第2話 あの人

 教室に着くなり彩華は机に突っ伏して寝る体勢に入った。

「どうしたの彩華?」

 隣の席のクラスメイトの豊岡とよおか由香里ゆかりが話しかけてきた。

 ショートカットにした茶髪の少女で、活発的な性格をしており、クラスのムードメーカー的存在であった。

 明るくて社交的で誰からも好かれるような存在であり、気が合い仲良くなった。

 彩華は顔を上げて答える。

 その表情はやや疲れ気味に見える。

 さっきの出来事を話すかどうか迷っていたのだ。

 しかし、話さない訳にもいかないと思い口を開くことにした。少女に抱きしめられたということは伏せてだが。

 彩華は少女の容姿を伝えると由香里は、少し考えて口にした。

「その人って、2年のひいらぎ小夜子さよこ先輩じゃない?」

 彩華は、それを聞いて驚く。

 なぜなら、その名前に覚えがある気がしたからだ。

「ひいらぎ、さよこ……」

 彩華は記憶を辿る。

 確かどこかで聞いたことがある名前のような……。

 彩華は必死になって考える。

 すると彩華の脳裏に記憶の中の映像が次々とフラッシュバックしてきた。幼い頃の記憶だった。

 そこには一人の少女がいた。

 その子の名前は小夜子と言った。

 彩華は小夜子を見ると嬉しくなって駆け寄っていった。

 そして勢いよく抱きついたのだ。

 小夜子は優しく微笑み彩華を抱きかかえると、そのままギュッと強く抱きしめてくれた。

 彩華はそれが嬉しかった。

 幸せな気持ちになった。

 彩華は思い返す。

「あの人、小夜ちゃんだったんだ……」

 彩華はポツリと呟く。

 想い出に浸った、その表情は穏やかだった。

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