第3話 引き篭もり魔術師、ダンジョン配信者の実力を知る

「ねぇライヤーさん……」

「ん? どうしたんだ姫乃くん?」

「———絶対に近道じゃないですよね!? というか君付けはやめてください! 私は女の子です!」

「何言ってんの? そんなことは知ってるって。また俺を馬鹿にしてる?」

「してません!! あーっ! またモンスターがっ!?」


 現在俺達は、俺主導の元、このダンジョンでも特にモンスターに出会う道を進んでいた。

 更に戦いは全て姫乃に任せているせいか、物凄く怒ったり泣き目になったりと情緒不安定気味に戦っている。

 俺へのヘイトはモンスターよりも高いかもしれん。


 でも———


「リスナーの皆は楽しいよな?」



《もち》

《良くやってくれたライヤーさん!》

《流石引き篭もりだな。図々しさがレベチだぜ》

《やっぱり戦ってる姫たんカッコ可愛い〜〜頑張って〜〜!!》

《応援してるww》

《俺もww》

《見た感じ姫たんより断然弱そうだし大丈夫だろww》

《っていうかライヤーさんって順応力高いよな。引き篭もりのくせに》



「おい、誰だよ引き篭もりのくせにって言った奴。深く傷付いたわー俺に謝れ!」

「まずはこんな目に遭わせてる私に謝ってください!!」


 姫乃が狼型モンスター———グレーターウルフ———この世界での等級はB級らしい———をワンパンしながらツッコんでくる。

 どうやら俺の方を気にすることが出来るほどの余裕はあるらしい。


 ということで、俺は———取れ高(?)というのを優先させることにした。


「えー……でもなぁ……不憫な子を見ると萌えるって皆言ってるしなぁ……」

「どこからそんな言葉を覚えたんですか!?」

「此処」

  

 俺は『配信用スマートフォン』なる物を指差す。



《はーい。俺が教えましたーww》

《同じくww》

《だって姫たんの良さを教えたかったんだもん……》

《此処でーす此処此処》

《姫たんの良さは私が伝える!》

《ナチュラルにライヤーさんが受け入れられてるの地味にすこ》

《確かにww》

《普通なら間違いなく大炎上だもんな》

《姫たんって今までずっとソロだったし》



「え、姫乃ってずっとソロだったの? あんなにおっちょこちょいなのに?」

「おっちょこちょい言わないで下さいぃぃぃ!! ———【剣聖の閃光】ッッ!!」


 姫乃がそう叫んだ瞬間、姫乃が持つ片刃の剣が光り輝き、一面のモンスターの群れを一振りで一掃した。

 流石に無限湧きではないので、モンスターが現れる気配はない。


 そのことを確認した姫乃はふぅぅ……と一息ついて地面に腰を下ろした。

 

「あぁぁ……疲れました……それで、どうでしたかヒメナーさん?」


 どうやら姫乃はリスナーのことを『ヒメナー』と読んでいるらしい。

 そして、流石彼女のチャンネルなだけあって、俺が話していた時より断然コメントの流れる速度が速く、集中しなければ見えないくらいの速度だ。


「……これ何人くらい見てんだ?」


 ふと気になったことが口に出た。

 単純にめちゃくちゃコメントが流れるのが早いので、少し気になったのだが———

 

「えっとですね……って85万人!? 私、こんなに多いの初めてですよ!? 今までは10万人前後だったのに……」

「じゃあ俺って85万人に名前バレしてんのか……?」


 嗚呼……俺の命はどれくらい持つだろうか……。


「……何で天にお祈りしているんですか?」

「……死なないため?」

「だから死なない———まぁいいです」

「なんか呆れられた!?」


 普通に美少女に呆れられるの心にくるんだけど。


「……そんなに落ち込んでいないでとっとと出口を教えて下さい。いい加減疲れてきましたよ……」

「まぁ確かに」

「ライヤーさんは何もしてないじゃないですか」



《それな》

《全部姫たんに任せっきり》

《これぞ姫プか》

《構図は逆だけどなww》

《間違いない》

《でもライヤーさんのお陰でいつも以上に面白い。チャンネル登録とメンバー加入した》

《あ、俺も》

《私も!》

《姫たん推し:10000円 頑張ってください!!》

《大富豪:50000円 2人で配信してほしい》


「お、これがすーぱーちゃっとってやつか。ありがとう姫たん推しと大富豪! でも俺はやらないぞ。だって面倒なんだもん。引き篭もりは働いたら負けなの!」



《いや働けよww》

《働け》

《姫たんのヒモにはなるなよww》

《異世界人はもしかして働かなくてもよかったのか……?》

《な、何だと……!?》



「いやそんなことねぇよ!? 普通に働くし、何なら俺にばっか仕事よこすから逃げたんだし!」

「———そんなことどうでもいいですから出ませんか・・・・・?」


 突如俺の後ろからホラーばりの気配の薄さと暗い声色で話しかけてきた姫乃。

 そのあまりにもガチ系の雰囲気に、ちびりそうになったのは内緒だ。



《姫たん激おこで草》

《怒ってる姫たんも可愛い》

《可愛い》

《可愛い》

《可愛い》

《やっぱり姫たんは天使》

《それな》

《もう最近は仕事終わりの癒しと化してる》

《マジで分かるわぁ……》



 どうやら各々苦しいことは沢山ある様で、昔の俺の様に哀愁が文字越しからも手に取るように分かってしまう。

 しかし、同情よりも先にしなければならないことがある。


「姫乃、もう帰りたいか?」

「当たり前です! 幾ら同接が100万人を超えていようと流石に100匹以上の相手は苦しいですし、正直面倒くさいです!」

「そうか……———じゃあ出よう」

「……え? ———きゃぁぁああああああああ!?」


 俺はとある魔術を使用してから姫乃を抱き抱え、そのまま本当の近道へと足を運んだ。



「———自分だけ隠れるのは卑怯だぞ?」






 2人が消えた直後。


「グ、グルァァ…………」


 2人がいた場所には、無数のグレーターウルフの斬殺死体と、そのウルフの何倍もの大きさのある巨大なモンスター———ウルフキングが焼死体となって周りに電気を纏いながら無惨に転がっていた。


 

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