サービスマン、ダウジンガーとなる

 話は大輔が幼少の頃にまでさかのぼる。

 当時、無垢むくゆえに阿呆あほうでもあった大輔少年は、ある一つのテレビ番組から視線が離せなかった。


『スーパー超能力! 世界の失せ人、全てマルっと見つけちゃうぞスペシャルっ‼︎』


 一昔前までは度々たびたび見る機会もあった、オカルト系の番組である。

 その趣旨としては、世界各国から自称超能力者を集め、力を披露ひろうしてもらい、主に人探しや失せ物探しをするという企画内容であった。だいの大人が真面目な顔をして『ムー大陸が見つかりました!』なんてうそぶいている大変愉快な番組であったが、番組の終盤で、自称超能力者の一人が金属製の振り子──ペンデュラムというらしい、それを使用して探し人をピタリと的中させていたのだ。

 幼い大輔少年が、その『ダウジング』という不思議な力に魅了され「自分でもやってみたい!」と思ったことは言うまでもない。そして当時から、彼の手元にはどんな願いも叶えることができる『マガダマ』が既にあったのである。


「だから俺は『ダウジングができるようになりたい』と願ったわけだ。以来、俺は超能力と言っても差しつかえがないかもしれない特技を手に入れた」

「……なるほど」


 喫茶マンハッタンを出て、道中を行くなか、大輔は九重さんへとそのような説明をする。

 心なしか返答にナゲヤリな気配を感じるのはなぜだろう。


 現在、大輔たちは犬飼に先導してもらい、小太郎が脱走したという現場を目指して移動中である。そこを起点にして小太郎の足取りを追うことにしたのだ。

 大輔と九重さんが横並びになって歩き、犬飼は大輔たちの話には加わらず、一人だけ先行している。彼女は時折ときおりに「まだかまだか」とこちらを振り返ってれったそうにしていた。その様はまるで散歩中の犬のようだ。早めに追っかけてやりたいところだが、まだ九重さんとの会話が終わっていない。


「佐和くんが『ダウジンガー』だということは分かりました」

「え、なにそれ」

 

 格好かっこういい。


 その響きに感動してしまう。

 ダウジングをする者の呼称がそれで合っているのかは分からないが、何だかハイカラな雰囲気を感じる。思わず「サービスマン・ダウジンガーか……」とつぶやいてしまった。サービスマンの名はここにきて、新たな形態変化フォームチェンジをする段階へときてしまったようだ。

 すると、独り言が聞こえたのか「変な妄想から帰ってきてください」と、九重さんが嘆息をつく。彼女からジトりとした視線を向けられていた。


「けど佐和くんの『マガダマ』は、簡単に使用許可がおりるものではない、と言っていませんでしたか? そのような使い方では──」

「ああ。当時はまだ、お国に『マガダマ』が見つかる前だったからさ。使いたいだけ使ってたよ」


 九重さんの疑問に答える。

 そのころは『マガダマ』の存在が誰にも知られておらず、大輔が自身の欲望のままに個人的な願いを乱発していた頃だった。おとがめなんて、もちろんない。

 色々とやりたい放題したものだ。

 まさに『あんなこといいな、できたらいいな』が有り余るほどに思い浮かぶ年頃だ。思いつく限りには、様々な夢想空想むそうくうそうを実現させてきた。自由に空を飛ぶことの爽快感を知る者は、自分以外には中々いないだろう。

 そして当然、乱用した分だけ『対価』を求められていたのだが、当時の大輔はそれに気づかずに欲望の限りを尽くしたのだから、笑えない話でもある。結果として残ったものは、搾取さくしゅされつくして目減りした『対価』と、しょうもない夢のカケラだけだった。

 そしてダウジングという特技も、当時の夢のカケラの一つだった。


「そういった経緯で得た特技だから、できる限りには有効活用したい。じゃないと使った『対価』がもったいない」

「いったい、その『対価』というのは、どれほどに失ったものなんですか?」

「……ノーコメントでお願いしたい」


 言い表すのが難しいというのもあるが、口に出すと後悔にさいなまれそうだったので、そこは御免被ごめんこうむった。


 そうこうしているうちに目的地へと到着する。

 そこは変哲もない住宅街の外れであった。

 小太郎が失踪した現場というのは、住宅街にある割には道幅の大きい二車線道路、その脇にある歩道上である。どうやらここから、ダウジングによる追跡が始まるようだ。


「サー先輩っ、よろしくお願いします」

「よしきた」


 犬飼に促されて『ダウジング』の準備をする。

 適当な棒を見つけて構えた。道端に落ちていた木の枝だ。節くれも少なくて比較的になめらか、長さも手先から肘ぐらいまででちょうど良い。

 そして、その木の棒を地面へと立てつける。


「なにが起こるっすか?」

「シッ──少しだけ静かにしててくれ」


 尋ねてくる犬飼に手短に言い渡す。

 ダウジングというのは無作為であることこそが重要で、干渉してくる要素はできる限りに排除するのが望ましい。そうでなければ失敗することもままあるからだ。

 だからこそ、辺りが無風になるまで待つ。そして、頬を撫でるそよ風すら無くなったと判断すると、ふっと手先から木の棒を離した。すると棒は絶妙なバランスを保って自立する。しばらくはまるでピサの斜塔もかくやと言わんばかりに堂々な立ちっぷりを見せてくれたが、やがてフラフラと自分を見失った酔っぱらいのような動きを見せる。そしてカランと乾いた音を響かせて地面に倒れた。

 木の棒の倒れた方向──延びた先は隣町だった。そこを見据えて大輔は高々に宣言する。


「この棒の指し示す先にこそ、小太郎はいるっ!」


 すると九重さんが口を開いた。


「え? いや……これ全然『ダウジング』じゃない。タズネビトステッキ……」


 細かいことを言う。

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