第一章 第三話 買い物と家事と本と

「とりあえず、これでしばらくは平気そうですね」

「あ、あのーエルさん。こ、こんなにいろいろ買ってもらってよかったんでしょうか……」


 ライセンス、とかいうものを作ってもらってから街に入り買い物を手伝った。のだが


「下着に服、それにこんなたくさんの本まで」

「いえいえ、最近受けた依頼でたくさん報酬をもらいましたし、一緒に生活していくのであれば服とかも必要ですし……何より記憶喪失だったら本とか、いろいろ読んでみて思い出すこともあるかなと……」

「だからといって、ここまでしてもらうのはやっぱり悪いですよ。いつか必ずお返しさせていただきます……」

「本当に平気ですって。私が好きでやっているだけなので」


 いろいろと買ってもらいすぎた……それに居候までさせてもらえることになった。見たところ安い宿もあったからそこで暮らしていこうかと考えたけど、ここのお金の仕組みとか仕事とか知らないってことで止められたのだ。


(うーん、それにしたってこんなに親切にしてくれるなんて……なんかありそうでちょっと疑っちゃうな……)


 そんなことを考えながら、街で見かけたものを思い出してみた。キラキラと光る剣だったり、なんか青みがかった瓶だったり……あとはすごく重そうな服もあった。あとは普通にお肉もお魚も売ってたし、本も売ってたし……それを売ってるひとたちも変に感じたものはなかった。


(でも、あの森?みたいなとこで襲ってきた生き物……いや化け物っていうのかな。あれは見た覚えがなかった、というかすごい違和感があったような)


「フードさん、どうかしましたか?」

「あ、いやなんでもないです。あ、そうだほかに行く場所はありますか?」

「うーん……服も、あと食料も買いましたし、帰宅するだけですね」

「はい、わかりました」

 

 そう言ってから僕とエル様は帰路に就き、化け物に襲われることなく無事帰宅することができた。街にいた時間が長かったのか、もうあたりは暗くなっていた。



「わぁ……すごく似合っていますよ、フードさん!」

「あ、ありがとうございます……なんか改めて言われると恥ずかしいですね」


 帰宅してから早々に、僕は新しい服に着替えていた。起きてから着ていた少し厚めの服と違って動きやすいものだった。確かエルさんはなんていってたかな……


「あの、この服って『はけま』?っていうんでしたっけ」

「袴、ですね。着た感じはどうですか?」

「えっと……特に問題はなさそうです。肩も動かしやすいですし、何より軽いので」

「それはよかったです……そうだ。あのフードさん、私は今からごはんの支度をしてくるんですが、フードさんはどうしますか?」

「えっと……」


 うーん、ここは手伝いをしたい……ところだけど、せっかく本とかを買ってくれたから読んでおきたい。かといって何にもお手伝いしないのは……買い物を手伝っただけじゃあ足りないし。


「僕もお手伝いをさせていただけませんか?どんな感じで料理をすればいいかも知っておきたいので」

「わかりました!じゃあ、まずは……」



 というわけで、今僕は本を読んでいた。というのも特に手伝えることがなかった……野菜を切ることすらできず、肉を焼けば焦がす寸前。スープに間違えて変な調味料を入れかけたりしたため自主的に本を読んことにした。

 いろいろ教えてくださったエルさんには大変申し訳ない。が、まさか僕はこんなに家事全般が苦手だったとは……これから色々覚える……いや思い出していかないとだな。


「えっと、たしか買った順番に読んでいくといいってエルさんが並べてたっけ」


 エルさんの家は二階建てで、僕は使われてない物置部屋?だったところを借りることにした。ほかにも部屋はあったのだがあまりにも広くきれいだったために遠慮した。


(あの時もエルさんすごい気を使ってくれてたけど、本当になんであんなに気を使ってくれるのかな)


 なんて考えながら、一番最初の本を開いた。題名は『語り歌 言い伝え集』というものだった。

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