九重結菜、『対価』の正体を知る②
状況はもう、彼と彼の持つ『マガダマ』に頼ることしか手は残されていない。
藤堂さんはそう言うと、結菜の返答を待っている。
慌てて結菜は言葉を返した。
「それが……連絡をとるけれど繋がらないんです。途中までは一緒にいたのですが」
「そうですか」
藤堂さんは何かを思い詰めるような
結菜には彼女が何を
「けど、佐和くんは必ず来てくれると思います。この時のために二人で『対価』を貯めてきたんですから」
「『対価』を貯める……?」
すると藤堂さんは意想外な言葉を聞いたように、結菜へと振り向いた。
「結菜さんは一体なにを言って……?」
「え、なにをとは──」
「詳しく教えてください」
藤堂さんの圧におされて、結菜はひと通りの説明をした。
これまでに大輔と一緒に『サービスマン』として活動をしてきたということ。善行を積むことこそが神秘財『マガダマ』の『対価』になり得るのだと、大輔からはそう聞いていたことを。
「『人助け』をすればポイントのように『対価』が貯まると、佐和くんがそう言ったのですか?」
「は、はい……」
藤堂さんのただならぬ様子に、結菜は
もしかしたら間違った言動をしてしまったのかと不安になった。けれど何が彼女の不興を買ったのか分からない。
藤堂さんは「あの子は、まったく本当に──」と
「いいですか、結菜さん──」
「結菜?」
すると会話が
振り返ると、両親が病室の扉を開いていた。
心配だった母も、父の
やがて病室内は静かになった。
聞こえてくるのは一定のリズムを刻むピッピとした機械音だけ。
両親は
藤堂さんが一つ大きく息をついた。
「私はこれから、余計なことを言うのかもしれません」
そして結菜へと真っ直ぐに視線をよこす。
「彼はきっと結菜さんには不要な心配をかけまいとしたのだと思います。けれど私は、あなたには正しいことを伝えなければならないと判断します」
「それは……正しいこと、とは……?」
藤堂さんの口調に
しかし彼女はその疑問には答えずに「結菜さんには、あの子のことを知っておいて欲しいのです」と言った。
「どうか最後まで
「……はい」
「佐和くんが結菜さんに言いました『対価は善行によって貯まる』という言葉──それは
「嘘……?」
「正確には、根も葉もない
藤堂さんは一度言葉を区切ると、
「古来より『人の願いを叶える器物』──神秘財は世界中に存在していて、人々はその恩恵を受けながらに日々の営みを送って来ました。その来歴には様々なものがあります」
歴史を
かつてとある王宮においては、持ち主の願いを叶えるという美しい宝石があった。とある外国の田舎町においては、
どれも現実に起こった出来事だと。
そうして叶った悲願があるのだと。
「有形、無形は問われません。ただ代償をもって『願い』を叶えてくれる物体や儀式こそを神秘財と呼称します。そのように種々様々な神秘財ではありますが、ただ一つだけ共通なことがあります。それは求められる『対価』が同一だということです」
そして藤堂さんは神妙に、言葉を選んだようにしてその
「人の『命』を代償とするモノこそを神秘財と言います」
「人の……いのち?」
それを察したのだろうか、藤堂さんは間をおかずに言葉を続ける。
「『生命力』『寿命』『天命』。いろんな言葉に言い換えることもできるでしょうが、『人が生きるために必要なエネルギー』それを以て『対価』とします。神秘財というの当然の
まるで感情を押し殺しているかのように、能面のように冷たい表情を
結菜にとって、そんな彼女の言葉は到底受け入れ
「そんなっ、でも佐和くんは生きていますっ。いつかは『マガダマ』を使ってひまりを助けてくれてっ──」
それは大輔と最初に出会った時のことだ。
彼はひまりの危機を救ってくれて、ピンピンとしていた。決して結菜たち姉妹へと恩を着せるようなことは言わずに、
そのように問うと答えは返ってくる。
「知っています。ですから彼は現在、とても危険な状態にあるのです」
藤堂さんは「いいですか?」と改まって聞いてくる。
その表情からは、これから言うことを決して聞き逃すなという気迫がある。
「彼は幼少期からの
藤堂さんの言葉が結菜には信じられなかった。
まさかあの大輔が薄命だなんて、誰が予想できるというだろう。
彼はいつだって
いつだって軽口をたたきながら楽しそうに生きていたのだ。
けれど結菜は、いつかの大輔の言葉を思い出してしまう。結菜が
そしてついに、藤堂さんは結菜へと無理難題を迫ってくる。
「だから……私たちは覚悟をしなければなりません」
「……覚悟?」
「ええ」
結菜は耳を
「ひまりさんを救うためには、我々は彼に『死んでくれ』と、そう言わないといけないのです」
その言葉は、究極の選択を迫る悪魔の声のように、結菜には聞こえた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます