忘却者「フード」の魔元素世界生活

@kikyuuninngenn

プロローグ 私は罪を償わなければならない

「私は、まだ罪を償わねばならない。いやまだ償わねばならないんだ」


 床に臥せる男が言った。男の体は細々としており、つい先ほども同じようなことを言っていた。


「そんなことはありません師匠。私を、行き場のなかった私を育ててくださった。この道場も開いてくださった。多くの子供を、みんなを育ててくださったではありませんか」


 そばに座っている青年が言った。彼の着ている胴着にはいくつものシミができていた。ほんの少ししたら乾いてしまいそうなほどのシミがいくつもできていた。


「ああ……そうだ。そうだな。うん……」


 床に臥せる男は曇った顔をした。どうにも納得がいかない、と言いたそうな面持ちだった。

 男は人生の多くを殺しに費やした。何の罪のない人間、動物、妖。罪のある人間、動物、妖。多くの命を奪ってきた男が今まさにこの世から去ろうとしていた。

 だが、男に人の心がまだあったのか今となってはわからないが、ある時道場を開き身寄りのない子供を引き取るようになった。身の守り方、言葉、考え……ありとあらゆる物事を教えた。男は礼儀を持っていた。


「修一、お前に話さないといけないことがある」

「はい、なんでしょうか」


 床に臥せる男は一つ願い事を託した。自分が死んだあと、愛刀を修一に託すこと。だが決して人を切らないこと。

 もう一つ、話さなければならないことがある。そう、言おうとした男からは言葉が出なくなっていた。だんだんと力が抜けていき


【ぱたり】


 という音を立てて、体を起こしていた姿勢のまま横に倒れた。


 翌日、黒くよどんだ雲から光が差し込むことはなく、雨による大きな音が響く庵の中で男は罪を償った。

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