第11話 お使いクエスト
レイラ達について行くこと数分。居住区がある南側にやってきた。東の冒険区に近い場所にある立地で治安も良い人気の場所だ。
「ここが私たちの活動拠点兼家よ。少し狭いかもだけど」
レイラが立ち止まりグレイの方を振り返って紹介する。
レイラは狭いというが木造の平屋でグレイが住んでいたボロ小屋の三倍くらいはある。十分に大きい。
「さぁ、今日からここがあなたの家よ」
レイラが玄関を開けグレイを中に通す。木の良い匂いが漂いテーブルやキッチンなどが置かれており生活感を漂わせる。食器棚などもありかなり安定した暮らしを送れているようだ。
「キッチンで手を洗ってね。………ジーク?」
「わ、わかってるよ」
レイラの言葉で自分の部屋に足を踏み出した所で止まったジークはトボトボとキッチンに向かった。
「さて、落ち着いたことだし私は夕飯を作るわね」
「おー頼む!俺は〜」
「はいはい、武器の手入れね。行ってきなさい」
「ひゃっほー」
「ったくあの馬鹿は……剣を持って走るなっての」
ジークが自分の部屋に走って行ったのを確認したライラはグレイに話しかける。
「貴女は私とお風呂。体を綺麗にする」
ライラは玄関から向かって右側にある部屋に案内する。
服を脱いでライラと共に身体を洗う。
「もう少し食べたほうがいい。骨、見えてる」
ライラと自分を見比べるグレイ。
レイラと違いそれほど肉つきが良いわけではないが引き締まった身体とそれに似合うくらいの女性らしい膨らみを備えている。
「髪、灰色と言うより銀色みたい。キラキラ」
グレイの髪を洗剤で洗うライラはグレイの紙に光沢ができてきた事を発見した。
身体を冷やさないように買った服に着替えキッチンに戻るとレイラが夕飯をよそっていた。ジークは……『待て』を喰らっていた。
いつのまにか暗くなっていた家を蝋燭で照らしながら食卓を囲む。見たこともない料理の数々に思わず唾を飲むグレイ。
「そろそろ食おうぜ、腹減った!」というジークの言葉で食べ始める。
「やっぱさ、薬草集めがいいんじゃないか?」
「ダメよ、南側でも魔獣が出るかも。街の中のやつにするべきよ」
もっぱら食事の話題はグレイの今後だ。流石に魔獣捜索には連れて行けないがギルドの仕事には街のお手伝いレベルの物もある。
それの中で何がいいか。それが議題だった。
レイラ達は先の盗賊退治のように長時間家を空けることもある。そんな時に一人でも大丈夫なように生きる術を教えるつもりだった。
特にお使いレベルの物は町民が出しているため顔馴染みになるチャンスでもあるのだ。
「グレイは何かやってみたいことはある?」
振られたグレイだが喋れないため「なんでもやりたい」と言う意味でふんす!と両腕をグッと引き絞った。
「お、やる気だな。まぁ明日ギルドの掲示板でも見たらいいだろ。受付に聞くのもありだな。あぁそうだこれやるよ」
ジークから手渡されたのは白い板に石が付いている物体。これは?、と首を傾げるグレイ。
「これはなー?文字をこの板に書けてしかも石に魔力を通せばまっさらに戻せるって言う便利な道具だ」
「昔、私たちが使ってたお下がりだけどね。きっと役に立つわ」
早速グレイは指で板に文字を書いて三人に見せる。
『ありがとう』
「これからよろしくね、グレイ」
「何かあったら俺を頼れよ!」
「無駄だと思う」
「なんだとぉー?俺だってなぁ!」
「この前、ゴミ当番忘れてた。私が代わりにやっておいた」
「ぐぬっ」
蝋燭の火が消えるまで四人は談笑を続けた。
◇◇◇
次の日、魔獣捜索に出かける三人と別れグレイはギルドに来ていた。
『私にできる仕事ありますか?』
掲示板は屈強な男達が屯っていて近づけなかったので受付に聞いた。
「これとか良いと思うわ」
受付嬢が持ってきた依頼者は二つ。
一つは薬草採集。もう一つは、
(ネコって……何?)
飼い猫探しだった。
◇◇◇
「あらまぁ、可愛い冒険者が来たこと!お茶でもしながら話しましょ」
出迎えたのは老年のご婦人。
言われるがまま中に入ったグレイはお茶と一緒に出されたお菓子を貰いながら話を聞いた。
「私の飼っているネコの【ぶち】がどこかに行っちゃってねぇ。それでぶちを探すのをお願いしたいの」
グレイはネコ探しを選択した。理由は単純。ネコとは何か知りたかったから。
『どんな姿?』
もらった板に文を書いて質問する。少し驚いた表情をしたが年の功なのかすぐに理解してくれた。
「こんな感じの子なのだけど……わかるかしら」
ご婦人はグレイの板にぶちの姿絵を描いた。
(4本足で頭の上に耳?お尻に尻尾、身体と顔に毛がある………これがネコ)
ご婦人の絵はかなり正確で普段から描いているような出来栄えだった。白ぶち模様のネコが今回のターゲットだ。
『それじゃ探してくる』
グレイはご婦人と別れて街を探索する。レイラ達に案内されて大まかな道は把握しているので迷いはしなかった。
商業区、居住区を探索したグレイは冒険区にやって来ていた。すれ違う人たちは皆武器を携帯している。つまり冒険者だ。
そんな場所を武器も防具も付けずに歩く少女に皆気を惹かれる。
そんなことをグレイは気にも留めないで探したが見つからない。そう、思った時だった。
タタタッ
明らかに人とは違う走る音を聞いたグレイはその方向に走り出す。
大通りから外れ路地に入り狭い道に入ったところで見失った。
くぅ〜〜〜
(お腹、減った)
朝から走り回りいつのまにか昼になっていたことに気がついたグレイは中央広場に来ていた。
「お、昨日の!また来てくれるとは嬉しいなぁ」
昨日食べた味が忘れられなくてまた屋台に来ていた。
『一つ、辛いのを』
「お嬢ちゃんツウだねぇ、でもそのにゃんころは辛くないほうがいいよな」
「?」
何のことだ、と店主が向いている自分の右下を確認する。
「にゃん!」
いつの間にか隣にネコがいた。
(ふわふわの毛、四つ足で白い模様、これがネコ!)
ガバッと逃げられないように抱きしめるグレイ。特に抵抗もしなかったのであまり意味はなかったかもしれない。
「はい、出来たよーっとあ〜言いにくいんだが手を洗ってきたほうがいいな」
自分の手をよく見るとものすごく汚れていた。路地裏を走ったのもあるがネコがすごく汚れていた。グレイから逃げる時猫しか通れない隙間や道を通ったせいでゴミを全て巻き込んでいた。
噴水の近くに小さな噴水のように湧き出る水道があったのでそこでネコを洗い、自分の手も綺麗にする。
濡れて細くなったネコはブルルルッと身体を震わせて水を落とした。
そのせいで水が掛かったがグレイは楽しそうな笑顔を浮かべる。
その後、ネコと食べご婦人の元に返しギルドに報告した後帰路についた。
帰ると三人が既に帰ってきていたのでそのことを話すとジークが「だからあんなボロボロだったのか」と笑ってきたので取り敢えずお腹をポカッと殴る。
「ごめんごめん、まぁその様子なら大丈夫か。一日くらい家を空ける事になりそうなんだ」
「タリア様を襲ったと思われる魔獣を見つけたの。お留守番を頼める?」
グレイは魔獣を見てみたい気持ちを抑えて首を縦に振った。ルーンを使えない自分が足手纏いなことは本人が一番よくわかっている。
しかし、グレイはのちにこの選択を後悔する事になる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます