第11話 バズったせいで変装を強いられる、ボッチと引き篭もり

「……もう家から出たくない……」

「ライヤーさんの家ではないですけどね……ですが、物凄く同意します……」


 俺達は一先ず被った帽子を更に深めに被り直していそいそと裏道を出る。

 そしてそこで2人同時に大きくため息を吐いた。


 こうなった経緯はほんの数十分前の出来事である。


 俺達は、姫乃の剣のもう1刀を取りに行こうと外に出たのだが、前回のレッドドラゴン戦ものバズってしまった影響か———開始1分程度で速攻身バレした。

 と言うか、思いっ切り囲まれた。


 自分で言うのも何だが、俺は200年の間まともに会話をしていなかった生粋の引きこもりで、姫乃も生まれてからの生粋のボッチなので、お互いに全く知らない人に囲まれて固まってしまうわけである。


「もしかしてお2人が最近バズりまくっている姫乃さんとライヤーさんですか!?」

「キャアアアアアア!! さ、サインくださいっ!」

「わ、私は握手してほしいですっ!」


 姫乃は男女問わず沢山の人がサインやら握手を頼まれていた。

 俺は一瞬姫乃を置いて逃げようかと思ったが、俺の目の前に1人のチャラそうな金髪———この世界では金髪はチャラい奴の象徴らしい———の男が現れた。

 その瞬間に俺は、これからこの男に姫乃を紹介してほしいなどと言われるんだと予測。

 だから俺は無理だと突き放そうとしたのだが———


「———俺はツーショット写真がほしいっす! ライヤーさんと!」

「まさかの俺と!? 横の美少女差し置いて俺と!?」

「はいっ!! 俺、ライヤーさんの大ファンなんすよ! 出来れば個人チャンネルも作って欲しいくらいっす!」

「中々の物好きだね君!?」


 と言う感じで俺と写真を撮りたいと言うチャラ男に驚いたりしたが、一応全員にファンサ(?)を終え、俺達はこうして裏道へと逃げてきた。

 しかしお互い陰の者。

 いきなり沢山の人に囲まれるダメージは甚大で……。


「う、うぅぅぅ……いきなり沢山の人に囲まれて気持ち悪いです……」

「おうおう落ち着けお嬢。美少女がここで吐いたらアウトだッ!! 主に絵面的に!」

「ですが……うっぷ……」

「よしトイレ行こうトイレ! 大丈夫すぐに見つかるって何せ此処は日本で1番栄えている都市なんだろだから少し耐えてくれええええええええ!!」

「五月蝿いと余計気分が……」

「…………(無言で姫乃を優しくおんぶして揺れなく進む)」


 なんて女性として人生終わりそうになる姫乃を介抱して速攻でトイレに連れて行ったりと本当に大変だった。


 此処からわかったのは———



「「———変装ないと詰む(詰みます)」」



 と言うことである。

  

 真の有名人がどうせバレるだろっていう変装をしているのをこの前TVで見たが、こんなになるなら気休めにでもやってしまう気持ちがよく分かる。


 マジで心労エグいて。

 それに生粋の陽キャじゃなくて俺達2人とも根っからの陰キャだもん。

 その内ストレスで死にそう。


「そう言えばライヤーさんは変装の魔術とかって使えないんですか?」

「期待の籠った目で俺を見ないで。そんなのあるわけないでしょ」


 だって俺引き篭もりだもん。

 これほど要らない魔術他にないだろ。


 しかしそんな俺の返答が気に入らなかったのか、露骨にガッカリとしながら俺を無能と言いそうなほど冷たい目で見る姫乃。

 遂にため息まで付きやがった。


「おいおいそこまでやられると温厚な俺でも怒っちゃうぞ☆」

「無理に陽キャっぽくしないで大丈夫ですよ? 私も一時期やったことがあるので。結果は……言うまでもないですよね……」

「…………やめときます」


 我がお嬢が怖すぎる件について。


「……はぁ……取り敢えず変装のためにファッションのお店に行ってみましょうか」

「ファッションのお店が何かは分からないけど、物凄く嫌な予感がするとだけ言っておくぞ」

「そうですか……ならお互いに我慢するしかないですね……」


 そう言って姫乃は若干諦観の雰囲気を醸し出しながら笑みを浮かべ、重そうな足取りでその目的地に向かって歩き始める。

 俺はそんな姫乃の雰囲気で今後について怯えながらもこのままでは100%迷子になるので仕方なくついて行った。







「……今の私は友達がいますなので入れるのです今の私は友達がいますなので入れるのです今の私は友達がいるので入れるのです今の私は———」

「いやお嬢が一番怖えよ!?」


 着いたのはラブコメ漫画にも度々登場していた有名なブランドの服やアクセサリーを売っているお店が集合した複合施設だった。

 その入り口で姫乃は目のハイライトを消してひたすらに呪文を呟いている。

 

「しかし、私はこんな所漫画でしか———」

「それは俺も一緒だから。何ならつい数日前にこの世界に来たばっかりだから。ビビってないで行くぞ!」

「あっ、ちょっと待って———」


 というかずっと此処で立ち止まっているから周りの視線が死ぬほど痛いの。

 引き篭もりにはとてもじゃないがその視線は耐えられないの。


 と言うことで俺は姫乃を半ば無理矢理引っ張って中に入った。

 

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 18時に投稿します。

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