第18話 ボッチに宿る仄かな想い
今回はボッチこと浅葱姫乃視点です。
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———何かがおかしい……顔がずっと熱い……。
私———浅葱姫乃がそう感じて既に数十分が経ち、ダンジョンに着いてからも、先程から一向に治まらない頬の熱を取ろうと、手でパタパタと顔を仰いでいた。
別に風邪を引いているわけでもないし、原因も分かっている。
『どうしてくれんのユニコーンさんよぉ? 俺の大事なパートナーが怖がってんじゃん』
『ほら暗い顔しない。姫乃は笑った方が数千倍可愛いんだぞ? 俺がこの1週間程の観察で気付いたことだぜ? 後、美少女の笑顔は世界を救う。ほら笑って笑って』
———ライヤーさんの、私を気遣う言葉に私を見つめる優しげな瞳と笑顔のせいだと言うことは。
当たり前だが今までそんな事を言われたことなど1度もない。
確かに「可愛い」とか「綺麗」といった事は何度も言われたことはあったけど、どれも欲望や嫉妬が筒抜けで、不快としか思ったことがなかった。
———でも、ライヤーさんだけは違った。
「———じゃあ今日も配信始めてくぞ〜」
私が思考の沼に嵌っていると、ライヤーさんが気怠そうな様子で配信の開始を告げる。
その瞬間に私の意識は一気に現実へと引き戻された。
《お、今日はライヤーさんが開始の言葉を言うのか》
《珍しいな》
《というか初めてだろ?》
《ただ物凄く面倒くさそうだなw》
《確かにw》
《何かあったのか?》
《どうせ外に出たくなかっただけだろ》
《引き篭もりだしなw》
《間違いないw》
「おうおうそんなこと言っていいんか? まぁ合ってんだけどさ」
ライヤーさんが喧嘩腰にメンチを切ってカメラに近づくが、あっさりと認める。
これには私も思わずガクッとしてしまった。
《いや合ってんのかい!》
《そこは違うって言うとこだろ!》
《まぁこんなもんだろうとは思ってたよ》
《引き篭もりだもんなw》
《でも俺も同じ状況なら間違いなくゴネる》
《俺も》
《勿論ワイも》
「俺が言うのも何だが、引き篭もり率高すぎない? 働けよ馬鹿野郎ども。俺が働いてんだからよぉ? 不公平なんじゃねぇの?」
ライヤーさんがいつも通り少し口悪く愚痴る。
しかし今回は至極真っ当な事を言っているので特に口を挟むつもりはない。
それよりも———私は再び思考の沼に浸る。
最近になって気付いたことがある。
それは、私のことを美少女美少女と言っているが、ライヤーさんは私よりも遥かに長い年月を過ごしているせいか、私に卑猥な目を向けない。
何なら娘の贔屓目に見てもとびきり美女のお母さんにも向けていなかった。
そしてついさっき、私がいきなり知らない男性に肩を抱かれた恐怖で固まっていたのを助け出してくれた時も、少し下品だったけど私が笑える様な言葉を掛けてくれて……。
だからなのだろうか?
普段から言われ慣れているはずの言葉でさえ、ライヤーさんに言われるだけで恥ずかしくなって頬が火照るのは———。
「———姫乃?」
「は、はひっ!? な、何ですかライヤーさん!?」
いきなり話し掛けられて思わず舌を噛んでしまった。
少し痛いけど、そんなことよりも目の前で心配そうにしているライヤーさんから目が離せない。
少し前に自身は一切モテたことがないと言っていたが、明らかに嘘臭い。
そう思うほどにライヤーさんの顔は整っているからだ。
まぁでも、あの引き篭もり体質のお陰でイケメン嫌いと定評の私のリスナー達もライヤーさんに懐いているのかもしれない。
あの落ち着きの無さは高校男児の様だし。
「どしたん姫乃? さっきからぼーっとしてるけど。もしかしてまだ怖い?」
「い、いえ……そうではないのですが……」
どうか今だけは私を優しげな瞳で見ないでほしい。
本当に自分の体が自分のものではなくなったかのように思えてくるから。
《ん? 何かあったのか?》
《確かに今日の姫たんは何処かおかしい》
《何か元気がないというかなんというか……》
《それは俺も思った》
《ぼーっとしてるよな》
《体調悪いなら配信中止してもええで?》
《姫たんの体調が第一》
《何なら今日はライヤーさんが姫プしたら?》
「姫プはヤダ。俺はする方じゃなくてされる方なの!」
ライヤーさんがそう言うと、途端にコメント欄に《クズヤーさん》とかいうどこかのラノベの主人公の様なあだ名を付けられ、ライヤーさんは更に憤慨する。
「おうおう俺に喧嘩売ってんのかコラ! いいだろういいだろう買ってやろうじゃんか!! 出てこい引き篭もり共!! 引き篭もりとしての格の違いを見せてやる!!」
「す、ストップですライヤーさんっ!!」
「ふぎゅぅ!?」
私がドローン目掛けて魔術を放とうとするライヤーさんに抱き着いて止めると、ライヤーさんが豚が潰れた様な声を上げた。
不思議に思ってライヤーさんの顔を確認すると———
「———だ、大丈夫ですかライヤーさんっ!? 目を覚ましてくださいっ!!」
「ぐへっ!? ちょ、分かったから揺らさないで! 気持ち悪くなっちゃうから!!」
「あっ、ごめんなさいっ」
私はライヤーさんのギブアップ宣言を受けて腰に回していた腕を離す。
それと同時に先程自分が何をしていたのかを思い出して、一瞬にして顔に熱が蘇った。
「あ、ああああああ…………」
「おお……どしたん姫乃? そんな顔真っ赤にして……まさか熱か!? 安心しな姫乃。俺が体内のウイルスを消滅させてやるからなっ!」
「ち、違いますっ! ほ、本当に大丈夫なのでライヤーさんは後ろでヒメナーさん達と遊んでおいてくださいっ!」
「お、おう……まぁ1番それが楽だからそうさせてもらうわ……」
私の方を不思議そうに見るライヤーさんに背を向ける。
しかし見られていると意識した途端に、身体が火照り、心臓の音が異様に五月蝿くなってしまう。
「何なんでしょうか……この気持ちは……」
私はそこまで口にした後、恥ずかしさを紛らわせる様に剣を構えると、モンスターに突撃した。
この気持ちに私が気付くのは、まだ少し先のこと———。
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