第4話 ダンスパートナー

 彩華は自宅に帰ると、すぐに自分の部屋へと直行した。

 そしてベッドの上に寝転ぶと天井を見上げながら考え事をしていた。

(今日は本当に色々あったなぁ……)

 彩華は今日の出来事を思い返してみる。

 見知らぬ美少女に抱きつかれた。

 それがまさか4年前に別れた、小夜子だとは思いもしなかった。

 小夜子と再会したこともそうだが、それ以上に大きな収穫があった。

 それは小夜子が社交ダンスを続けていたことであり、そのことが何よりも衝撃的であった。

(あんなにも優雅なステップを踏んでいるなんて……)

 彩華は感動に打ちひしがれていた。

 小夜子は軽やかなステップで広いフロアを駆け回る。 

 身体を単に動かしていたのではなく、頭から指先の一本一本、腰の使い方まで、計算されたかのような完璧な動きをしていた。

 それは芸術作品といっても過言ではないほどの美しさだった。

 彩華は思わず見惚れてしまう。

 彩華も小さい頃から社交ダンスをしていたが、地元を離れたことを契機にやめてしまっていた。

 だが、今の小夜子の姿を見たことで、もう一度始めてみようという気になっていた。

(私、やっぱり小夜ちゃんに憧れてるんだ)

 彩華は改めて自覚する。

 そして、そんな小夜子と一緒に踊れたことを誇らしく思った。

 同時に、不安感も生まれていた。

 それは小夜子から、春の文化祭に向けてダンスパートナーになって欲しいと言われたことだった。

 社交ダンスは、男女のペアで行うものだった。

 だが、近年は技術や美しさを競う競技ダンスや、趣味で楽しむ社交ダンスで、同性同士のペア結成を後押しする動きが広がっている。

 総務省による2021年の社会生活基本調査では、過去1年間に趣味や娯楽として「洋舞・社交ダンス」の活動をした人は129万2000人。このうち、女性が約8割を占める。

 これは、競技人口では男性より圧倒的に多い女性の活躍の場を広げる狙いもある。

 ただ、世界ダンススポーツ連盟の規約ではいまだ男女ペアが義務づけられており、同性ペアの世界選手権などへの道は閉ざされたままだ。

 国内でも同性ペアがまだ多い訳ではないが、いざそういう選択をした際に使える仕組みをつくっておくことが大切。それぞれの個性が発揮できる環境作りをしておくべきとする意見がある。

 この学校は、春の文化祭というイベントがある。

 入学間もない時期だから、クラス替えがあったからこそ皆が一致団結して一つのことに取り組むことを推奨しての文化祭だ。

 彩華は迷うよりも、ダンスを辞めていた自分が小夜子に釣り合っているのかと考えると自信がなかった。

「そんな。私が小夜ちゃんのパートナーだなんて……。私、引っ越しを機会に辞めていたの」

 誘われた瞬間、彩華は思わず声に出してしまう。

 小夜子は真剣な表情をして彩華のことを見る。

 そして彩華の両肩に手を置くと、はっきりと言葉にした。その瞳はとても力強く輝いていた。

「ブランクなんて関係ないわ。彩華は私にとって特別な存在なの。だからお願い。一緒に踊ってほしい」

 そう言って小夜子は手を差し出してくる。

「小夜ちゃん……」

 彩華は小夜子の顔を真っ直ぐに見つめ返す。

 小夜子は微笑みを浮かべていたが、その笑顔の裏に強い決意が込められているように感じられた。

 彩華は、そんな小夜子を見て覚悟を決める。

 差し出された手を握り返しながら答えた。

「分かったわ。私、小夜ちゃんのパートナーになる」

 こうして彩華は小夜子と共に春の文化祭に、社交ダンスを踊ることになったのだ。

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