第6話 引き篭もり魔術師、バズっていたことに気付く

「…………」

「あ、あの……何か反応してくださると嬉しいのですが……」


 俺が無表情で尚且つ無言で姫乃の家……間違えた。姫乃お嬢様の邸宅を見上げていると、気まずそうに言ってきた。

 

 そんな姫乃を一旦無視してチラッと周りに視線を巡らせてるも、姫乃のお家があまりにも大き過ぎて全部ショボく見える。

 勿論周りの家も普通にお金持ちの家って感じで広いのだが、この家にはデカい門や広い庭まであることからそんじゃそこらの金持ちではないと一目で分かった。


「……俺、こんな所に泊まってもいいのか疑問な件について」

「また漫画の影響受けてますね」

「残念。今度はラノベだ。アレはとてもいいものだぞ。異世界ファンタジーなる物はあまり見ようと思わないが、ラブコメは最高だった」

「そうなんですね———ってそうではなくて! もうっ、早く入りますよ!」

「ちょ、ちょっと押すなって! まだ心の準備が! 君のご両親に会うなら何て話せばいいか考えて置かないと!」

「け、結婚報告ではないのでそんなのしなくていいんですよ!? と言うかライヤーさんは余計なことしないでください! 私が説明しておきますから」

「あ、はい」


 と言うことで俺は、姫乃に家に押されながら入る事になった。

 


      







「「「「「「「———お帰りなさいませお嬢様。そしてお客様もごゆるりとご寛ぎください」」」」」」」

「もうっ、恥ずかしいからやめてってずっと言ってるじゃないですかっ」

「…………」


 ……俺は一体何を見せられているのだろうか。

 

 今この瞬間、姫乃が玄関の扉を開けると、俺達の目の前に10人ほどのメイド服を着た年齢様々な女性が居た。

 しかも皆が美が付く程の顔の整いよう。


 上は恐らく40前後だと思うが、物凄く色気が凄い。

 逆に下は姫乃よりも少し幼い子も居るが、こっちを見ていると、なんか落ち着くと言うか安心する。


 ……さて、俺は一体何を見せられているのだろうか?(2回目)


 俺が一向に反応を示さないことを不思議に思ったのか、姫乃が此方の顔を覗き込む。

 同時に黒曜石の様な美しい黒髪がサラッと垂れた。


「どうしたのですか、ライヤーさん。先程からずっと静かですが……」

「いや、外の世界って凄いなって思っただけ」


 本当に心の底からね。

 一瞬姫乃が何処かの国のお姫様なのかと思ったよ。

 それか貴族のボンボン。

 

「も、もういいじゃないですか。それと皆には言っていなかったのですが……ら、ライナーさんは一時的にこの家に住む事になりました」

「「「「「「「「承知致しました」」」」」」」」

「順応能力高っ」


 色々とツッコミどころのある話だが、メイドさん達はあっさりと聞き入れてくれた。

 ま、まぁさっきからこちらを値踏みする様な威嚇の様な危険な視線は感じるけど。

 

 そんな視線を感じながらも、姫乃は気づいていないのか嬉しそうに鼻歌を歌いながら(めちゃ可愛い)俺を連れて2階に行く。

 因みに2階も1階に負けず劣らずの豪華絢爛さだった。


 此処まで考えた時、ふと気になる。


「なぁ、姫乃」

「どうしたのですか?」

「———もしかして姫乃の部屋に向かっているのか?」

「そうですよ? 一度お友達をお部屋に上げてみたかったんですっ!」


 そう言って少し楽しそうな姫乃には悪いが……悲しいことにこの後の未来が手を取るように分かってしまう。

 どう転んでも俺が詰むという未来が。


 しかし、目の前の親切でノリが良くて話していて楽しい美少女の喜び方を見ていると、とてもじゃないが断れない。

 此処は男の俺が覚悟を決めるか……主に土下座という手法を使って。

 漫画では大抵それで許されてた(頭悪過ぎ)。


「———此処が私のお部屋ですっ!」


 俺が決意を新たにしていると、姫乃が1番奥の扉を開けて此方をキラキラとした笑みを浮かべながら言ってきた。

 しかし俺は彼女とは裏腹に、現在進行形で緊張で全身がミスリルの様にガチガチに固まってしまっている。


 あと少し歩けば……女性の部屋……まぁまだ俺からしたらガキだが。

 しかし女は女。

 引き篭もりに限らず、一般男性なら誰もが緊張するであろうシチュエーション。


 こんな感じの出来事は異世界でもあった。

 勿論俺がされた訳ではないが。

 全部同僚の話だがっ!


「……ライヤーさん? 入らないんですか? それとも嫌ですか……?」


 中々入らない俺のことを何を思ったのか、そう言って若干涙目になる。

 そんな姫乃を見た瞬間、背筋がゾワゾワッッとして悪寒が走り、同時にメイドの誰かが見ていることに気付く。


 マズイマズイマズイ殺される……ッ!!


「い、いや! ちょ、ちょっと緊張しただけだ! 何せ人の家なんて200年振りだしなっ! あっはっはっはっ、さぁ入ろう!」


 俺はその視線から逃げる様に姫乃の部屋に身体を滑り込ませる———と同時に俺の鼻腔を仄かに甘くて爽やかな良い匂いが占拠した。

 

 こ、これが女の子の部屋……!?

 何なんだこの別世界に来た感覚は!?

 男性の部屋と女性の部屋はこうも違うのか!?


 男性の部屋は無骨で殺風景な事が多いが、全然違った。

 姫乃の部屋には可愛らしいベッドにぬいぐるみが数個置いてあり、机には配信で使うであろうキーボードと液晶(漫画で配信モノを見たので理解した)更にはみるからに良さそうなゲーミングチェア(漫画で———以下略)もある。


「わ、私の部屋はどうですか……?」

「大変素晴らしいと思います」

「な、何故敬語なのですか……?」


 そんなの緊張しているからに決まっているじゃないか。

 こちとら生涯で女性の部屋に入ったことはゼロだぞ。

 夜這いはされたが、皆俺の地位が目当てだったので途中から部屋に入らない様に結界を張っていたが。


「そ、そういえばチャンネル登録者はど、どうなんだ?」


 俺は少し無理があるが話題を変える。

 しかし姫乃はテンションが上がっているのか、特に指摘もせずに「ちょっと待ってて下さいね」と言ってスマホを操作し始め———



「ふわぁあああああああ!?」



 スマホの画面を凝視したまま絶叫し始めた。

 いきなりの事で驚く俺に、姫乃がグイッとにじり寄って来てスマホの画面を此方に向ける。


 そこには———


「チャンネル登録者……420万人……? 何があったと?」


 前回見た時の2倍以上の数が示された姫乃のチャンネルのホーム画面が映っていた。

 そこで姫乃が笑顔を浮かべながら弾んだ声で告げる。



「私達———バズったんですっ!!」



 もう何が何やら分からないぜよ。

 

 俺は一先ず自分の頭を整理することに全リソースを集中させることにした。 


 ———理解するのに7分掛かった。  


————————————————————————

 明日も2話投稿になるかも。

 なので是非フォローと☆☆☆をよろしくお願いします!!

 執筆の原動力になるので。

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