第10話 絡まれる
「まずは盗賊団の殲滅お疲れ様。やはり君たちに任せて正解だったね」
「情報より少し多かったので他の人たちだったら危なかったかと。それから……」
シオとレイラがグレイを見る。その表情は優しげであるが憤怒に満ちていた。
「この子が報告にあった攫われていた子供だね。辛い思いをさせてすまない」
シオは深々と頭を下げて誤った。
急に謝られたグレイは動揺しあわあわし出す。どうにか頭を上げるように促した。
「最近、子供を狙った誘拐が横行していてね。【スタンピード】の直前を狙った火事場泥棒みたいな奴らさ」
(すたん、ぴーど?)
聞き慣れない言葉を聞いたグレイはレイラの服を引っ張る。
「スタンピードって何か知らないの?うーん、ここら辺の子なら知ってるはずなんだけど……スタンピードって言うのは10年に一度、魔獣が街に向かって進撃してくることなんだ。ホリックの街が壁で囲まれているのも、このせいね」
魔獣と言うのはグレイも知っている。
動物や人間には心臓が勿論あるのだが魔獣にはもう一つ、二つ目の心臓が存在している。
それが【魔石】
これによって魔獣は魔法に似た特異な術を使ってくる生物の総称となっている。グレイが蛇と勘違いしたバジリスクもこれに含まれる。
壁の理由を知ったグレイはまた一つ知らないことを知れたと目を輝かせる。
その様子を見たシオはおかしい、と言葉を投げかけた。
「スタンピードを知らない子供はこの街いや、この領にはいない筈……。レイラ、彼女の名前はなんと言ったかな」
「それが私たちも知らなくて」
「何?」
レイラはここに来る途中も会話を試みたものの一向に喋り返してくれることはないこと。心を閉ざしているわけではないことを伝える。
内心、罪悪感が生まれるグレイ。
ルーンの応用で筆談は出来るのだ。しかし、それをしてしまうとグレイが貴族の血筋なことがバレる。
盗賊がそれで喜んだ姿を見せたせいで『貴族であることが知られるのは悪いこと』と言う考えがグレイの中にはあった。
「それなら文字はどうかな、文字は書ける?」
それを待ってました!、と言うように首を縦に振る。
横からマジか、とジークが溢す。
「グレイ、か。珍しい名前だ。少なくとも女の子につける名前じゃないね」
「文字が書けるなんてかなり教育が良い子ね。ここの子以外だとそれこそ貴族とか?」
ライラの言葉にビクッとして絶対に違うから!、と首を横に振る。
レイラたち三人には心を開いてはいるもののそれとこれは別問題だ。
「まさかぁコイツ、あ、いやグレイか。グレイが貴族の子供なら魔法で逃げれるだろ。そもそも貴族の子供が攫われた、なんて一大事。依頼来てないんだろ、マスター」
「あぁ、そんな報告は来てないね」
「そういえばさっきの人はここの警備隊長よね?何かあったのマスター」
あの毛むくじゃらかと脳内で想像するグレイだがついでに盗賊の顔も思い出しそうになり霧散させた。
シオはレイラの言葉に深刻そうに話す。
「ここ、イルヘルド領の領主令嬢が魔獣の毒に侵された」
「えぇ!?タリア様が!?」
シオが言うには数日前、森を探索していたタリア様率いる兵士たちが魔獣と交戦。倒し切ることはできず逃げられたがその際に毒を喰らったらしい。
「不味いな。魔獣の毒は毒草とは違って薬の効き目が悪い。その魔獣はどんな奴だ?」
「蛇型魔獣との事だよ。今、ギルドの掲示板でも治すことができるものを集める依頼が出ている。スタンピードの前兆ではないかと隊長と話していたんだ」
深刻な顔をするレイラ達。
魔獣の毒は単なる毒性ではなく魔力の乗った特別性。魔力の低い平民だと最悪即死、そうでなくても数日でお陀仏となる。
そう言う意味だと受けたのが貴族で良かったとも言える。
「それなら俺たちが適任って奴だな」
「そうね、ただ……」
チラッと自分の方を見たと感じたグレイはすぐにその意図を察してしまいレイラの服を離す。
その様子を見たレイラが慌てる。
「あ、いや、その魔獣は危険だから、ね?流石に魔獣となるとグレイの事を守れるかわからないから」
「君のことはギルドでしっかりと預かれる。身元が判明したらすぐに親元に返すこともできるから安心して?」
身元ということは貴族であることがバレるということ。それは避けたかったグレイは咄嗟に『親はいない』と紙に書いた。
それを見たシオはこれまた深刻そうに眉間に皺を寄せる。
誰もが沈黙したその時。
「…………なぁ俺たちの家、来るか?」
破ったのはジーク。
「そうね、これも何かの縁よ。どう、グレイ?」
レイラも賛成しライラも頷いていることからもグレイを受け入れることに不満はないようだ。
グレイとしても信頼できる人たちと居られるのは願ってもないので首を縦に振る。
「良かった、決まったようだね。なら後で彼女のギルド証を発行しておいて。住民証の代わりになるから」
そうしてシオとの面会は終わり先ほどの受付までやって来たグレイはギルド証を手に入れた所で事件は起きた。
「おいおいおい、ここは戦うやつが来るところだぞ。子供連れで冒険か?」
「ロベド……」
ジークにロベドと呼ばれた顔の赤い中年くらいの男はグレイを睨みつける。口からは酒の臭い匂いがしてグレイはレイラの後ろに隠れる。
「元々お前らも俺は認めてねぇんだ。最近は魔獣なんかがウロウロしてやがる。そんなとこに女子供と浮ついた奴が行っても邪魔なだけだ。なぁお前ら!!」
ロベドは酒場の方にいる仲間に叫ぶ。酒が入っているからなのか『おー!そうだそうだ!』と喧しい。
「別にこの子を連れて行く訳じゃないわ。それに、こんな昼間から酔っ払っているあなたに言われたくないわね」
かなり辛辣な様子で吐き捨てるレイラ。同じようにゴミを見る目でライラも見つめる。
「はっ生意気なガキが少し強くなったからって良い気になりやがる。ガキはママの乳でも吸ってろっての」
「それも良いわね、この子の母親代わりになるのだから。どう?吸う?」
レイラは自身の山脈のような果実を掴んでグレイの方を向く。
それを聞いたロベドは罰が悪そうに『チッ白けた、勝手にしろ』とギルドを後にした。
「ごめんなさい。あの人子供が嫌いみたいだから小さい子を見るとあんな感じなの。それ以外はまだまともなんだけど……」
「はっあんなクソオヤジ庇う必要なんかないと思うけどな」
何やらジークとは何かあったようだが聞かないことにしたグレイはレイラたちと共に彼女らの拠点へと向かうことにした。
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