ダンス・オブ・ハート 誓いの姉妹

kou

第1話 帰郷

 春の日差しが心地よい。

 穏やかで、温かな光が大地に優しく降り注いでいた。

 空は澄み渡り、淡い青色が広がり、木々は新緑に包まれ、まるで淡い緑色の絨毯を敷いたように美しく輝く。

 風は優しく吹いている通学路を、一人の少女が歩いていた。

 髪はやや長めで、滑らかな栗毛をアップにまとめる。

 まだ幼さの残る顔立ちだが清涼感があり、明るく大きな瞳が輝き、その瞳は、内に秘めた情熱と優しさを映し出している。

 彼女の笑顔は穏やかで、常に周りを温かく包み込むような魅力を持っていた。

 少女の名前を小日向こひなた彩華あやかと言った。

 彩華は町の風景に思いを馳せながら歩いていく。

「懐かしい風景……。この辺りは、まだ変わってない……」

 彩華は呟く。

 なぜなら、彩華は小学6年の時に両親の都合で生まれ故郷を離れ、高校の入学に遅れる形で、引っ越してきたからだ。

 だから、こうして昔見た景色を見るのは久々だったのだ。

 彩華の転入は入学後一週間という、転校生として目立たないものではあったが、彼女は持ち前の明るさと愛くるしさで違和感を覚えさせることなくクラスに打ち解けていた。

 桜舞い散る通学路を通り抜けていると、校庭にある桜の木の下に佇む一人の少女の姿があった。

 少女は背中まである黒髪をなびかせて、静かに立っていた。

 その姿を見た時、彩華は一瞬ドキッとした。

(きれい……)

 それが第一印象だった。

 背が高く、スラリとした体型をしていた。

 彼女のロングヘアには、ふんわりとしたウェーブがかかっており、まるで黒いシルクのような光沢を放っているように見えた。その髪型が彼女の凛とした雰囲気を一層引き立てていた。

 そして、切れ長の目をしており、まつげは長く奥には吸い込まれそうな黒い瞳が輝いていた。

 目元に影を落としており、どこか憂いを帯びた表情をしているように見える。

 健康的な肌と透明感ある白い肌がコントラストを成していて、より美しさを引き立たせていた。

 彼女は遠くを見つめたまま動かなかった。

 しかし、彩華の存在に気付くと、ゆっくりとこちらを振り向いた。

 その時、目が合った瞬間、彩華は思わず目をそらしてしまった。

 なぜか恥ずかしくなり、ドキドキしていた。

 すると彼女が桜の木から離れ、歩を進めて来た。

「久しぶりね……」

 それは美しい声で透き通るような音色だった。

 彩華はその声を聞いてハッとする。

(あれ? この声……)

 聞き覚えのある声だったが思い出せない。

 しばらく考えているうちに、少女は彩華との距離をさらに縮めてくる。

 もう手を伸ばせば届く距離まで来ていた。

 少女の顔を見ると、先ほどよりもはっきりと見えるようになっていた。少女は端正な顔をしており、とても美しかった。

 彩華は少女を見上げる。

 近くで見ると、さらに美しく見えた。

 見惚れ目眩めまいを起こしてしまいそうになるくらい。

 少女の瞳が潤んでいたため、彩華は少し心配になる。彼女は何も言わずただじっと見つめてきているだけだった。

 沈黙が続く中、少女は彩華の肩を掴むと突然抱きしめてきた。

 少女の体は小さく震えていた。

 少女の体が触れた途端、彩華の体に電流のようなものが流れていく感覚に襲われた。

 ビックリし過ぎて彩華は、少女を突き飛ばすように距離を離した。

「やめて!」

 彩華は困惑する。

 少女の行動の意味が分からなかったからだ。

 そんな様子の彩華を見て、少女は悲しそうにしている。

 彩華は自分の言動を反省すると同時に、少女に対して申し訳なく思った。

「失礼します」

 そう言って彩華は深々と頭を下げると、その場から逃げるようにして走り去った。

 少女は、その後ろ姿を眺めながら立ち尽くしているだけであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る