サービスマン、美人姉妹を助ける④
大輔は
しかし大輔は、そんなことはどうでもいいと言わんばかりに、ぞんざいに唱える。
──ひまりちゃんと話をさせてくれ
すると、あたりが光に包まれる。
そして結果を待つこと数秒を経て、願いの通り、ひまりちゃんの意識が戻った。彼女はうっすらと目を開けるも、まだ意識は
「ひまりっ──」
大輔の後ろから女性の声がする。
九重さんの母親だった。彼女はそのままフラフラと、大輔を押し退けて前に出ようとする。当然だ。目を覚まさないかもしれないと危ぶまれていた実の娘が
しかし大輔としては少々困った流れでもあった。
よってここは心を鬼にしてでも、九重さんの母親を抑えようとする。
しかし、それは他の人物の手によってなされた。
「お母さん──」
九重さんだった。
彼女は母親の両肩を
感謝の気持ちは行動でこそ返すべきだろう。
「ひまりちゃん。聞こえるかい?」
ゆっくりと尋ねかける。
しかし、ひまりちゃんは大輔へと視線をよこすと苦しそうに息を荒げた。身体に痛みを感じるのであろうか、
大輔が『対価』を小さく
──ひまりちゃんの苦痛を
だから予定にはない、追加の『願い』をマガダマへと念じる。
すると、ひまりちゃんの表情は一転、おだやかなものになった。
それと同時に、ごっそりと『対価』を持っていかれる感覚がある。まるで体の一部が消えて無くなってしまったかのような
しかし構いはしない、結果として生き残れるならそれでいい。
「……ぃ、さ……」
ひまりちゃんは起き抜けに
これでは彼女からの意思伝達は難しい。
「大丈夫だよ、俺の話を聞いてくれればそれでいいから。それでちょっと、ひまりちゃんには一つだけお願いがあるんだ。首を振って答えてくれるかい?」
大輔の
それは一つの賭けでもある。
そして賭けをするためには、可能性の高い手札を
「俺は今から君のことを助けようと思う」
だからこそ、いきなり本題には入らずに、彼女に語りかける。
決して無理やりに
すべては大輔の説得力にかかっている。
しかし、ひまりちゃんは微かにだが首を横に振った。それは否定の意思表示というよりは、言葉の意味が分からなかっただけのように思われた。
大輔は、ゆっくりと優しくひまりちゃんに呼びかける。
「九重さんから聞いたよ、ひまりちゃんは
ひまりちゃんはまたもや首を横に振る。
その瞳からは「そんなことできっこない」と言われている気がした。
さらに言葉を重ねる。
「あとはそうだ。遊園地に行ったことがないって聞いた。それはいけない。ひまりちゃんはもっともっと楽しい思いをするべきなんだから、病気が良くなったら、お兄さんが連れて行ってあげよう」
今度は首を振られることはなかった。
その代わりに、ひまりちゃんの瞳が悲しそうに
今にも泣き出してしまいそうだ。
だから大輔は、その表情を否定するように宣言した。
「約束する。絶対に君を助ける」
それはもう何度目かも分からない約束だった。
それでも、何度でも言ってのけるつもりでいる。
ひまりちゃんは、彼女こそは、絶対に救われるべき人物なのだから。
「君のお姉ちゃんとも約束したんだ『必ず助ける』って。ひまりちゃんがいなくなっちゃったらさ、お姉ちゃんはきっと、たくさん泣くことになると思うんだ。そんなのは俺も見たくないんだよ」
そう言って大輔は、身を退けて、ひまりちゃんから九重さんの姿が見えるようにする。二人が視線を交わすことができたかは分からない。けれどひまりちゃんは、確かに首を動かして、誰か大事な人を探すような仕草を見せた。
その瞳は、先ほどよりも気力が
──ここまでだろう。
これ以上に会話を引き延ばしてタイムアップになってしまったら目も当てられないことになる。
なんとかこれで彼女には、大輔が本気だと伝わったと思いたい。
「いいかい? ひまりちゃん」
大輔は、これは大事なことなんだと、前置きをしてから彼女に話しかける。
「これから俺が君に一つの『お願い』をする。それに必ず『はい』と頷いてくれ。嘘でもいい。そうすればあとは、お兄さんが上手くやってやるさ」
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