第2話 引き篭もり魔術師、ダンジョンを出る

「……つまり不審s———姫乃さんの住んでいる所はチキュウと言う星のニホンと言う場所だと?」

「はい、そうです。それでライヤーさんは別の星のアブソリュート王国という場所から来たと……」

「うん」


 不審者改め姫乃さんとの邂逅から数十分。

 やっとお互いの状況が整理できた。


 結論から言うと———どうやら俺はダンジョンごと異世界へと転移してしまった様だ。


 姫乃が言うには、地球の過去にアブソリュート王国なんてものは存在しないようだし、ダンジョンが現れたのもつい最近なんだとか。

 それまで魔力も無かったとのこと。


 まぁ正直言えば、案の定全く悲しくない。

 あの世界は俺を何かとこき使おうとしてきたから結局引き篭もった訳だし。


 逆に少しワクワクもしている。

 異世界というのは、200年前からその存在は知られていた。


 因みにダンジョンでは外界よりも時間が進むのが極端に遅いというのが常識だ。

 そしてこのダンジョンでの1日は外界での約1ヶ月ほど。

 つまり此処に200年居たというのは、外界では約6083年ほど過ぎている事になるのだが……まぁそんなのどうでもいいか。


 つまり何が言いたいかと言うと———何もないダンジョンの中に200年もいれば、物凄く飽きるというものだ。


 というかもう暇すぎて死にそう。

 最初の150年くらいは魔術の研鑽に時間を費やしていたから暇ではなかったけど、今は何もすることがないのである。

 不老長寿のポーションは作り終わっているし。

 本当は何か娯楽があればよかったのだが……そんな物あのクソ戦争ばっかの世界にある訳ない。


 なので、少し外に出てみるのもいいかもしれない。

 というか行きたい。

 勿論外に出ても働かないけど。


「そう言えばその光っている箱は何なんだ?」


 俺は先程から気になっていた薄型の物を指差して訊いてみる。

 明らかに俺の世界の物ではないのは確実で、魔術の痕跡も見られない、純粋な技術力によって作られた何かだと容易に推測出来た。

 

 姫乃は『ああ、これのことですか?』と言ってその薄型の箱について話し始めた。


「これはですね……『配信用スマートフォン』っていう機械なのです。これについてるカメラで此処を映しながらインターネットを経由してリスナーとチャットで会話するのですよ」

「カメラ? インターネット? チャット?」


 何それ理解不明な固有名詞のオンパレード。

 全然分からんよ。


「全然分からんからもっと分かりやすく説明してくれって」

「えぇぇ……なら説明するより見てもらったほうが早いですね」


 そう言って『配信用スマートフォン』なる物を俺の目の前に持ってくる。

 そこには———



《お、やっと見てくれたみたいだぞ!》

《こんにちはライヤーさん!!》

《こんにちは!》

《こんにちは!》

《こんにちは!》

《姫たんからあれだけ逃げられるって凄いですね!》

《確かにww》

《姫たんって一応S級探索者だもんなw》

《一応ww》

《やめたげて! 折角自分のドジさを知らない貴重な人に出会ったんだから!》

《もう遅いだろww》

《それなww》

《そう言えばライヤーさんって異世界人なんですか!?》



「な、何だこれ……?」


 何故か恐ろしい速さで色んな言葉が行き交っており、呆けた自分の顔も映っていた。

 

 え、めちゃくちゃ名前バレしてますやん。

 もし魔術師いたらどうすんの?

 普通に死ぬやんけ。


 俺はすぐさまその『配信用スマートフォン(??)』から逃げる様に距離を置く。

 そして近くの物陰に隠れながら叫んだ。


「———ひ、人の名前を勝手に広めないで! これで死んだらどうすんのさ!」

「え、怒る所ってそこなのですか……? 普通映される方をまずは怒るんですけど……って、名前バレたくらいで死なないですよ!?」

「そんなの分からないじゃないか!! 死んだらどう責任取ってくれるんだ!? 生き返らせてくれるのか!?」

「何か面倒くさいですねこの人!? まぁ私が勝手に撮ったのが悪いんのですけどね!?」


 お互いに売り言葉に買い言葉で、中々終わらない言い争いが勃発する。

 しかし数分も経てば、この言い合いが如何に無意味であるかをふとした瞬間に悟り、何方ともなく口を摘んだ。


「……取り敢えずライヤーさんはどうしますか?」

「え?」

「いや、『え?』ではなくてですね……外に一緒に出ますか? と言う意味です」


 姫乃さんは首を傾げてそう言うと、俺達の世界では珍しい黒髪をサラッと肩から垂らす。

 そんな彼女に俺は即答した。



「———出る!!」

「即決ですか!? も、もう少し悩むとか……」

「だって200年も同じ所いたら流石に飽きるし暇だし暇だし」


 1年間ずっと擬似太陽を眺めながら意味もなく魔術を使う身にもなってくれよ。

 間違いなく病むぞ。


 俺のあまりの清々しい即答具合に若干引き気味の姫乃だったが、直ぐに取り繕う。

 気配までは取り繕えていないようだが。


「そう言えば、姫乃はどうやって出ようとしてるんだ?」

「え? 勿論歩いてですけど? だって帰還石も何故か使えませんし」


 困った様に苦笑する姫乃には思わず同情してしまう。


 ああ……此処転移出来ないんだよな。

 だからわざわざ俺も魔術の研鑽はずっと下の階でやってたよ。

 普通に階段の上り下りが1番めんどいね。


 しかし———俺はこのダンジョンに200年も住んだ男。

 勿論物凄い近道の裏道はしっかりと把握しておりますとも。


「じゃあ俺が案内するから付いてきてくれ!」

「え……ライヤーさんの案内ですか?」

「露骨に眉を潜めるのやめない? 俺達初対面だよね?」

「あ、ごめんなさい。あまりにも頼らなかったので」


 そう言って悪げもなさそうにぺこりと謝る姫乃の姿は此方を挑発している様にしか見えない。


「ふ、ふふっ……ま、まぁ俺は大人だから許してやるよ」

「ありがとうございます。それでは、どこに行けばいいのですか?」

「あ、それはこっちね」


 俺はそう言って歩き始めた。


 ———モンスターが大量にいる遠回りコースに。


 別にイラッとして行ったわけではないし、この生意気なガキを教育してやろうとか思っていない。


「はぁ……初対面なのに何でこんなに頼らないんでしょうか……?」


 …………断じてないからな。


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