サービスマン、美人姉妹を助ける②
大輔が
その
「佐和くん……私は……わたしはっ──」
彼女はそのまま何かを言いかける挙動を見せる。だが、ついぞ何かしらも申し立てることはなく、その代わりに大粒の涙を流したかと思うと「う……うぁ、うあぁ」と声を出して泣き崩れてしまった。
「どっどうしたの?」
そんな九重さんの様子を見て、ひまりちゃんの身に何かあったのかと不安がよぎる。だが、ひまりちゃんはベットの上でか細いながらも息をしている様子であった。
──よかった、まだ間に合う。
生きてくれてさえいれば、大輔のマガダマを使用して、きっと助けることができる。時間の余裕はあまりないだろうが、ひとまずはそのように
だからとりあえずは、へたり込んでしまった九重さんをどうにかするのが先決だろう。
大輔はそう思い直して、彼女の元へと寄り添い、視線を合わせた。
すると九重さんは大輔の顔を見て、言う。
「……佐和くん」
「なんでしょう?」
「どうか、私の『命』を使ってください」
「……はい?」
唐突な提案に、大輔は
そして九重さんが『対価』の正体について知っている
疑問に思っていると、横合いから声をかけられる。
「佐和くんの
藤堂さんであった。
彼女は意識的に冷静を装っているのか無表情であり、なんの感情も
──こうなると思ったから黙っていたというのに。
もしかしたら大輔が変に気をまわして真相を隠していたからこそ、状況がややこしくなったのかもしれない。しかし悔やんだところで現状は変わらない。
「どうか私の命を使ってひまりを助けてください……お願いします」
「あー……えっと。色々と言いたいことはあるけれど──」
ここは正直に答えるほかない。
「それは無理なんだ」
「どうしてっ⁉︎ ひまりのためなら私の命なんてっ」
興奮する九重さんを刺激しないように、
「マガダマは俺の命しか喰わない」
それは事実だった。
本来であれば、神秘材は捧げられる『対価』を
しかし、大輔の持つマガダマについては話が違う。
「小さい頃に『マガダマを俺専用のモノにする』って願いを叶えちゃってね。そのせいで使用することはもちろん、『対価』ですら俺のものにしか反応しないようになった」
「そんなっ……どうしてそんな馬鹿なことをっ⁉︎」
「あ、はい。すいません」
きっと
自分でも馬鹿なことをしたと自覚しているので、あまり責めないでほしい。
「そういうわけで九重さんの命を対価にすることはできないよ」
「そんな、それなら私は一体どうすれば……」
「大丈夫。俺に任してくれればいい」
「そんなことできませんっ‼︎」
九重さんを安心させるつもりで口にしたが、予想もしない拒絶の言葉が返ってきて、少々面を食らってしまった。
彼女を見ると深刻な様相をしている。
「そんなことをすれば佐和くんが……あなたには返しきれない恩だってあるのにっ──」
そうしてまた九重さんは涙を流し始める。
だんだんと彼女が何に苦しんでいるのか、理解ができてきた。
どうやら大輔とひまりちゃん、両者の命を
それも致し方ないことかもしれない。
いくら気丈に振る舞っていたとしても、九重さんとてただの高校生だ。十六歳の少女なのだ。他者の命を左右するなんて大それたこと、負担が大きすぎて決定しきれるものではない。
大輔としては、そんなに思い詰めずともひまりちゃんの身だけを案じてくれれば良いと伝えたかった。だが、それでは
──本当に
そんな風にボヤいてしまうと共に、どこか心が満たされるような感覚がある。
だからこそ努めて
「九重さん」
「ぅ……は、い」
しかし、その
そんな驚くべき事実を発見して、苦笑しつつも大輔は言った。
「大丈夫だから。俺を信じてくれ」
「ぇ……」
九重さんは悲観をしているようだが、状況はべつに悪くはない。
ひまりちゃんはまだ生きているし、呪いに対処できるマガダマもこの手にはある。どうやら大輔の身の安全を
「俺の心配をする必要はない。そもそもの話だ、俺は『余命があと一年』なんて言い続けて、かれこれ十年ほど生きながらえているよ。ちょっと
「佐和くん……」
そう言ってのけると、九重さんの顔が上がった。
大輔の言い分に何らかの希望を
その
「大丈夫だ、必ず助ける」
──ひまりちゃんだけでなく、もちろん君のことも。
ついそんな
九重さんは、涙で汚れてしまった顔を洋服の
そして大輔を見て「佐和くんを信じますからね」と言った。
だから大輔も「任せてくれ」とだけ返した。
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