第10話 引き篭もり魔術師、働かされる
「うぅぅぅぅ……姫乃が約束破ったぁ……」
「全部を私に任せてたらお金上げませんからね!?」
「……くそぅ……《稲妻》」
ピシャァァァアアアアアア!!
「ガァアアアアアア!!」
一条の雷が俺の前に現れた魔術陣から光速に迫る雷速でオーガジェネラルの体を貫く。
防御力と攻撃力何方にも特化した肉体最強モンスターは、度重なる俺の雷に撃たれたせいで全身が麻痺して満足に動けていなかった。
《おいおいおいこれはエグすぎないか!?》
《光ったと思ったら死んでるんだが!?》
《しかも雷の威力尋常じゃなくね?》
《確かにw》
《世界に存在する雷使いでもこれほど使いこなしてる奴いないだろ》
《流石ダンジョンの本場異世界人だな》
《今まで天才っての信じてなかったけど、今日初めて信じることにした》
「少しくらい信じろよリスナー共」
「今まで私に任せっきりだったのだから当たり前ですよ……」
姫乃が至極当然のことを言ってくるが、今はそんなこと聞きたくないのです。
俺は更に《雷轟》を落としてオーガジェネラルを消し炭にして、モンスターが寄り付かないようにする。
アイツらは血の匂いに敏感で処置しないと集まってくるからな。
《うわぁ……当たり前にバンバン撃つもんじゃないよ……》
《それな……》
《威力も桁違いだし……近くに居たオーガなんか死んでるし……》
《俺と同じ引き篭もりのくせに……》
「誰が同じじゃ! これでも15年くらいはちゃんと働いてたわ!」
「ええっ!?」
《マジで!?》
《う、嘘だろ……!?》
《ナニィイイイ!?》
《何だってェェェェええ!?》
《ライナーさんって前職ある系だったの!?》
《完全に一度も働いたことない不適合者かと……》
「姫乃もだけど出会った時にキツすぎて逃げたって言わなかったっけ……?」
「……どうでしたっけ?」
姫乃はどうやら覚えていない様子で、首を少し傾けていた。
俺は此処で姫乃がポンコツだったことを思い出し、ヒメナー達のチャット蘭を見てみると———
《……そうだっけ?》
《さぁ?》
《誰が覚えてるやつー》
《知らん》
《記憶にない》
《さっぱり》
《言ったかそんなの》
《言ってない気がするんだけど》
《それな》
《ほんとそれ》
「ほんとそれじゃねーよ! ちゃんと言ってたろ!? 前回の配信みろ馬鹿野郎!」
「———馬鹿野郎はダメですよライヤーさんっ! 彼らは私の大切なリスナーなのですっ!」
「今絶賛貶されてるの俺だけどね!?」
そう言って反論する俺の前でずっとバッテンを作る姫乃。
どうやら俺には味方はいないようである。
そんな大声で言い合いという初心者でもやらないようなミスをかましていると———
「———グルァァァァァァァ……」
———ドシンッ!
「「!?」」
突然の唸り声と地鳴り音によって否応無しに言い合いが止まり、視線が音がした方に向けられる。
奥は真っ暗で何も出来ないが、俺も姫乃も何かがいることが分かっていた。
《!?》
《!?!?》
《何だよ今の》
《普通に怖くて草》
《2人とも固まってるじゃんw》
《此処ってオーク系しか出ないよな?》
《オークとかオーガってあんな声出すっけ?》
そこに現れたのは———真っ赤な鱗に身を包み、翼を生やしたレッドドラゴンと呼ばれるA級モンスターだった。
「「…………」」
俺達は奴に目を向けた後、お互いに顔を向けて、一斉に声を上げる。
「「———じゃんけんぽんっ!!」」
《……は?》
《ドラゴンの前でじゃんけん……?》
《姫たんはポンコツなのは知ってるけどとうとうライヤーさんも狂っちゃった?》
《ポンコツ集団かよw》
《いや笑い事じゃないだろ!?》
《2人ががりで挑めよ!!》
結果は———俺はグー、姫乃はパー。
俺が負けで姫乃が勝ち。
「くそぉおおおおおおおおお!!」
「やりましたっ!!」
俺は地に跪いて悲痛の叫びを上げ、姫乃はぴょんぴょんと飛び跳ねながら喜ぶ。
《いや呑気すぎない……?》
《ダメだ2人とも脳内お花畑のボッチと引き篭もりだもん》
《ちょっもう炎吐きそうなんですけど!?》
《姫たんもライヤーさんも気付いてなくね!?》
《逃げてーー!!》
「グルァアアアアア———」
「———《極雷》」
———ズドオオオオオオオオオ!!
俺の手から放たれた一条の極大の雷が迸り、物凄い轟音と共にレッドドラゴンの身体を貫く。
更にドラゴンを貫いた雷は背後を駆け抜け———真っ暗な道を明るく照らして壁へと激突した。
「が、ガァァァ……」
レッドドラゴンの巨体が、ズゥゥンン……という重低音を響かせながら地に沈む。
俺は一応レッドドラゴンが死亡したのを確認してから、やらせたくせに驚いている姫乃にドヤってやろうと考えながら何をいうか考え始めた。
———後日、この配信がバズることをこの時の2人は知らない。
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