第一章 忘却者「フード」 第一話 目覚めと遭遇

 とある世界にあるどこかの森で、ある一人の青年の意識が覚醒し始めていた。青年は氷のような何かで包まれいたのか、ただ単に雨に濡れていたのかわからないが、彼の服は少し濡れていた。


「……ん。あれ、寝ちゃってた……ってあれ」

 

 と、目をこすり体を起こす。周りを見渡してから青年は歩き始めた。

 どうやら長い、長い夢を見ていたようだ。もちろんその夢の内容は覚えてないようだ。


(ここは……どこ?さっきまで僕は……うん寝てた。でも森の中で寝た覚えなんてないし……)


 どうやら記憶が混沌としているようだ。なぜ自分がこんな森の中で目を覚ましたのか。そして自分はどこのだれなのか、自分の名前は何だったか……とにかくいろんなことを忘れているようだ。

 だが幸福にも、言葉は覚えているようだ。もちろん体の動かし方、声の出し方、頭の使い方も覚えている。普通の世界、例えば『ドラゴンとかゴブリンとかモンスターのいない世界』であればこれらを覚えているだけでもまあ生きることができる。

 だが、彼の目覚めたこの世界ではこれだけで生きることはとても難しい。なぜかといえば、


「グルルルルル」

「……え、おっきな蛇?でも足があるな……」


 彼の目覚めたこの世界には人も動物も殺す化け物がいる世界だからだ。


 

 目覚めてすぐ、凶暴な蛇に足の着いた化け物と接触した彼は逃げていた。


「はっ……はっ……はっはっ……」


 幸いにも、彼は身体能力が高かった。大きな木の根が無造作に張り巡らされている森の中でここまで逃げ続けられる人間はめったにいない。並大抵の人間であれば、もうすでにあの化け物の餌食になっている。


「まだ、はぁ、追いかけてくる……」


 彼はまだ逃げ続けている。どこかの村で目覚めていたら、彼はきっと天才といわれていただろう。目覚める場所と時間が悪かったようだ。

 さて、彼は知らないが最近この森に一人の女が現れた。化け物たちは彼女に襲い掛かったが、すべて返り討ちにされた。それだけなら彼がこうも追われ続けることはなかっただろう。

 その女は、化け物たちの食料となる生き物を守ったのだ。化け物たちは、今までのように自由に喰らうことができなくなり苛立ち、以前にもまして狂暴になっていた。


「うわっ!!」


 気づかないうちに疲労がたまっていたのか、彼はとうとう木の根に引っかかって転んでしまった。化け物はこの瞬間を見逃さなかった。


「ギョアアアアアアアア!!!!!!!!」


 久々の食事。久々の肉。化け物の声は初めに聞いた唸り声に比べとても高く、心なしか喜びに満ちていた。よっぽどうれしかったのだろうか、その化け物は転んだ青年に向かって飛び、嚙みついた。その間際の少年の顔は恐怖に満ちていた。


『バシャッ』

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