サービスマン、美人姉妹を助ける⑥
やがて光がおさまった後には変化のない病室があった。
「……とりあえず、死んでないから良し、と──」
大輔は自らの体の調子を確認し、そう
もしかしたら、今頃はミイラになっていた、なんて結末があってもおかしくはなかったが、そうはならなかった様子だ。
大輔がしたことといえば、既存の『呪い』を新しい『願い』へと書き換えるという
それは前例のない行為だったため、どれほどの『対価』を要求されるものなのか、まるで見当がつかなかった。なるべく『呪い』の本質を変えることないように唱えさせてもらったが、そのことが
「っと。まだ終わりじゃない」
一つの山場を越して、気が抜けそうになっていた自らに
むしろここからが本番だ。
そう思って
そこには
次いで彼女を覆うようにしている『呪い』を確認する。こちらには変化があった。
「お前はなんとまあ、
黒くておどろおどろしかった『呪い』の姿が、以前よりもおとなしくなっていた。
見る者を不快にさせるように
幾分か、その
「つまり、これが俺の下心ってやつなんかな?」
現在、この『呪い』の主は大輔ということになっている。つい先程に、そのように願わせてもらった結果だ。それに合わせて『呪い』の
「自分で言っておいて、悲しくなってくるな」
ということはつまり、この『呪い』の姿形は大輔の心情の表れだと言えなくもない。
以前よりはマシになったとしても、汚いといえば汚い形相だ。
なんだか自分にもゲスな
──これからすることを思うと、尚更にこたえるものがある。
そう思うとともに、ふと、周囲からの視線というものが気になってしまった。
だから、さりげなく辺りの様子を
そこには四人の人間がいた。藤堂さんを除いた全員が呆然とこちらを見ている。大輔が何をしているのか理解できていないのだろう。九重さんもまた困惑げな顔をしている。
それも仕方ないことだとは思う。事態は目まぐるしく
「……ま、いいか」
なによりもまずは人命救助が最優先である。時間がないのだ。いま大輔が何を目指して、どういう
そのようにやや乱暴に楽観する。
いまだ観衆は不思議そうに大輔を見てきているが、受ける視線はすべて意識の外へと追いやった。そして、ひまりちゃんのもとへと寄り添う。
いつまでも、彼女を苦しませるわけにはいかない。
「お待たせ、ひまりちゃん」
呼びかけつつ、華麗な所作でベット脇に
その動作は自分でも大仰だと思ったが、演技過剰なぐらいがちょうど良いだろう。
「これから一つ、君に『お願い』をしようと思うんだけど……聞いてくれるかい?」
まるで自分が舞台役者になったかのような気分で
そこに照れや弱気なんかはいらない。自分はいまパリ・オペラ座の花形イケメン俳優なんだと、必死に自己暗示をかけながらにキザな挙動をとる。
「突然のことで君は驚くと思う。それでも、どうしても聞いてほしいんだ」
そして情熱的な言葉を
ひまりちゃんは不思議そうな顔で大輔を見るばかりだ。もしかしたら、大輔の突然の
しかし、これこそが必要なことだった。
現在のひまりちゃんは『呪い』によって生命が危ぶまれている状態だ。それを救済する唯一の方法がある。それは大輔が彼女を「手に入れる」ということ。そうすれば『呪い』は晴れてその役割を
そういうことになっている。
そういうことになってしまった。
しかしそうは言っても「手中にする」というのもまた
大輔は真剣にそんなことを考え込んだ。
そして男女の関係において「手に入れる」となれば、それは一つの意味しかありえないだろうという結論を得る。
「俺は君が好きだ」
そのためには、心にも無いことだろうが堂々と
不意に後方から「なっ⁉︎」という驚きの声が聞こえてくるが、無視する。
たとえ「
「これを君に──」
大輔は
それを
「一生懸命に作ったんだ。どうか受け取ってほしい」
それはクローバーで作られたエンゲージリング。
かつてこの病室で、ひまりちゃんが目を輝かせて夢見ていた、白い花の指輪である。
当然のように左手の薬指に付けられたその指輪に、ひまりちゃんは目を丸くしている。よほど驚いたのであろう。その様子は、身体の不調をも
「ひまりちゃん……いや、九重ひまりさん──」
大輔は
またもや後方から「まさか……⁉︎」という疑念の声が聞こえてきた。
その通り。
そのまさかである。
まさか大輔も、今回の一件がこのような茶番じみた
「──どうか俺と『結婚』してください」
大輔がひまりちゃんを「手に入れる」方法。
それはプロポーズである。
●
その日、世界から
まるで
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