《……何があった?》
《突然ボスモンが吹き飛んだんだけど》
《何ならライヤーさんの動きが全く見えなかったんだけど》
《いつの間にか後ろに居たよな》
《普通に速すぎて草》
「おい、ナターシャの名を騙るならこの程度は対処してみろよ」
「ぐっ……《光剣》!!」
ボスモンスターが苦し紛れに光の剣を自身の周りに何刀も創造させ、次々にライヤーさん目掛けて撃ち出す。
しかし、その全てをたった1発の雷で全て消滅させてしまった。
「どうした? これでも此処のボスモンスターか?」
ライヤーさんがボスモンスターの首を掴み、上に持ち上げる。
ボスモンスターは苦しそうにライヤーさんの手を掴みながら踠くが、いつものひ弱な彼からは考えられないほどの怪力で全くびくともしなかった。
「す、すごい……」
私はライヤーさんの圧倒ぶりを見て呆然と呟く。
先程の光剣も1つ1つならば私でも対処できると思うが、一気に来られると何発かは絶対に受けてしまう自信がある。
それをライヤーさんは、たった1発の魔術で対処してみせた。
つまり、彼の方が私よりも圧倒的に強いと言うわけだ。
今なら彼方の世界で5本の指に入る実力者だと彼が言っていたのにも納得出来る。
「はぁ……ナターシャの姿をしているからどの程度かと思えば……本体よりも10分の1くらい弱いな」
ライヤーさんがあからさまに落胆を滲ませる。
私にはあのボスモンスターも十分強く見えたが、オリジナルはあれの10倍強いらしい。
《あかり:10000円 ライヤーさん強すぎカッコいい》
《怠惰の根源:50000円 これでライヤーさんが欲しいのかって気分を落ち着かせて欲しい》
《雷神:12000円 俺の琴線にドンピシャ》
《陰キャ:20000円 今度2人で別の未踏破ダンジョンに挑んで欲しい》
《いきなりスパチャ祭りだなww》
《まぁライヤーさんの圧勝振りがエグいからなww》
《相手も普通にS級探索者と同じくらいの強いんだけどな》
《姫たんも驚いてるしww》
《本当はめちゃくちゃ危ない所なのに何故か恐怖はないよな》
《いやあるだろ! ライヤーさんチョー怖いって!》
《マジでそう! あれは普通に怖すぎる!》
確かに今のライヤーさんは正直怖い。
特に私は常に殺気を浴びているので、物凄くキツイ。
「ら、ライヤーさ———」
「———いいだろう。私の本当の姿を見せてやる!」
私が尋ねると同時にボスモンスターが私の言葉を遮って突如魔力を爆発させた。
その威力は相当なもので、ライヤーさんも舌打ちをしながら飛び退いている。
「はぁああああああああああああ……」
「俺はそんなの待たない———っ!?」
ライヤーさんは相手が覚醒しそうでも問答無用で攻撃をするが、見えないバリアか何かで防がれてしまう。
それにはライヤーさんも驚いた様だが、グネグネと人の姿からスライム状に変化していくボスモンスターを見て、落ち着きを取り戻したライヤーさんが申し訳なさそうに話し掛けて来た。
「……ごめん姫乃。完全に取り乱したわ……」
「いえいえライヤーさんが謝ることではありませんっ!! 親友さんのことを侮辱したのですからライヤーさんが怒るもの当たり前ですっ!! だからライヤーさんは何も悪くないのですっ!!」
私だって親友の事を酷く言われれば怒る自信がある。
親友なんていないけど。
ライヤーさんのことは……流石に親友と呼ぶには少し早い気がしないでもないような……。
私は自分でライヤーさんのことをどう思っているのだろう。と少し疑問に思い、ふとライヤーさんを見ると、不意にライヤーさんがが面白そうに気の抜けた笑みを浮かべた。
「ほんと……姫乃って優しいな。思わず惚れちゃいそうだぜ」
「…………………へっ?」
「あ、これを言ったら炎上するか。でももう言っちゃったしな……取り敢えず謝っておいたほうが———」
突然言われた『惚れちゃいそう』という言葉に、私は今までにないくらい激しく動揺する。
その言葉が脳裏で何度も何度も再生され、その度に悶えてしまいそうな程に恥ずかしくなるが……同時に嬉しくなっている自分にも気がついた。
「ら、ライヤーさん……わ、私……」
「どうした? 何かあったか? あ、もしかして俺が怖かったのか?」
ライヤーさんがそう言って私の肩に手を置くと———
「安心してくれ姫乃。俺が姫乃を攻撃なんてしないから。姫乃のことはこの世界で1番信頼してもいるしな」
———安心させるように優しげな声色で言う。
そんな言葉一つで舞い上がりそうなほど嬉しくなり、心臓が周りの音が聞こえないほど煩く高鳴っている。
自然と口元がニマニマしてしまいそうになるのを抑えるのにも一苦労。
ボスモンスターがいるというのに彼から目が離せない。
私はその瞬間———はっきりと理解した。
どうやら私は———
———貴方を好きになってしまっていたみたいです。
もう、
《もう姫たん絶対に惚れてるやん》
《完全に雌の顔してるやん》
《紛うことなくライヤーさんのこと好きじゃん》
《これが『てぇてぇ』と言うやつか……尊い》
《多分これは炎上じゃなくてバズる。間違いない》
《カプ厨:50000円 ライひめてぇてぇ!!》
《てぇてぇ監視人:50000円 ライひめてぇてぇ過ぎww 他とはレベルが違うわww》
このコメントが2人の目に入ることはなかった。
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