第4話 引き篭もり魔術師、外の世界に出る

 ———目まぐるしく景色が変化して、辺りから音速を超えた動きをしているためにソニックブームの轟音がダンジョン内を木霊する。

 

「うわぁぁぁ……私が7割の力で動いた時と同じくらいの速いですね……!」

「え、これで7割?」


 俺的には魔術も使って結構ガチで走っているんだが。

 というか俺も大概だが、この姫乃って奴も大概凄いよな。


 このダンジョンは全150階層あり、俺の世界ではNo.2くらいの難易度だったはずだ。

 それをまだ中層とは言え余裕で来られて、あのモンスターの巣窟でワンパンで俺を護り切れる姫乃の強さは異常だと思う。


 外の世界にはこんな化け物がウヨウヨいるなんて想像すると、一気に外に出たくなくなるので敢えて考えないようにしている。

 世の中知らなくていいことがあるのだ。


「あ、そう言えばヒメナーの皆さん見えてますか? 少し速いので見にくいかもしれませんが……」


 俺の腕に抱かれた姫乃がスマホに話しかける。

 というか、少しだけとはどういうことだよ少しだけとは。



《一応見えてるぜ!》

《まぁ速すぎて相変わらず見えないけど》 《カプ厨:50000円 もっといい機材を買う費用に充てて》

《お、それいいな》

《笑い笑い:5000円 まだ高校生なのでこれくらいしか難しいですけど、機材費に充ててください》

《しんご:10000円 同じく機材費に》

《お鍋:10000円 後は頼んだ! 機材は1番いいやつで1億7900万円だ!》

《廃課金勢:50000円 任せろ。続くぜ》

《結奈:10000円 何か面白くなってるね姫乃? それとチャンネル登録200万人&大バズりおめでと!》



「ふぇ……? 200万……? 大バズりした……? って結奈先輩!?」

「何言ってるか知らないけど、出口着いたぞ」

「え? あ、もう着いたんですね……それとすいません抱っこしてもらって」


 俺は止まっても未だ呆けている姫乃を揺らして正気に戻す。

 どうやら相当嬉しかったらしく、姫乃は完全に浮かれて正常な動きが出来ていなかった。

 

 しかし、それも直ぐ元に戻り、現在はスマホのリスナーに向けて終わりの挨拶をしている最中だ。

 同接? とかいうやつは103万人を突破しているらしく、『すーぱーちゃっと』も総額で1000万円は超えているんだとか。

 円がどのくらいの価値なのかは全く知らないのでイマイチ凄いのか良く分からないが、姫乃の反応を見る限り相当な大金らしい。


「———それでは今日の配信は此処までです!! それではまた今度お会いしましょう! 乙姫おつひめっ!」

「あ、乙姫〜〜」



《乙姫!》

《乙姫》

《乙姫〜〜》

《乙姫です》

《今回はいつも以上に姫たんが不憫だったなぁ……あっ、乙姫》

《正しくこれが神回と言うやつか……》

《地味にライヤーさんも乙姫言ってるの可愛いww》

《確かにww》



 ———此処で配信が終了する。


 配信が終了したことによりチャットも徐々に落ち着いていき、同接もみるみる減っていった。


「ふぅ……今日は一段と疲れました……主に誰かのせいで、ですが」

「よせやい。俺のお陰で同接増えたんだからいいじゃん」


 此方をジト目で見てくる姫乃にそう言うと、不服そうに頬を膨らませたが何も言い返してくることはなかった。

 そして配信が終わって気が抜けたのか、眠たそうに目を擦り始める。


 まぁいつもの10倍以上の人が見に来ていたらしいので、疲れているのだろう。


「ライヤーさん……ダンジョン出ましょう」

「お、おう……ちょ、ちょっと待ってな? 今から心の準備を———って押すなよバカァァァあああああああああ———」

「ふふんっ! 先程から散々私を疲れさせた罰です!」


 こうして俺は心の準備もままならない内に、ダンジョンを行き来するポータル———『ダンジョンゲート』に吸い込まれた。








 ———頭がぐわんぐわんする。

 それに転移の影響か、物凄く気持ち悪い。

 

 そう、まるで二日酔いを少し強くしたみたいに。


「———ライヤーさん、もう着きましたよ。目を開けても大丈夫です」

「本当か? 目開けたらモンスターの巣窟とかないよな?」

「ありませんから……もう私にそんな重労働をする体力はありませんよ……」


 疲れているのかツッコミのキレが若干悪い気がする。

 まぁそんなこと今はどうでもいいか。


 俺は恐る恐る、ゆっくりと目を開ける。

 そこには———


 

「…………何じゃこりゃ」



 見た事もない程の巨大な建造物の数々に、五月蝿い音を鳴らしながら人間を乗せる不思議な生き物の様なゴーレムの様なものが大量に動いている。

 道路も彼方の世界では考えられないほどに平らで段差がない。



「ようこそライヤーさん! 此処が私の故郷———日本の新東京都です!!」


 

 そう言って眩しくて美しい笑顔を浮かべる姫乃。

 しかし俺は、彼方の世界とのあまりの技術力の違いに———ただひたすらにポカンと口を半開きにして呆けることしかできなかった。



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