第5話 妖精の輪舞曲

 春の文化祭当日を迎えていた。

 この日は、多くの生徒たちが集まっている。

 彩華は小夜子とともに体育館の舞台袖にいた。

 二人は、上品なドレスを身にまとっていた。

 そのドレスは、柔らかなシフォン生地で作られており、軽やかに揺れるスカートが美しい曲線を描く。

 胸元には繊細なレースの装飾が施され、彼女の美しい肌を上品に際立たせる。

 袖は透明な素材であり、腕のラインを美しく包み込んでいた。

 そのドレスは、二人の優雅さと清潔感を引き立て、まるで百合の花のような魅力を放っていた。

 ドレスの色は彩華は赤を基調とした、小夜子は白を基調としている。

 二人は互いのイメージカラーを見事に表現しており、この衣装をデザインした生徒のセンスの良さを感じさせる。

 二人とも、これから行う競技に対して緊張していたが、それでも期待に満ち溢れている様子だった。

 緊張が高まってくる。

 彩華は深呼吸を繰り返す。

 隣にいる小夜子は平然とした様子だった。

 その姿は凛々しくて頼もしくて格好良かった。

「さすが小夜ちゃん。とても落ち着いてる」

 彩華は小夜子を見て思う。

 すると小夜子が小さく笑みを浮かべて言った。

「そんなことないわよ。私も充分に緊張しているわ。でもね、それ以上にワクワクして楽しみに思っているの」

 小夜子は嬉しそうな顔をして言う。

 彩華は驚いた。

 小夜子は昔から大人びていて冷静沈着というイメージを持っていたから、こんな風に無邪気に喜んでいる姿を見ると意外に思えたのだ。

 小夜子は続ける。

「それにね。私嬉しいの、彩華とまた一緒にいられることが。私、この4年間彩華のことを忘れた時は、一日もなかった。ずっと会いたかった。会いたくて仕方なかった」

 小夜子は嬉しさを堪え切れないといった様子で告げる。

 彩華は胸が熱くなるのを感じた。

 彩華も小夜子に会いたいと思っていた。

 小夜子と同じように毎日のように考えていた。

 もう二度と小夜子に会えなくなると思った時は、泣いて両親を困らせたのを思い出す。だからだろうか、彩華は小夜子のことを忘れることで哀しみを紛らわせようとしたのかも知れない。

 永遠を誓い合った姉妹なのに……。

 彩華は小夜子の方へ顔を向ける。

 小夜子の目を真っ直ぐに見つめながら言葉を返した。彩華は心を込めて、自分の想いを正直に伝えることにしたのだ。

 彩華は小夜子に向かって言い放つ。

「私も小夜ちゃんと同じだよ。だから、こうやって再び巡り会うことができて本当に嬉しいんだ。だから、私は今、幸せでいっぱいなの」

 彩華は小夜子に笑顔を見せる。

 その表情は、晴れやかなものだった。

 小夜子も同じように笑う。

 二人は、お互いの顔を見合わせて、もう一度笑い合うのだった。

 やがて時間が訪れる。

 放送部が二人のことをアナウンスする。

 いよいよ、本番が始まるのだ。

 二人の舞台は体育館中央にある舞台だ。

 そこはスポットライトによって明るく照らされている。

「行きましょう。彩華」

 小夜子は彩華の手を取り呼びかける。

「うん。

 彩華は小夜子の言葉に応える。

 そして二人は手と手を強く握り締めると、一歩ずつ踏みしめるように歩き出すのだった。

 二人が姿を現す。

 会場内から大きな歓声が上がり、温かい拍手の音で満たされる。

 皆が、二人の美しさに見惚れていた。

 特に小夜子の姿に皆が釘付けになっていた。

 小夜子の容姿は誰もが認めるほどの美貌を誇っている。

 それは彩華も同じだが、小夜子の方がより目立っていた。

 二人は会場に集った生徒たちに対し、互いが補い合うようカーテシーという 両手でスカートの裾を軽く持ち上げ、片足を斜め後ろの内側に引き、もう片方の足の膝を軽く曲げ、背筋は伸ばしたまま行う挨拶をする。

 ヨーロッパおよびアメリカでの西洋文化的挨拶法。

 それから、二人は合わせ鏡のように、右手と左手を伸ばし合って互いを見つめた。

 まばゆいライトが二人の姿を照らし、観客達は息を飲むような瞬間を迎えた。

 舞台上の吹奏楽部が軽快な音楽を奏で始める。

 その音楽に合わせて二人は踊り始めた。

 彩華の動きにスカートが優雅にひらりと舞いう。

 小夜子がリードして彩華は付いていく。

 まるで二人で一つの生き物であるかのように調和していた。

 その光景は幻想的で美しく、まさに妖精達が踊っているかのようだった。

 一瞬の隙もなく、二人の足は柔らかなステップで床を滑る。

 一つ、二つ、三つとカウントが重なり、二人の身体は音楽の響きに寄り添う。優雅なリズムに身を委ね、彼女らはフロア上を縦横無尽に駆け回る。

 小夜子の手は優しく彩華の背中を支え、彼女はその触れる感触に心地よさを感じる。

 二人は視線を交わす。

 小夜子は微笑みを浮かべて、彩華は頬を赤く染めて恥ずかしそうにするが、視線は外さない。

 観客たちは息を飲み、二人の美しい動きに見惚れた。

 二人の表情には情熱と集中力が宿り、周囲の世界を忘れるほど没頭する。視線が交わるたびに、愛情と信頼が伝わった。

 二人のダンスは、繊細なタッチと強い絆。

 そして、お互いへの信頼に支えられる。

 その踊りは美しさと情熱の融合であり、観る者の心を魅了した。

 社交ダンスの魔法は、二人を包み込んでいるだけでなく、会場全体を幸福な雰囲気に満たした。

 まるで詩の一篇のよう。

 優雅な動きは時間を忘れさせ、二人のダンスと共に音楽が終わった。

 その瞬間、会場中に響く拍手と歓声が彩華と小夜子に贈られた。

 二人は満面の笑みを浮かべて、喜びに満ちた様子だった。

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