第19話 引き篭もり、SNSを始める

「———おかしい……」

「? 何がおかしいの?」

「あ、えっとですね……」


 俺がソファーで膝に肘を置いて手を組み、手の甲に顎を乗せて言うと、反対のソファーでTVを見ていた絶賛休憩中(料理)の葵さんが反応した。

 しかし俺は此処で一瞬言おうか迷ってしまうが、どうせ1人では永遠に分かりそうになかったのと、彼女は姫乃の親なので何か分かるかもしれないと思い、話してみることに。


「実はですね……最近姫乃が偶に余所余所しいんですよ」

「……へぇ……どうしてかしらねぇ?」

「やっぱり分かんないですか?」

「分から……ないわねぇ……」


 マジかぁ……葵さんでも分かんないかぁ……ならもう迷宮入りだなこりゃ。


 俺が早速諦めモードに入っていると、葵さんが『でも……』と言い、更に言葉を続ける。


「心当たりはあるんだけどね?」

「!? マジですか!? なら教えてくださいよ」

「嫌よ」

「まさかの拒否!? なら何故分かると言ったのですか!?」

「というか私の口からは言ってはいけないの」

「…………ふむ、さっぱり分からんですわ」


 え、何よ自分の口からは言えないって。

 そんなに闇の深いことなの?

 くそッ……こんな所で女性経験のなさが顕著に現れるとは……。


 俺はもう訳が分からず頭を抱える。

 するとそんな俺へ葵さんが助け舟を出してくれた。


「そんなに気になるなら、色んな人の意見を聞いてみたらどうかしら?」

「色んな人の意見……? いやいや無理ですよ。俺って自慢じゃないですけど生粋の引き篭もり気質で陰キャなんでね! 知らない人に話しかけるなんて緊張で死にます」

「別に直接聞けって言ってる訳じゃないわよ?」

「…………ふぇ?(裏声)」


 俺はあまりの驚きで自分でもビックリするほどの裏声&可愛い言葉が出てしまう。

 そんな俺をクスクスと笑いながらも葵さんが言った。



「———Tw◯tterを始めれば良いのよ!」



 …………その手があったか。

 よし始めるかぁ。


 俺は珍しく葵さんからちゃんとした答えを聞かされたので、即座に行動に移すことにした。






「———ふふふ……や、やっと帰って来れた……! 普通に説明長すぎだろあの店員め……」


 俺はスマホなる物と契約するために外に出たのだが、予想以上に店の店員の説明が長く、数時間もかかってしまった。

 しかしその苦行を乗り越えてやっと手にしたスマホ。


「これでTw◯tterも漫画アプリも配信サイトも見れる……! ———という事でTw◯tterの入れ方を教えて下さい!」

「なんで訊いて来なかったんですか!?」


 俺が姫乃の部屋のソファーで溶けるように寛ぎながらそう言うと、姫乃が思わずと言った感じでツッコんできた。


 あ……そう言えば久しぶりにツッコまれた気がする。

 最近は何か目が合うと数秒経って目を逸らされるし、俺が話かけると露骨に挙動不審になったりするし。


 俺は普通にツッコんでくれることに少し嬉しくなり、何時ものように言葉を返す。


「だって知らない人に質問するなんて無理なんだもん」

「うっ……そう言われると何も言い返せません……」


 ダメージを受けたらしい姫乃がよろめく。


 ふっふっふっ……そうだろう姫乃よ。

 君は俺と同類なんだからな。


「はぁ……分かりました。なら少し貸してください」

「はいよ」


 俺がスマホを渡すと、ものすごいスピードでフリックして何か操作をし始めた。

 機械音痴とか言っているくせに、スマホは操作できるんだな。と俺が感心していると、姫乃が俺にスマホを返してくる。


「はいライヤーさん」

「もう終わったの?」

「そうですよ? 直ぐに終わりますので」

「なら何でドローンは使えないのよ……」

「あれとこれとは全く違うのです!」


 至極真面目な顔してそう宣う姫乃。

 そういう事なのかと甚だ疑問だが、考えても意味なさそうなので、それ以上考えるのをやめ、取り敢えずTw◯tterのアカウントを作る。


「えっと名前は……『引き篭もり魔術師』でいいか」

「あれ? 自分の名前にしないんですか?」

「したら全世界に俺の名前がバレるやん。もし俺並みの魔術の使い手がいたらどうすんの? 俺余裕で殺されちゃうよ? 呪いにはめっぽう弱いの」

「まぁライヤーさんが良いのなら別に良いんですけど……あっ、なら私達の公式アカウントにサブ垢として載せときますね」

「公式アカウント……? 何それ?」

「私達のYo◯Tubeでの配信の告知をしたり、その他にも色々な情報を発信していますよ」


 姫乃は自身のスマホを開いて公式アカウントとやらを見せてくる。

 そこには『ボッチ剣聖と引き篭もり魔術師@公式』という名前で———


「———フォロワー900万人!?」

「はいっ。今までは50万人とかだったんですけど、ここ数週間で18倍まで膨れ上がりました!」


 ま、まぁYo◯Tubeのチャンネル登録者が1000万人なのを考えれば、だ、妥当な数字かな……?


 俺があまりの多さに軽く目を剥いていると、姫乃が何やらスマホを操作し出す。

 しかしそれは直ぐに終わり、一体何をしていたのか気になっていると———


 ———ピロンピロンピロンピロンピロンピロンピロンピロンピロンピロンピロンピロンピロンピロンピロンピロンピロンピロンピロンピロンピロンピロンピロンピロンピロンピロンピロンピロンピロンピロンピロンピロンピロンピロンピロンピロンピロンピロンピロンピロンピロンピロンピロンピロンピロンピロンピロンピロンピロンピロンピロンピロンピロンピロンピロンピロ———……。


「何じゃこりゃああああああああああ!?」


 突然俺のスマホが鬼の様に怒涛の通知を鳴らし始めた。

 何事かと思い確認してみると……全てTw◯tterから。

 その通知を押して自身のアカウント画面に行くと———そこにはどんどんと秒で上がっていくフォロワーの数値が。

 既に10万人を突破しているが、未だ止まることを知らず、既に15万……20万……とトントン拍子で増え続けていた。


「ひ、姫乃っ! 君は一体何をしたんだね!?」

「ただ公式垢の方でつぶやいただけですよ? 『引き篭もり魔術師』と言う名でライヤーさんがTw◯tterを始めました』とアカウントIDと一緒に」

「そりゃ900万人もいるアカウントで宣伝したらそうなるよね!? やべぇよ緊張しすぎて何もツイート出来ねぇよッ!!」


 こうして俺の意思とは全く関係なく、僅か半日で俺のアカウントのフォロワーが500万人を超えた。


 そして———『引き篭もり、遂にTw◯tterを始める』が世界トレンド1位になった事は言うまでもない。


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