九重結菜、ふんばる
ザリ、ザリ、ザリ……と。
地面の
──わざと鳴らしている?
こちらの恐怖を
そんな
「そういえば、美味しいケーキといえばやっぱり喫茶『マンハッタン』だと同級生に聞いたんですが──」
「はい……」
同時に、それとなく設楽さんに話しかけた。後ろを歩くソイツに不審を抱かせないようにと
ザリ、ザリ、ザリ──
「……」
ザリ、ザリ、ザリ──
「……」
ザリ、ザリ……ザッ!
「っ」
地面を蹴るような音が聞こえてビクリとする。もしや急に駆けだしてきたかと危ぶむが、少しするとまた、ザリ、ザリ、ザリと、規則正しい足音が聞こえてきた。
──こんなに怖いとは考えもしなかった。
思わず弱気の虫が顔を出す。
得体の知れない悪意がつかず離れずに後ろをついてくる経験など、結菜には覚えがない。思考に浮かぶのは悪い結末ばかりだ。抱きつかれて暗がりに連れ込まれやしないか、いきなりナイフで背中を刺されやしないか、などと、縁起でもない想像ばかりが湧いてくる。そも、後ろにいるのは誰なんだ。そんな疑いの念があったとしても振り向くことすら許されない。
恐怖でどうにかなってしまいそうだ。
甲高く悲鳴をあげて走り出してしまいたい。そんな気持ちを理性でグッと抑え込む。
「設楽さん、もう少しです。頑張って」
「はっはい」
もしかしたら不用意に声をかけるのは
遊歩道を
ひたすらに直線な一本道だ。
ここに至ればもう正面にしか逃げ道がないからには、覚悟をもって進む。するとザリザリと鳴っていた足音が、コツコツと硬い地面を叩くような音にかわる。後ろのソイツも橋へと進入してきた様子だ。
「……っ⁉︎ 設楽さんっ、走って!」
状況の変化を察知して大声をあげた。足音が変わった。カンカンカンッと、明らかに駆けてくる音がするからには、こちらも
「待ってくれ……!」
後ろからそんな声が聞こえてきた。
男性の声だ。
だとしたら、結菜達の足ではすぐさまに追いつかれてしまうだろう。しかし予想に反して、しばらくは逃げ切ることができた。もしかしたら相手はひ弱なのか。そんな思いが頭をかすめるも、希望的観測は
「かかってきなさいっ!」
設楽さんを後ろに
本当に襲いかかられたらたまったものではないが、これで足を止めてくれという思いで
「ひっ──」
対面した男が
「女の子に乱暴して好きにしようだなんて、そんな
「ちょ、ちょ、待ってくれっ。乱暴なんてそんな……俺はただ──」
しかし、精一杯に
「何だってんだっ」
これみよがしに警戒された
それを受けて、ついには覚悟を決める。
「設楽さん、逃げてください」
「えっでも──」
「いいから早くっ」
強めに叫ぶと「あんたちょっと静かにしてくれ、頼むから」と男が手を伸ばしてきた。それがとうとう身体に届きそうだといったところで、結菜は目を
「九重さん、そこまで頑張ってくれなくても……」
佐和くんだった。彼は背を見せて、結菜達を庇うようにしている。そして、フードの男の手を掴んだまま「いや、まずは『ごめん』かな。助けに来るのが遅れて」と言った。そんな彼の言葉に、結菜は「助かった」と、
「怖かったです」
「いや、本当にごめんな。まさか犯人に
「あとはよろしくお願いしますからね」
結菜が手短に言うと「任されよ」とこれまた短めの返答がある。その言い草はまるでアニメのガキ大将のようではないかと指摘したくなるものの、結局、そんな元気はないため
「さて、観念しろぃ。神妙にお縄につけ」
佐和くんがフードの男に言い放つ。
そのまま「お前は完全に包囲されている」と言った通り、橋の両端をヤンキーの方達が封鎖している。他に逃げ道はないからには、男にとってはもう完全な詰みだ。そうなると彼はどんな反応をするのだろうかと、
「ん、あれ?」
佐和くんが何かに気づいたような声を出した。
「俺だよ、俺。どうして俺はこんな目にあわなくちゃならんのだ」
「もしかして田中くん?」
「そうだよ」
フードの男がやりきれないといった風に言う。
どうにも話の雲行きがおかしい。
結菜は気になって尋ねる。
「もしかして……知り合いなんですか?」
すると佐和くんが答えた。
「同級生だよ」
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