第14話 ルーンの神髄
勢いよく颯爽とライラのピンチに駆けつけたグレイの心境は意外にも混沌としていた。
(見たことない生き物だらけだ……!ネコ…‥じゃない!奥のでっかいのも初めて見る!それに戦ってる人も皆んな本の登場人物みたい!)
初めて見る魔獣、初めて見た冒険者の戦闘。そして、初めて行うルーンの戦闘行使。
その全てがグレイを興奮させる。だが自身の欲のために今にも飛び出しそうな心をレイラの視線が間一髪のところで繋ぎ止める。
グレイは後ろにいる
警戒する狼型魔獣を他所にグレイは右手で幾つものルーンを起動する。
それも10や20ではない。
戦闘面においてルーンの最も得意とするのはその物量。魔法が型に流し込んだ魔力で作った武器で戦うイメージならばルーンは型すらも武器になる。
魔法を一つ放つ間にグレイは少なくとも100は発動できる。
「ん?たッ退避ー!!なんかスゲェの飛んでくるぞ!」
グレイに気がついた冒険者が一斉に門まで走って戻る。それもそのはずだ。彼らの頭上には火、水、土、風それぞれのルーンが既に100を超えていた。
魔獣たちもその異変を感じとり元凶を叩くために猛スピードでグレイに襲いかかる。
だがもう遅い。
虹の流星となったルーンが魔獣へと降り注ぐ!
「うぉおおおおおおおお!?」
「すっげぇえええええええ!」
グレイの後ろで疲れ果て膝をついていた冒険者たちは思わず歓声を上げる。彼らはみな平民だ。それゆえにルーンどころか魔法すら見たことがない。グレイの姿はさぞ物語の英雄のように映っていることだろう。
「グレイ……どうして?」
ライラのこの「どうして」にはいろいろな意味が込められているのだろう。
だからグレイは振り向いて笑って見せる。
(大きいのは効き目が弱い、猫じゃない奴はだんだん避けてる……でももう少しで)
身体から炎を放つクマ型魔獣は少しづつではあるもののにじり寄り始め、狼型魔獣はルーンの速度に慣れ始めたのか次第に当たらなくなってきた。
物量作戦を開始してからというものグレイは常に基礎となる
それに気が付いた者たちは加勢しようとグレイに近づき武器を構える。さぁ、俺たちも戦うぞ!、と視線を送る。
だが、そんなことなどお構いなしにルーンをさらに生み出し続けるグレイ。彼女の絶えず動き続けている両手のうち左手が止まる。
(収束安定、圧縮完了……よし)
弾幕を作り出す右手と同じかそれ以上のルーンが左手の上に集まる。相乗効果で効果の高まったルーンをおよそ5000、しかも圧縮されたそれは色が混ざり過ぎて真っ白な光の玉となる。
ルーンの書を読みルーンを学んだグレイには一つの疑問があった。組み合わせることで相乗効果を発揮するルーンを圧縮したらどうなるのか?
その答えがコレ。
(圧縮ルーン発射)
白い球となったルーンの塊はルーンの弾幕で動きが鈍った魔獣たちまで飛んでいき拡散、爆発した。ついでに踏み出しかけた冒険者の足も後ろに引きずり戻した。
(爆発の範囲も限定するべき、かな?)
北門の前の地面がクレーターになってしまったのを見ておいそれと使えるものではないと新しい改善点を見つけ思わず頬がにやけるグレイ。封印、と言わないあたりまたやらかすつもりである。
だがすぐにレイラたちのことを思い出して駆け寄る。
魔獣に噛まれた傷を押さえながらライラは地面に座り込んでいた。目の前で起こった惨劇に脳が追い付いていないようで目が白黒している。周りの冒険者も似たような反応だ。
グレイはライラの横に苦しそうな顔をして寝かされているレイラの横に座る。即座に解析のルーンを起動。タリアと同じ魔獣の物だと確認したグレイはすぐに治療に取り掛かった。
幸い、レイラは毒に抵抗していたためにすぐに解毒は完了した。
「グレ、イ……?」
目を覚ましたレイラは本来いるはずもないグレイの姿に困惑した。
『無事でよかった…………ジークはどこ?』
レイラとライラの無事は確認できた。しかし、ジークの姿が見えないことに不安を覚えるグレイ。その問いかけにレイラだけでなくライラや周りの冒険者も顔を暗くする。
「ジークは……私たちを逃がすためにロべドと魔獣を引き付けてくれていたの。もう今頃……」
『二人はどっち?』
「ここから北にまっすぐよ。でもどうして……?————ッ!?待って、だめよ!」
『行って来る』
グレイは再び風となった。
◇◇◇
「まだ生きてるかァ!?ロべド!」
「当たり前だァ!お前より早くくたばるわけねぇ、だろッ」
ジークとロべドはお互いに背中合わせのようにして襲い掛かってくる魔獣と戦っていた。
「もうそろそろレイラたちは町についてる頃か?」
「なんだ、逃げたかったのならそう言え。今からでも逃げていいぞ~」
「バカ言う、なっ!俺がいないと即死ぬくせに!」
「ふっ、いっちょ前に!口だけ大きく!なりやがって」
軽口をたたきながら魔獣と対峙する二人だが、かなり防戦一方の状態だ。しかも蛇型魔獣が虎視眈々と二人を狙っていることを考えるとほぼ空元気だ。
剣でいなし時に避け一体、また一体と着実に倒すが次から次に魔獣が襲う。
いつどちらが倒れてもおかしくない。
「ちっ、おい」
そんな状況を悟ったロべドはジークをつかみ魔獣のいない南側に投げ飛ばした。
「うぉわ!?痛った!?なにすん、おいロべド何してる!」
ふいに投げ飛ばされたジークは不格好に受け身を取ってロべドを見る。そこには魔獣に囲まれようとしているロべドがいた。
「ジーク、お前は帰れ。残してきたやつがいるならお前は帰るべきだ」
「はァ!?ならお前は!」
「俺にはもう何もない。ここが俺の墓場だ。『我が生涯をここに捧ぐ。守る力をここに。害をなすものを通さぬ壁を―――」
魔獣の攻撃を防ぎながらロべドは詠唱を始める。ジークが抜けたことでより一層苛烈になった魔獣の攻撃で傷だらけになる。もう姿を確認することもできないジークが無事逃げれることを願いながら言の葉を紡ぐ。
しかし―――ロべドに襲い掛かった魔獣から剣が生える。
「俺も混ぜろよ」
「なんで戻ってきた、ジーク!!!」
「は、思春期ってやつさ。お前の言うことなんか聞かねぇよ。それよりほらなにかすんだろさっさとやれよ」
ジークはロべドの横に戻り魔獣の相手をする。
少しうつむいて「ガキだな、全く」と少しうれしそうにつぶやいたロべドは詠唱を再開した。
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