サービスマン、感嘆する

 転校生というのは総じて目立ち、興味をきつけるものだ。

 来訪してくる見知らぬ誰かは、いったいどのような人物なのだろうとクラス中の視線を独占するのが常だと言っていい。

 そしてその人物が容姿端麗ようしたんれいとなると分かりやすく教室内は色めきだつ。


「おお……」


 思わず感嘆してしまう。

 それは見目麗しい転校生に見惚みとれてしまったからではなく、漫画などによって幾度となく拝んだ光景が、実際に目の前に展開したことによる感動だった。

 中々ないだろう。

 野太い歓声や黄色い声がこだまする教室なんて。


「楽しくていいな。今年のクラスはバカばっかりだ」

「いや、気にするところはそこじゃねえだろ」

「だってさ、これがある程度馴染ていどなじんできたクラスなら分からんでもないが、全員がさっき顔合わせを済ませたぐらいなんだぞ? ノリが良すぎるだろうが」


 そう答えると隣の席に座った友人が「サービスマンは事態の凄さを理解してねえ」と言う。


「明らかにありゃS級美少女だろうが、俺が芸能界のスカウトマンだったら絶対に声をかけるぞ」

「ああ綺麗だよな。あれだけ整ってたらやっぱり人生違うもんかねぇ」

「ああもう! さっきからちょいちょい感想がズレてるんだよ」

「そんなこと言われてもな」


 大輔がのらりくらりと友人の追求をかわしていると、教室の前方にて動きがある。どうやら教壇に立つ転校生が自己紹介を始めたようだ。

 その様子を注視する。

 一人の女生徒がいた。少し離れた場所からでもわかるほどに整った容姿、そして嫌味を感じさせないハキハキとした立ち振る舞いは、見る人の好感を得るには十分である。しかし今は、その綺麗な眉を垂れ下げて困りきったような様子を見せている。理由は明快で、クラスメイトが異様にすぎるのだ。熱狂する群衆を前に戸惑わない人間はまれだろう。少しばかり同情してしまうが、はたから見るぶんには愉快なので見守ることにする。


 しかし、見れば見るほどに可憐かれんな少女だった。


 瓜実うりざねのように綺麗な輪郭りんかくに、整った目鼻立ち。切れ長の瞳からはクールな印象がある。しかしほかを寄せ付けないような拒絶的な雰囲気はない。きっと持ち前の性格なのだろう。自己紹介する際に見せた輝かしい笑顔は溌剌はつらつとしており親しみがあった。彼女が決して別世界の住人などではなく、同じ高校のクラスメイトであることを強く訴えかけてきた。

 格別した美貌びぼうと親近感。

 その二つをもって、彼女はクラスメイト全員の心を鷲掴わしづかみにしてしまったのである。

 そうなると大輔とて、周囲のクラスメイトのようにはしゃぎたくなる気持ちはもちろんある。人並みにはミーハーだ。なんなら無駄に質問を飛ばして彼女の興味を引いたっていい。あの笑顔が向けられるのであれば、それはやぶさかではない。

 しかし実際には騒ぎ立てることなどはしなかった。

 その理由はひとえに、彼女とは初対面でないことに尽きる。


「──ぁ」

「や」


 視線をまわしていた彼女と目が合う。

 軽く手をあげて応えてみせると、目を丸くして驚いていた。そんな様子もどこか愛嬌あいきょうがあり、美人というのは本当に一挙手一投足いっきょしゅいっとうそくすら華になるのだなぁと感心した。

 ふと、異様な視線に気づく。

 なんと周囲のクラスメイトが一斉に振り向いている。大輔へといぶかしげな視線を送ってくるが、若干の敵意が感じられるのは気のせいではないだろう。

 ……少々、怖かった。

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