サービスマン、合コンに参加する

サービスマン、ブリーフィングを行う

 合コンという行事ぎょうじがある。

 合同して行われるコンパニーという意味であろうが、現代社会において、主だっては男女の出会いの場だ。見知らぬ男女がよりあって飲み会を開き、運命の人を選別する。つまりは縁談えんだんなのである。

 その特性からか、会によってはやや破廉恥はれんちな場として受け取られることもあり、勉学を本分とする高校生にとっては馴染なじみの薄いイベントであるはずだった。


「んで、なんでそんな、合コンなんて話になってるの?」


 放課後の教室。

 男子学生がたむろしている中心で、佐和大輔が問う。


「それには海よりも深い理由があってだな──」


 すると大柄な男がもったいつけて答えた。


「なんと他校の女子からオファーを受けてしまったんだ」

「深さが水たまり以下じゃねえか」

「そのとおり。つまりは、海より低みにあるということもまたせいなりだ」

「ああいえばこーゆうな、おい」


 男子高校生にありがちな馬鹿な問答を交わしながらに、コミュニケーションをとる。対面する同級生の名前は大宮茂といった。天文部に所属する、人畜無害な男だ。


「まあ、せっかくの機会だからよ。やる気のある男どもを集めてやってみようと思ってさ──ああちなみに、さっきから大宮の野郎がさも自分の手柄てがらみたいな言い方しているが、話を持ってきたのは俺だかんな」


 そして大宮の隣、なよっとした笑みを浮かべる中背ちゅうぜいの男が口を挟んでくる。こちらは名前を小宮洋二という、陸上部に所属する、ちょいわるそうに見えるが見かけ倒しな男である。

 大宮と小宮。ねらってそろえたのかと問いたくなるようなコンビだったが、彼らこそが今回の『サービスマン』への依頼者だ。依頼の内容としては『合コンの人員を求む』である。

 しかし、気になって尋ねてみる。


「二人とも、女関係にそんなガツガツしてたっけ?」

「そりゃ人なみには興味はあるぞ?」


 大宮が答えると小宮が言葉をいだ。


「まあ、向こうの女子にしても、彼氏を探したいというよりは『合コン』という行事自体に興味があるからって感じだからな。学校の垣根かきねを超えた交流会みたいなもんだろ……と、そういううたい文句で参加者をつのっていたわけなんだが──」

「大宮のスケベしか手が上がらなかったわけか」

「ああ、まったくだ。男子高校生ならばえたけものと同じだろうと思い込んでたが、意外と草食動物ばかりだった。ケダモノは大宮だけだったらしい」

「人のことを指定害獣のように言うが、貴様らも同じだからな?」

「失敬な、俺は紳士しんしだブヒ」

「ちょっと女の子とイチャイチャしたいだけだからなウキッ」

「ケダモノどもが何言ってんだクマー」


 馬鹿の会話を挟みつつ、話は進んでいく。

 集合日時と場所の確認。参加人数は六人、相手方の女子が三人にこちらが男子三人。各自、最大限のオシャレをしてくること。三人とも流行はやりの格好をして被ってしまうとたまれないため、事前に示し合わせること。など。

 そんなことをり合わせていく。


「一応、確認しておくが、隠れて飲酒しようなんて集まりじゃないんだろ?」

「そこは大丈夫だろ。相手側の幹事──その子が発起人ほっきにんらしいんだが、普通の女の子だって聞いてるぞ。ただのお茶会だろうさ、会場だって『マンハッタン』だしな」

「いや、わからんぞ。『ねーいいじゃん。今からカラオケで飲もうよ〜、バレないとこ知ってるから〜』とか言われても断れる自信はあるのか、お前ら?」

「てめぇの猫撫ねこなで声に殺意を覚えたことは置いといて……うーん……俺はパスするわ。本気で想像してみたんだが……なんだか高校生でヘベレケてる女の子に魅力を感じなかった」

「確かにな。これがセクシーな女子大生のお姉さんだったら、送りおおかみへと妖怪変化していたところだった、危なかったな……」

「お前らの童貞丸出しな妄想力に、俺は感動で泣きそうだよ」


 そこまで話したところで、教室の入り口から一人の女生徒が顔をのぞかせていることに気づく。九重さんだった。彼女は教室内の異様な空気に一瞬、怪訝けげんな顔を見せるものの、大輔たちの相談事がまだ終わらないことを見て悟ると「図書室で時間を潰しておきます」と言って去っていく。

 小宮が口を開いた。


「九重さん……すげえな。俺、だいぶ見慣れてきたと思ってたけど、そんなことねえや。正直まだドキドキしている自分がいる」

「んだな。あんな天上人てんじょうびとみたいな子が、我が校の制服を身にまとってるんだぞ? 脳がバグるわ。毎日毎日、快楽物質がピュウピュウと出やがるもんだから、脳味噌が高野豆腐こうやどうふみたいになっちまってる」


 大宮がなんじゃそりゃとツッコミたくなるようなバカを言っているが、取り合わずに無視する。すると、そんな大輔の態度が気に入らなかったのか、食ってかかってきた。


「んでも、最近は佐和とばかりベッタリだかんなー」

「おうおう、そうだそうだ。んで、ここだけの話、二人は付き合ってんのか?」


 便乗して尋ねてくる小宮の疑問にはどう答えるべきかと思案してしまう。

 大輔と九重さんとの関係は良好ではある。だが、どうやったところで、『サービスマン』の依頼主と請負人うけおいにんなのだ。ビジネスライクなお付き合いではないとは思いたいが、そこに情愛がからんでくる気配はない。

 仕方がないので正直に話した。


「付き合ってはいないな」

「つうことは、佐和のサービスマンか?」

「そういうことになる」

「ふーん……けど、えらく長い間一緒にいるよな。そんなに厄介な案件なのか?」

「……まあ、そうだ」

「そんな怖え顔すんなよ。べつに興味本位で根掘ねほ葉掘はほり聞いたりしねえって」


 小宮は「ただまあ、さ」と一度、前置きを挟んで口を開く。


「人手がいるってんなら言えよ。同じ学校の女子が困ってんなら手助けぐらいはするさ」

「おう。そういうことなら、そんときは俺にも声かけろよ。遠慮えんりょはいらねぇからな」

「お前ら……ああ、そのときは頼む」


 気負きおう気配もなく、こともなげに言ってのける学友たちの姿に、素直に感心して答える。だが、お約束のように、前言を台無しにする台詞せりふが続いた。


「あ、俺がそう言ってたって九重さんに伝えておいてな。もしかしたら、そこから始まるラブコメディがあるかもしれない」

「テレッテッテッテー……大宮と小宮の好感度が5ポイントあがった」

「お前らがそんな奴だってことは知ってたよ」


 とりあえずは、心配こころくばりを受けたことだけは伝えておいてもいいだろう。

 今はまず、合コンの件こそが優先事項だ。

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