第12話 出自を隠して
日差しが部屋に差し込んで少しモゾモゾした後にグレイは起きた。
横を見ると横に寝ていた双子姉妹は既に姿がなかった。早めに出かけると言っていたことを思い出しジークも居ないだろうと考える。
顔を洗い外に出かける用の服に着替え、今日もギルドに向かう。少なくとも一日レイラ達は帰ってこない。
レイラはお金を渡そうとしたがこれ以上恩が増えると返せなくなりそうで貰わなかった。
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仲良くなる10の方法
その10
何かをしてもらったらその分何かをしてあげましょう
何かをしてもらって嬉しいと感じたら何でもいいから何かをその人のためにしよう!
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助けてもらった、保護してもらった、家に住まわせてもらった、優しくしてもらった。
他にも様々なことをレイラ達からは貰いすぎた。だからそろそろ恩返しをしたい。それが今の目標である。
『何でもいいから私に出来ることを』
受付に白い板を見せながら何をしてあげられるか考えていた。考えられるはずだった。
「ごめんなさい。今、あなたにお勧めできる依頼がないの」
受付の言葉を聞くまでは。
「今、実力のある冒険者が魔獣退治に行っているでしょ?だから邪魔にならないように外への外出は禁止。街でのクエストは……昨日のネコ探しで最後だったみたい…………聞いてる?」
全く聞こえていない。正しくは聞きたくなかった。
本来の予定としては薬草採集か街での依頼でお金を集めて昼ごはんを食べたり何かプレゼントできないかと考えるはずだった。
それが全て白紙になった。プレゼントはまだ良い。帰ってきた後にでも間に合う。問題は食事だ。
昨日、ネコの分で一つ余計に買ったせいで依頼で得た金と相殺されて収益はゼロ。何かを買うお金は無い。
「うーん、可哀想だけどこればっかりはどうしようも…………タリア様を何とかできるわけないし」
受付嬢がボソッと何か喋った。
タリア様という言葉には聞き覚えがあった。
(そうだ、毒を治して欲しい依頼だ)
珍しく人のいない依頼が貼られた掲示板にグレイは駆け寄る。いくつもある依頼の中にでかでかと貼られた紙を見つめる。
(領主の娘、タリア様を治せる者求む。経歴など全て不問、対価は……金貨!)
これだ!と思ったグレイはすぐさまギルドを出て北、行政区に向かう。目指すは領主邸。
◇◇◇
「ゴホッゴホゴホッ」
「クソッ誰か治せるものはいないのか……!」
領主、【ダイム・イルヘルド】は娘を毒牙から解放する方法が見つからず苦悩していた。
薬や魔法、色々試したものの全て延命治療程度にしかなり得なかった。
更にはスタンピードの対処にも手を割かなければならず娘と民の間で天秤が揺れていた。
「もう、ダメなのか……?」
(王都ならば聖女と呼ばれるどんな傷でも治すものがいると聞いたことがあるが……)
大粒の汗を流しながら苦しむ娘を見れば王都までの長旅を耐えられないと悟ってしまう。
楽にしてしまったほうがいいのではないか。そう考えるほどにダイムは追い詰められていた。
そんな時、閉じられていた扉から警護の兵士から報告が届いた。
子供が依頼でやって来た、と。
◇◇◇
領主邸にやって来たグレイだが案の定門番に止められてしまった。
小さな子供が毒に伏せている令嬢を治せると言ったところで信じられないのが普通だ。
大方、報酬目当てにやって来たのだろうと門番は考えた。勿論、グレイもそのつもりで来た。勝算が無いわけではないが。
「これ以上入ろうとするなら……!」
門番にも家族がいる。心苦しかったが仕事と割り切って非情に徹しようとする。持っていた槍を構え脅そうとした時、
「待て」
背後から声が掛かった。門番が後ろを振り返ると領主であるダイムがそこにいた。
「下がれ、その子供と話をする」
「はっ」
槍を戻し門を開けた門番はグレイに道を譲った。
「来い」
それだけ言うとダイムは屋敷に入っていく。置いていかれないようにグレイはその背中を追いかける。
廊下を歩きながらダイムは話す。
「正直、君に娘を治す力があるとは思っていない。ありとあらゆる手立てを打った。だからこそ、最後くらい娘の守りたかった街の子供を見せてやりたいのだ」
街の民だと勘違いしているダイムは娘の眠る部屋にグレイを通す。せめて無駄ではなかったのだと教えるために。
部屋に入ったグレイは息も絶え絶えの女性を見た。
赤く長い髪とは裏腹に顔を白くしている様子で今からダイムを外に出している時間も惜しいとグレイは感じた。
『今から見ることは黙っていて欲しい』
「一体何を……?」
バレてしまっても良い。だってジーク達ならきっとこうしたから。
………………ルーン起動。
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