第15話 命を燃やして
「囲め!【サクリファイスコロッセオ】」
ロベドが詠唱を終えるとロベドとジーク、そして魔獣を取り囲む壁が現れる。出口は、逃げ場はない。
まさに剣闘士と
「スゲェ……アンタがこんな魔法使えるなんて知らなかったぜ。ってオイ!?何だその汗!大丈夫か?」
「ハァハァ、気に、すんな。前だけ見てろ……!生きて、帰るんだ」
大粒の汗をかくロベドに駆け寄るジークだが、既にここは死地。そのことをジークに思い出させ、奮い立たせる。
だが、当のロベドは尋常では無い様子で今も倒れそうになるのを堪えていた。
(これを使うことはねえと思ってたんだがなぁ)
ロベドが使用した【サクリファイスコロッセオ】は特殊な魔法だ。
魔法は貴族しか使えない。だが、厳密に言えば貴族くらいしか使えないが正しい。
その理由は大きく二つ。
一つ目は魔法の使い方を知らないと言うこと。詠唱から魔力の操作まで習うことなど生涯かけて平民にはほぼ無いからだ。
そして理由の多くをを占める二つ目は魔力が足りないこと。
平民の多くは基本的な魔法なら打てることは打てる。
だが例えば火種を作る魔法を使えたところで魔力切れで動けなくなるほどの気怠さが襲う。なら自分で火を起こしたほうが何倍もマシなのだ。
例外として貴族のように何回でも魔法を使えるような魔力を持つものもあるが……そのどれもが突然変異のように偶々魔力が多いか特殊な事情で貴族の血を引いている平民かだ。
しかし、ロベドは平凡な平民だ。両親は普通の人で本人も魔力の少ない一般人。おおよそこのような大魔法は使えない。
だから命を燃やす。
魔力という燃料が無いなら別の燃料を使うまで。それが犠牲魔法【サクリファイスコロッセオ】だ。
代々ホリックの街の門兵に受け継がれた古い禁術。過去使われたことなど記録にも残らないほど昔の魔法を何故冒険者のロベドが知っているかというと十数年前、彼は街を守る門兵だった。
◇◇◇
〜十数年前〜
「スタンピードがいつ来てもいいように鍛えるんだ!」
甲冑に身を包み声を上げる男。隊長を務めていたロベドは来る厄災に備えていた。
実戦形式での兵士たちの訓練を見るロベドの元に小さな女の子が走り寄る。
「パパー!おべんとう!」
「おぉ〜ベティありがとう。今日は何かな?」
「パパの大好物!」
「そうかそうか、よし!訓練やめ!」
兵士たちの訓練を止め娘のベティと木陰に座るロベドは弁当を食べ始める。仲睦まじい父親と娘の姿は今のロベドとは全く違う。
「おじさん達カッコいいなぁ〜べてぃもね、おおきくなったらパパといっしょにたたかうよ!」
「ふふふ、そうだな。でも、ベティが戦う必要がないようにするのがパパの役目だ。その肌に傷がついたらいけない」
頭を撫でてそんな事はしないでくれと伝える父にベティは頬を膨らませて「やだ」と言う。
ロベドは気がついていた。
母親が持病で亡くなってからはより訓練に顔を出すようになっていることに。
剣を教えてもらおうとしたりするようになり次第に血みどろの世界に足を踏み入れようとする娘が気が気でなかった。
そんなベティも数年が経ち次第に訓練に顔を出すことが減っていった。ロベドは娘が自分とは違う道に進んだことに安堵した。
だが、前回のスタンピードで悲劇は起こった。
「街を守れー!!」
魔獣達の大群が北門に向かって押し寄せる。対するは屈強な兵士たち。善戦するも脱落者も出しながら戦闘は激化した。
そんな時、ロベド達だけでは抑えきれずに一体だけ東側の壁に魔獣を流してしまった。
(もう、門は閉まってる。なら問題は無い)
訓練通りに門は全て閉めたはず。だから問題ないと判断した。
そうして、魔獣を全て倒した後に街に戻ったロベドが目にしたのは軽鎧を着たまま寝かせられ頭に布を被せられた娘の姿だった。
(何で?戦いからは離れたんじゃなかったのか!?)
娘の亡骸の前で膝をつき泣き崩れるロベドの元に子供を連れた女性がやって来た。
彼女の話では東門では門を閉めるのが遅れ一体魔獣が入ってきてしまったこと。逃げ遅れた子供を庇った冒険者のことを教えてくれた。
(あぁ俺のせいか)
いつしか訓練に顔を出さなくなったベティは冒険者となっていた。父とは違う道で同じものを守るために。
だが、それはロベドにとって最悪の結末に他ならなかった。
もし兵士じゃなかったら。もし、ちゃんと訓練されておけば。もし、あの時見逃さなければーー!
後悔は先に立たない。振り返ってもあるのは孤独になった自分だけ。
その後、ロベドは兵士を辞め冒険者となった。
訓練もせず仕事を少しして酒場に入り浸る。そんな生活をしている時に、子供三人がギルドにやってきた。
危なっかしい様子を見てかつての後悔を思い出し少し訓練してやった。
それから年月は経ち再び、厄災は訪れた。
(今度こそ死なせねぇ!俺の命に変えても!)
◇◇◇
次第に力が抜ける感覚を振り払うように思いきり剣のグリップを握りしめロベドは魔獣たちと交戦する。
酒浸りとは思えない剣捌きで着実に数を減らす。だが、タイムリミットが迫る。
次第に目が霞み、腕が痺れる。死へと進む速度が上がるのを感じながら息子を置いていけないと崖っぷちで引き留まる。
「おい、生きてるか……?」
「そっちこそ!死にかけじゃねぇか……!この魔法解け!逃げるぞ!」
(そんな訳には……いかねぇ。今度こそ、俺は……)
妄執の域で魔法を維持するロベド。だが、それとは裏腹に現実は残酷だ。壁に穴が開き始めた。
「ダメだ、ダメだまた……!」
魔獣が逃げる。それだけは阻止したいロベドはもう前も見えない身体で前に踏み出す。
そんな瀕死のロベドに狼型魔獣が襲いかかる。
「邪魔だ、どけぇ!ロベドーーっ」
ジークは自身に群がる魔獣を弾き助けようとするが間に合わない。
鮮血が空を舞う。吹き飛んだ首が地に落ちる。
「クソォオオオオ!」
駆け寄るジークは気がつく。
(ロベドじゃない……魔獣の頭だ!)
ロベドの横を頭を失った魔獣が土埃を立てながら通り抜けていく。その土煙の中にロベドは人影を見た。
(ベティ……?)
煙が晴れ、その人物の姿が見えてくる。その人影は土埃を被ってくすんだ灰色を靡かせ二人に駆け寄る。
「グレイ!?どうしてここに……!」
『恩返し。無事で良かった』
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