第22話 引き篭もりとボッチと最下層

「「…………」」


 俺達2人の間に沈黙が流れる。

 

 最下層は俺も200年の間に一度も行ったことがないので全くの未知の場所だ。

 まぁそもそも分かっていても薄暗いし濃密な魔力が漂っているので感知などは使用できないが。


「……さて、どうしよう」

「……結奈先輩……どうしてこんな事を……」


 俺は姫乃に話しかけたつもりだったが、どうやら姫乃は信じていた恩人に裏切られてショックに陥っている様子。

 陰キャって人に裏切られたら物凄い傷つくんだよな。

 

 俺も彼方の世界で裏切られたりした時は、その場では怒りでボコボコにしていたが、その後でショック寝込んだ記憶がある。

 それも引き篭もる1つの原因だったな。


「……姫乃は戦えそうにないなぁ……しゃーない」


 俺は姫乃の近くに座る。


「姫乃?」

「……何ですか……?」


 ハイライトの消えたドス黒い瞳で此方を見る姫乃は、完全に闇落ちしそうな様子。


 うわっ……これは相当ヤバいな……。

 まぁ引き篭もりに女性の慰め方なんて分からないんだけど。

 え、こういう時って何すれば良いんだ?

 

 俺は慰め方がさっぱり分からなかったので……取り敢えず自分の過去の話をする事にした。


「まぁ勝手に話すから聞き流してくれてもいいけど……俺も昔仲の良い奴が一人いてな? そいつ女だったんだけど、俺なんかよりよっぽどカッコよくて強かったんだよ」

「…………」

「俺もあっちの世界では最高峰に強かったんだけど……まぁあの当時はソイツの方が強かったの」


 あの時は本当に楽しかった。

 それこそ人生の全盛期と言っても良いほどに。


 そしてその楽しい思い出には必ず彼女がいた。

 昔から何があっても一緒にいて、一緒に戦争で魔術師として戦って、一緒に祝杯を挙げていた。


「それでだいぶ偉くなったある時な、俺達に1つの依頼が来たんだよ」

「……?」


 姫乃が虚ながら此方に視線を向け出した。

 どうやら少しは聞いてくれている様だ。


 俺はそれで少し安心して話を続ける。


「何でも最近とある街がきな臭いっていう曖昧な依頼でな? まぁ俺は行きたくなかったんだけど、ソイツが行こうっていうから仕方なく行ったんだよ」


 その街は本当に不気味な雰囲気だった。

 活気がなく、人も見られない。

 人を見つけても何処か虚で会話も成立しないほどだった。


「それでその街を調べて行く内に———とある教団が関わっている事に気付いた」

「とある教団……」

「そう。名前は邪神教っていう世間にも名の知れた有名な犯罪集団だった」


 それを知った俺達は、何ヶ月も緻密な計画を練って教団のアジトを特定した。

 計画ではこっそり潜伏して正体を暴いて証拠を持ち帰った後で殲滅する予定だった。

 だが———



「———途中で計画が狂った」

「……!?」



 あれは本当に驚いたなぁ……。

 自分達で魔術を作らず人力でゆっくり時間かけて掘った通路に待ち伏せされてたんだから。


「それって……」

「きっと姫乃の思ってる通りだと思うぞ? アイツは———俺を裏切って奴らについていた。逐一情報を奴らに渡しては違法な魔力増強剤を買っていたんだよ」

「ど、どうしてそんなことを……?」


 姫乃が信じられないと言った感じで聞いて来るが。


「俺も分からなかった。奴はこう言った」



「『———お前が私よりも強くなるのがいけないんだ……! いつまでも私の下であったならこんなことしなくてよかったのに!』ってな?」

「…………」

「ほんと馬鹿な話だよな。俺は親友と思ってたけど、奴にとって俺は所詮自己顕示欲を満たすための道具でしかなかったんだわ」


 俺はそれからの記憶がない。

 ただ確かなのは———彼女をこの手で殺したということだけ。


「まぁそれが理由で依頼が終わった後にすぐに国を出てダンジョンに篭った」

「…………」


 姫乃が悲しげな瞳で俺を見る。

 もう先程の虚な感情の籠っていない瞳ではなくなっていた。


「ま、こんな感じだな。えっと……つまり何が言いたいのかっていうと……う、裏切りって意外と沢山あるってことだ! 基本は相手が悪いから気にするだけ無駄ってこと! だから———」

「———ライヤーさんも同じだったんですね……」


 俺の言葉を遮る様に姫乃が抑揚のない口調で言うと同時に俺を抱き締めてきた。

 突然の事に俺の脳は思考を停止する。


「ひ、姫乃……?」

「よしよし……ライヤーさんも大変だったんですね……」


 姫乃が俺の頭を優しげな手つきで撫でる。


 ……も、物凄く恥ずかしいなぁ。

 今誰もいないことが唯一の救いか?


「ひ、姫乃さん……? も、物凄く恥ずかしいのですが……」

「……私を慰めてくださるのなら、どうかこのままで……」

「…………ん」


 俺は姫乃に抱き締められたまま、少しの時間を過ごした。







「さて……もう落ち着いた?」

「は、はいっ! 慰めようとしてくれてありがとうございます!」

「まぁあんま上手く慰めれなかったけどな」

「そんな事ないですよっ! 私はとても嬉しかったですよ? ライヤーさんのことが知れて」


 そう言って少し頬を赤く染める姫乃。

 俺はそんな彼女を見て何故だか恥ずかしくなって目を逸らす。


 な、何だこのラブコメ的雰囲気は……!?

 何か物凄く良い雰囲気だよな!?


 俺が少し舞い上がっていると、姫乃が困った様に呟いた。


「私たちの配信ってどうなっているのでしょうか……」

「あっ、見てるか? ちょっと待ってな———《転送》」


 俺はとある魔術を発動。

 すると———



《??》

《いきなり景色が……》

《ライヤーさんだ!!》

《大丈夫か!?》

《マジで大丈夫か!?》

《ってここどこ!? 薄暗いんですけど!?》

《姫たんもライヤーさんもどしたん?》

《何かラブコメの雰囲気が……》

《そんな事……なくないなぁ!?》


 配信用のドローンが現れ、途端に賑やかになる。

 そして流石ヒメナー達で、一瞬で姫乃と俺の間に流れる空気を察知していた。

 

「え、えっと……ラブコメの雰囲気は分からないのですが……少し伝えたいことがありますっ!」


 姫乃が覚悟を決めたかの様に口を開いた。



「実は———私達、結奈先輩に嵌められたんですっ!!」



 その一言は、コメント欄を荒らすには十二分な言葉だった。



—————————————————————————

 何かシリアス。

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