第23話 引き篭もりの怒り
頑張ってたら遅くなっちゃった。
————————————————————————
『実は———私達、結奈先輩に嵌められたんですっ!!』
その言葉はコメント欄を大いに荒らす。
《………え?》
《??》
《え、マジ?》
《視点変わるまでめちゃくちゃ結奈ちゃん泣いてたけど?》
《幾ら何でもそれは……》
《俺は姫たんを信じるよ!》
《でも相手はあの結奈ちゃんだぞ? そんなことするか?》
《確かに》
《幾ら姫たんの言葉でも……》
やはりというか、結奈先輩の影響力は相当な様で、いつもは姫たん盲信者達も今回ばかりは疑っている様だ。
しかし———そんな奴らを一瞬で覆せる言葉がある。
「おいおいお前ら忘れていないか?」
俺は否定的な意見が飛び交うコメント欄に向かって言う。
「俺は此処に200年引き篭もってんだぞ? あんな罠に嵌まるわけないだろが! と言うか70階層とか俺の庭じゃい! このダンジョンを誰よりも知り尽くしている俺が引っ掛かる=誰かが後から仕掛けたに決まってんだろうが!」
《あぁ!!》
《た、確かに……!?》
《そう言えば此処、ライヤーさんの家だったな……》
《引き篭もりは自分部屋は全て把握しているのが常識》
《めちゃくちゃ説得力ありすぎて草》
《じゃあマジで結奈ちゃんが……?》
《でも何で……》
「まぁそれは後で本人に問い詰めれば良いだろ? くそッあの悪女め……! よくも俺の家に細工なんかしやがったな……! 後で絶対に1発だけでも殴ってやる……!」
俺はまさしく怒り浸透と言った感じで近くに寄ってきていたブラックオーガーエンペラーをぶっ飛ばす。
そして奴らをキッと睨むと、両手に雷鳴を轟かせながら告げる。
「お前ら———俺の鬱憤晴らしになれ!」
「《な、何て暴君……》」
何故か姫乃からもリスナーからもそんな事を言われてしまった。
ぴえん。
「よし、多分此処がボス部屋だろ」
「そ、そうですね……」
ダンジョン内の全てのモンスターを駆逐し終わった後、俺達は如何にもボス部屋っぽい巨大な扉の前に立っていた。
因みに只今の同接は1754万人。
多分日本最高記録のはずである。
《……うん、ライヤーさんがガチで怒ったらどうなるんだろうねー》
《陰キャが怒ったらヤバいもんね》
《まぁでもいじりは一向に止める気ないけど》
《反応が面白いしな》
「……ヒメナーって結構神経図太いよな」
「……否定出来ません……私にも思いっきりイジってきますし」
何で何でしょう。と姫乃は首を傾げていたが、原因は間違いなく姫乃だと俺は思うの。
貴女がいじりがいがあるからだよきっと。
俺のそんな気持ちが顔に出ていたのか、姫乃がむぅ……と頬を膨らませた。
「ライヤーさんまで私の事を残念な人だと思っていますね……」
「まぁ……でもそれが可愛いんだよ。姫乃の個性だって個性」
「か、かわっ———!? っ〜〜〜!!」
姫乃が顔を真っ赤にして恥ずかしがる。
途中からは顔を隠す様に手で覆っていた。
「うぶだなぁ……」
《いや……これはうぶって感じじゃ……》
《どっちかって言うと……》
《メスの顔?》
《うんそれが1番当てはまる》
《何があったんだろ?》
《最近少し良い雰囲気だと思っていたが……》
《これはユニコーン喪失、カプ厨厄介リスナー歓喜だな》
何やらヒメナー達が変に勘繰っているが、これはスルーでいいだろう。
もうこれ以上ユニコーンの相手をするのは面倒だし。
「じゃあ入るか」
「はいっ! 準備はできていますっ!」
俺達は扉を開け放った。
(姫乃視点)
ギギギギ……!
ライヤーさんが見るからに重たそうな扉を涼しい顔して開ける。
何かカッコいい……じゃなくて、此処はボス部屋!
気を抜かない様にしないと……!
私は剣を構えながら目の前の敵を睨む。
そこには———フードの付いた、丁度ライヤーさんが付けているような灰色のローブを着た中性的な顔の人が立っていた。
明らかにモンスターの見た目ではない。
私が困惑していると———
「……巫山戯るな……」
「っ!?」
しかしその隣から物凄い殺気が溢れ出した。
驚いて横を見ると———憤怒の表情を浮かべたライヤーさんの姿が。
私は何が何だか分からず困惑する。
それはヒメナーさん達も同じ様で次々と困惑のコメントが流れていた。
《どうしたんだライヤーさん……》
《何か……激おこじゃない?》
《ライヤーさんの無表情初めて見たわ……》
《それな》
《俺も》
《普段はヘラヘラしてるもんね》
《無表情だったらめっちゃイケメンだな》
《それな》
私はコメント欄のコメントを見た後で再びライヤーさんを見て……思わず見惚れる。
確かにヒメナーさん達の言う通り、無表情だとそこら辺ではお目に掛からないほどのイケメンだった。
こんな時だと言うのに不意に心臓が高鳴り始める。
ドキドキと鼓動を刻み、全身が熱くなる。
「ら、ライヤーさん……」
「———姫乃」
ライヤーさんの殺気の篭った冷徹な声が、まるで冷や水を浴びせるかの様に私を現実へと戻す。
今までになく様々な感情の篭った声に驚いてしまったが、それと同時にこんなライヤーさんの姿を見てときめいていた自分が恥ずかしくて情けない。
此処からはしっかりとしなければ。
「どうしましたか、ライヤーさん?」
「コイツは……俺にやらせてくれ」
「分かり…………えっ?」
私はライヤーさんからの言葉が意外すぎて思わず聞き返してしまう。
しかし、彼はいつもとは違いそんな私にツッコんだりしなかった。
「姫乃———コイツは俺1人でやる。だから隅の方で待機していてくれ」
「は、はい……えっと……彼? 彼女? はライヤーさんの知り合いなのですか?」
私は聞かない方がいいと分かっていたが、どうしても聴きたくなって尋ねてしまった。
そんな私の質問に、ライヤーさんは此方を向かず一言。
「俺の親友の偽物だ」
その言葉で、先ほど私に話してくれた裏切った親友だと気付いた。
もしかしたら怒っているのは、彼女の顔が気に食わないからかも知れない。
でもこれ以上は訊かず、私は素直にドローンと共にボス部屋の隅に移動する。
向こう側ではライヤーさんと親友の偽物と言ったモンスターが話していた。
「……久し振りだね、ライヤー」
「…………」
「あの時の事は本当に申し訳ないと思ってるよ」
「…………」
「どうだい? これから少し話でも———」
「———黙れ」
「!?!?」
「っ!? な、何をしているんだいライヤー……!」
ライヤーさんの声一つでまるで何十倍もの重力が掛けられているかの様に体が重たくなる。
そんな彼は苦しげに彼を見るモンスターを鋭く見据えて———その顔を怒りに歪めた。
「アイツはな……ナターシャはな……この程度で苦しげな表情をする奴じゃないんだよ」
ライヤーさんが一歩前に行く度に周りに雷鳴と共に雷電が地を揺らして轟いた。
更に彼の身体を徐々に青白くて神々しい雷が包み込んでいく。
ライヤーさんの髪が、眉毛にまつ毛が、瞳が———蒼白に染まる。
まるで雷の神にでもなったかの様なライヤーさんが口を開いた。
「俺の親友を———ナターシャを侮辱する奴は、俺の手で殺す」
私の周りを魔力障壁が包んだかと思うと———蒼白の雷がボス部屋を埋め尽くさんばかりに轟き、揺めいて降り注いだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます