サービスマン、わからせる

 大輔が問い詰めると、九重さんはこともなく言ってのける。


「しかし、ポッキーゲームとは合コンの定番だと聞きましたが?」

「いやいやいや──」


 どこからどのように情報を得たのかは知らないが、ポッキーゲームといえば、あれだ。何かしらの細長い焼き菓子を両端からついばみ合い、最終的にはキスができるかもしれないというゲームである。そんな如何いかがわしいルールを君は正しく理解しているのかと、そう尋ねた。すると意外なことに、彼女はゲームの概要を把握しているようだった。


「顔も合わせるのも嫌な相手ならば、即座にポッキーを叩き折れば、それでいい話では?」

「それはそれで、とても悲しいゲームになるね」


 いざゲームをしようという段になり、対戦相手がワザとらしく失敗する様を見せつけられたのなら、それはそれでとても傷つけられる結果となる。やはり、パーティゲームをするにしても、もうちょっと角が立たないものを選んでもらいたい。

 そう九重さんに伝えるのであるが──


「しかし私は、この合コンを盛り上げなければなりません」

「その使命感いったい何!?」


 持ち前の生真面目きまじめさが原因なのか、どうにも納得する気配を見せてくれなかった。


 ──仕方ない。


「はい、九重さん」

「……これは?」

「ポッキーゲーム。一回、やってみるよ」


 テーブルの上にあったプレッツェルスティックを彼女に渡して、口にくわえるように指示する。彼女には一度、ポッキーゲームを身を以て体験してもらうことにした。そうすれば如何に自分が無茶を言っているのか、理解してくれることだろう。


「ほふぇえいーいふふぁ?」

「うん大丈夫。それじゃ──いくよ」


 スティックを口に咥えておちょぼ口となり、無防備な体勢をとっている九重さんへと、有無を言わせずに近寄る。肩をがシリと掴むと「むっ」と警戒するような声音が出されるが、対応されるよりも早く顔を近づけていく。自然と、彼女の極めて美しい顔が間近に迫ることになるのだが、そこは心を必死に殺すことによって耐えた。ここで大輔が照れているようでは、彼女に危機感を抱かせることは不可能だろう。


 そして、スティックの極端へと口をつけると、一気にむさぼる。


 ボリボリボリボリッ──


「っ〜!?」


 九重さんのご尊顔そんがんがかなりの勢いで近づいてくるが、遠慮はしない。狼狽うろたえているのが丸わかりだが、躊躇ちゅうちょもしない。ただ早急にスティックを食い尽くすことばかりを考える。無心で咀嚼そしゃくをしていると、星屑ほしくずが浮かぶようなその瞳が、グルグルと泳ぎまくっているのが見てとれる。綺麗だなと思いつつも、見惚みとれたりもしない。

 そして互いのくちびるがこれ以上なく接近して、もう密着するという間際になり、ついに九重さんからギブアップの宣言がなされる。


「ダメですっ!」


 パァン、と。

 本日二回目のハリセンの音が鳴り響いて、大輔は彼女に問うた。


「これで分かってくれた?」

「はぁ、はぁ、はぁ……確かにこれは……不純です」

「うん、理解してくれて嬉しいよ」


 ポッキーゲームとは、その気になれば簡単にいたすことができる。というよりも致すことが目的のゲームだ。よって、どんなハプニングが起きたとしても適切な対応を取れる者、もしくは不動の心得をわきまえる者こそがやるべきなのであって、センシチブな感性をしている高校生には不向きだ。もしかしたら九重さんはチキンレースのような我慢比べを想像していたのかもしれないが、軽い気持ちで乱行するべきモノでは決してない。

 九重さんは「まさか、こんな猥褻行為わいせつこういを気軽にゲーム扱いして取りあげているとは──」と思い知らされている様子である。いったいどんな媒体ばいたいから影響を受けたかは知らないが、これで彼女も節度を守ってくれることだろう。


「しかし、困りました。合コンというのは、他に何をすればいいものなのでしょう?」

「えぇ……まだ何かするつもりなの?」

「合コンにはパーティゲームがつきものだと伺ったからには」


 しかし、九重さんはまだ、やる気を失っていない様子である。

 その理由を問うてみると「これも人助けですから」と鼻息の荒い返答があった。その動機の根源を知っている身としては、なんとも否定しにくい。もうやめてくれ、なんて言えないからには、仕方ないので代替案を彼女に提示する。


「それじゃあ。差し障りのないゲームがあるから、そっちをやろうよ」

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