第14話

 冬篭りが始まった。

 食料を砦へ集積させている近隣の村々は、冬になると砦に入り、そこで生活することになる。

 ずっと後方に冬の館を持つ村などはそちらへ行くし、アルの村は砦にも近い為時折様子を見に戻ったりもする。


 砦での生活は窮屈で、違う村との諍いも頻繁に起きる。

 けれど各村の代表者がよく治め、話し合い、砦の兵士らと協力して一冬を乗り越えていくのだ。


 また、異なる村民同士の見合いもこの時に行われる。

 血が濃くなり過ぎるのを嫌う気風もあり、積極的に繋がりを持ち、早ければ十やそこらで嫁に行って違う村での生活を始める。

 総じて寿命の短い地方だ。

 何もかもが早く、命を燃やすかのように生きて、死ぬ。

 だから砦で従士として認められることを始め、兵士として戦うことは最高の名誉ともされている。

 各村の人々が集まってくる時期は毎日のように宴が催され、盛大に飲み、盛大に笑い、音楽を奏でる。

 出発前にも村々で宴が催されるが、この冬篭りの始まりは外地で最も賑やかで、楽しいお祭りの時期なのだ。


 けれど今年のアルにとってはそうではなかった。

 宴が楽しめないのではない。

 普段は食べられない美味しい食事や華やかな音楽と、とっておきの綺麗な服を着せられて騒ぐのは毎年楽しみにしていることの一つだ。


 ただアルは今年、砦へ入るのを止めてザンの元で暮らす事になっている。


「それじゃあ、脚部稼働用装具の実験を始めよう」


 当初よりは随分と小柄になったものの、未だアルの脚を覆う装具は大きい。

 正面で木板を持ち、筆を構えるゼルヴィアの名付けたアルの脚。元は、伸縮性脚部稼働用装具、という無駄に長い名前だったのだが(今も長いが)、伸縮という部分が秘密に振れてしまう為、省略された。

 専らアルは装具、とだけ呼称している。

 何かいい名前はないかと思案もするが、ジーンが下らないことをやっている暇があるなら短剣の手入れをしろとせっついてくるのだ。


 ゼルヴィアの背後、切り株の所でザンが薪割りをしている。

 先生と仰ぐ人物にそんなことはさせられないとゼルヴィアは言ったのだが、いつもしていることだからと取り合わなかった。

 また彼が見ていてくれるからこそ、アルの家族は別行動を容認している。


 残りは護衛のジーンで、合計四人。


 アルの母ジナと兄ロイは共に砦へ入っている。

 二人は残ると言ったのだが、秘密の問題やあちらはあちらで別の目標を見付けたのもあり、顔を出す程度。


 他所の村人からは、あの目立つ少女の姿が見えないということで、とうとう死んだか、などと勝手に解釈されて肩を叩かれているらしい。

 話を聞いたアルは笑っていた。


「まずはあちらの目標物を回ってこちらへ戻ってくる事。次に階段の登り降りだ」

「跳びますか!?」

「いや、跳ぶのはやらなくていい」

「えーっ」


 とりあえず立ち上がり、歩いて立てられた棒を回った。


 当初は一歩を踏むのさえゆっくりだったものが、今では普通に歩く速度の半分くらいは出るようになっている。もっと滑らかに、速やかに動けばと思っているのだが、伸縮糸の性質がそれを邪魔している。


「はいっ。次、階段行きますっ」


 三段登り、三段下がる。

 切り出した板で作られた山形の訓練用階段は無事突破出来た。

 ただ複雑な動きが混ざるようになると、時折脚の動きが跳ねたようになり、ぎこちなく動きを淀ませてしまう。


「急がなくていい。ゆっくり、確実に」

「はいっ」


 アルは慎重に最後の脚を地面に付け、後ろ脚を引いた。

 が、急に痙攣でもしたみたいに足が震えてつま先が階段を抉る。


「あ゛あ゛ッ!?」


 力が入り過ぎてしまった。

 姿勢は崩さなかったものの、板を潰すようにしてめり込んだ足先を見て、ゼルヴィア共々口を開けた。


「まだなるのか……もっと本数を減らすべきかな」


 最近ではこの、過剰な力が入ってしまうのが問題となっていた。

 人体はそもそも、自己崩壊しないよう力が無意識に抑えられている。

 それを無視すれば痛みという形で人は認識し、調整を覚えていくものだが、アルの脚にはその痛みを受け取る機能が無い。

 無論、外装部品によって動きの全てを賄っているのだから感じ取れと言うのも無茶な話だ。


「でもコレ以上減らすと動かすのも大変ですよ。脚も遅いままだし」


 伸縮糸の数を増やせば出せる力は強くなり、減らせば弱くなる。

 当然の話だが、強度の問題もあり、数が多ければ負担も分散される上に動きの幅が出る。

 魔力を込めれば自在に伸び縮みする糸も、限界の長さははっきりとあり、そこを調整するのもまた困難なものだった。


「また調整してみるよ。その間、またアレを頼む」

「えぇ……はぁーい」


 アルからすれば少しでも長く装具を付けて歩いていたいのに、完成を目標とするゼルヴィアは何度も何度も調整を行いたがる。

 これがアルを歩かせる為だけの研究開発であれば彼女に合わせ切ったものでも良いが、そもそもが魔導伯としての務めの延長線上である為、求められるのは汎用性だ。

 初日で精霊に馴染み、立ち上がったどころか長い坂道を登り切るような少女に合わせていると、熟練者でなければ扱えない欠陥品となってしまう。


 装具の取り外しを終えて車椅子に戻ったアルは、小屋へ戻って井戸に取り付けられている滑車のような器具の元へ向かう。

 石に彫り込まれた重さを見つつ桶へ入れ、その反対側の糸(と呼ぶにも太さはあるが)を掴んで力を籠める。


 初日に言われた呼吸のような感覚はまだ覚えている。

 息を吐けば糸は長くなり、吸えば短くなる。

 あくまで感覚だ。

 重さに対しての力加減を掴む為、最近はもっぱらコレの繰り返しだった。


「おう、また調整か」


 薪割りを追えたらしいザンが入ってきて覗き込む。


「随分と慎重にやりおる。こういうのは限界までやらせてみんと情報にも齟齬が生じるもんだが」

「今日のミミズ糸は機嫌悪かったよー」

「成程のお」


 ゼルヴィア辺りは伸縮糸と呼んでいるが、アルやザンはミミズ糸呼びが定着しつつある。

 あまり美しくない呼称だからか、彼にしては珍しくやんわりと否定してくるのだが、機能として直感的に理解し易いのだから仕方なかった。

 そしてザンはアルを優先する。

 仕方のないことである。


「初日は今の何倍も糸を張ってたし、私もよく分かってなかったから気付かなかったけどね、急に跳ねてくるの」

「うむ。稼働時間か、込めた魔力の量か、劣化によるものか、その辺りが掴めれば対策も打てるんだがな」

「私は馬みたいって思ってるよ」

「ほう」


 ゼルヴィアの馬に乗せて貰ったのはあの一度きりだが、乗馬の記憶は未だ鮮明なものだった。

 馬は人の言うことを聞いてくれる。

 けれど、人に感情があるように、馬にも個性があり、感情がある。

 気分が乗れば急に速度を上げてきたり、主人の言う事さえ無視して暴走もする。

 生物的に疲労を感じ難いという点でも、足に感覚の通っていないアルと合致した。


「なんかね、目の前に広い草原があるのに、ゆっくりゆっくり動かされてるのが嫌みたいなの。もっと思いっきり動きたいって言ってる気がする」


「だけどね、アル」


 ゼルヴィアが小屋へ入ってきていた。

 外で調整をしていたが、素材か器具が不足したのだろう。


「思いっきりやった結果が、鋼鉄製の装甲を歪ませるっていうとんでもないものだったんだから、力を弱めるのは当然だよ」


 彼とて限界値を見極める過負荷実験は必要と考えている。

 だが、歩く事にも慣れてきたアルが『見て見てー』と思いつきで跳び上がった時、膝を保護していた装甲が彼女の跳躍と共に吹き飛んだのだ。


「下手をしたら膝が駄目になっていた。日常生活を送ることがまずの目的なんだから、岩盤を蹴り砕くような出力は必要ないよ」

「あっ、それやってみたいですねっ」

「……頼むから試さないでくれよ」


 冬篭り以来、すっかり信頼(?)を獲得したアルは、手綱を握られているのだからと危機管理を丸投げしている所がある。


「別にあってもなくても動かないんだから、いっそぐねんぐねんにしちゃった方が可動域が増えて良くないですか?」

「……頼むから、自分の脚は大切にしてくれ」


 最近増えてきたこの手の発言にもゼルヴィアは頭を悩ませていた。

 彼女の母ジナへ大切にすると誓った。

 その娘が自身の肉体を、動かない脚を軽んじているというのは、それ自体は仕方のないこととはいえ、許していい発言ではないとも思っている。


 甘ちゃん、と友人から呼ばれている青年は、困ったように笑い、少女は楽し気に口端を広げた。


「いまは慎重に、構造自体が固まっていないんだから、力一杯はその後に取っておいてくれ」


 返事は良かったが、滑車で上げ下げしていた桶が突然跳ねて器具を浮かせた。


    ※   ※   ※


 レナード=ベレスは間諜である。

 こちらでは異民族と一纏めに呼ばれている東方の者達の中で、この西端に程近い高原を縄張りとするベレス氏の末端として生を受けた。

 血を混ぜよと命じた偉大なる彼らの、遥か太古の君主に従い、高原の遊牧民族らは時折低地の者達を襲い、略奪を行う。

 男は奴隷に、女は、新たな血を混ぜる機会とされる。

 彼らにとっては狩猟で獣を追い回すのと変わらない。少々規模が大きくなり、強い抵抗を受けることもあるが、内側で行われている闘争に比べれば些細なものだった。


 レナードの母はそうやって外部から迎え入れられた一人だ。少なくとも彼らの中ではそう認識されている。


 混血者は尊いものとされ、彼自身は優遇されてきたが、母は別だった。枯れ枝のような腕で、いつもうわごとのように喋り、髪はすっかり荒れている。

 齢二十歳にも満たないというのに、その様相は老婆を思わせるほどだった。


 彼らの中で弱者は蔑まれ、強者は尊ばれた。


 異なる価値観を持つことは強さにも繋がるとされ、奮起することの出来た者は氏族内でも優遇されるが、母には不可能なことだったのだろう。


 そんな彼女を見て育ったレナードにとって、故郷とされる西方の地は母を見捨てた敵でしかない。


 氏族長である父は彼を愛し、一族として迎え入れたが、同じような兄弟は彼を含めて十二を数え、おそらく成人を迎える前に半数以上は暗殺される。

 力を示さなければ、弱き者に生きる道など無い。


 頼る者無く生きてきたレナードもまた、その考えへと傾倒していった。

 己の力だけは、決して裏切らない。

 だから、力を付けることには固執した。

 三歳で偶然発見した精霊を無理矢理身に宿し、血反吐をぶちまけながら屈服させると、兄弟の中でも一気に頭角を現すようになっていった。


 来る西方への侵攻計画、東方の氏族が勢力を拡大していることに危機感を覚えた者達は、肥沃な土地を抱える壁の向こうを望んでいた。

 だがあの壁は高く分厚い。

 故にじっくりと時間を掛け、その内部へと浸透していく方法が選ばれたのだ。


 現地民と同じ顔付きのレナードが間諜として送り込まれたのも、当然の流れと言えた。


    ※   ※   ※


 運び込まれた砦の物資へ袋の中身を振り掛ける。

 黒い粉は埃に混じって見えなくなり、それと意識しなければ気付けないだろう。


 レナード自身、何をやらされているのかは分かっていない。

 現地に血の繋がりを持つかもしれない少年は、当然ながら裏切りを危惧されている。それでなくとも年単位で進行する計画を氏族長の息子とはいえ、こんな子どもに明かすような馬鹿は居ない。


 ここは砦の最奥、第三の郭と呼ばれる場所の一角だ。


 人の出入りが多い第一、第二に比べると、ここは内地と呼ばれる壁の向こうから来た騎士とその従士、後は砦の主である騎士の一族や家臣団くらいしかやって来ない。

 入り込むのは苦労したが、一度入ってしまえば当たり前のように通され、以降は好きに動ける。

 騎士に仕えるという、彼とそう歳の変わらない従士らが小間使いに出されることはよくあり、急激に増えた余所者の多さが良い迷彩となっていた。


 ここは良くも悪くも内輪の者しか居ない。

 だから、顔を知っている人間には驚くほど警戒が薄くなる。

 今回は防衛力強化の為に外部から騎士を招いたことで、入り込む隙間が出来てしまっているが。


 隠れ家の男ではないが、やはり西方の低地に住む者というのは、馬鹿で間抜けが多いのかもしれない。


 胸の内に淀む靄を蔑みで晴らしていると、不意に背後へ立つ影があった。


「そこで何をしている?」


 振り返った先に居たのは、この砦を取り仕切っている家令の男だ。満足に馬へも乗れなさそうなでっぷりとした腹は、富の象徴というより仕留め時の豚の方が正しい。

 長く権力を持ち続けると人の心は肥え太り、氏族を弱らせると言われている。

 氏族長である父も、もう十年もすれば兄の誰かに殺されてしまうだろう。


「何者だ。名乗れ」


 しかし拙いことになった。

 レナードはこれまで、騎士の従士達には地元の人間として振舞い、地元の人間には騎士の従士として振舞ってきた。

 こんな男でも氏族を動かす地位にあるのなら、下手な嘘など簡単にバレてしまう。


「え、えと……」


 手にしていた袋を後ろ手に放った。

 これで証拠自体は手放せたが、目の前の尋問は終わっていない。


 殺すか…………、考えてから自分の案直さを呪った。殺したとして死体は? 家令ほどの立場ある者なら確実に捜索される。死体が見付からなかったとしても潜入そのものが怪しまれる。

 母を取り巻く環境を改善するべく、こんな胸糞悪い場所にまでやってきたというのに、何の成果も挙げられず逃げるなどと。

 レナードは手を前で組みつつ長い袖の内側に仕込んだ小刀へ触れる。

 だがそれは、ここで捕まっても同じだ。

 自分を誰かに委ねるくらいなら、いっそ。

「怪しい小僧だな。こちらへ来い。何か盗み出しでもしていたらただじゃ――――」


「あーっ、やっと見つけたーっ。探したんだよー」


 不意に、彼の中で膨れ上がっていた殺意ごと張り倒すような声が来た。

「アンタの騎士様が捜してたよー。仕事から戻らないって。また迷ったの?」

 車椅子の少女、アルが倉を覗き込みながら、レナードに小さく手を振っていた。


    ※   ※   ※


 差し込む陽の光を浴びながら、彼の倍はあろう年頃の少女が車椅子を押して倉の中へ入ってくる。

 風に揺れる赤い髪は、レナードのものよりも幾分か濃くて、炎のような印象を受けた。

 彼女は、火あぶりにされながらも大笑いし続けたという太古の君主のように口の端を広げ、家令の男と向き合った。

 先に鼻を鳴らしたのは、油袋のような腹をした男の方だ。


「泥ネズミの仲間であったか。ここはお前達のような者の入って良い場所ではない」

「えー? その子、内地から来た騎士様の従士だよ? 家令なのにそんなことも分からないんだあ」

「っ、っ!! 当然そのようなことは把握しておる!! お前の仲間かと言っただけだ!! しかし倉は我らベレフェス家の管轄だ、勝手に出入りされて良い場所ではない!!」


「だってさ。じゃあ行こっか」


 見栄を張る腹デカ狸を早々に意識から外して、車椅子の向きを変えてからアルが手を出してきた。

 レナードは一度家令の顔を見たが、すぐに切り替えて倉の外へと向かった。

 ここに留まっていても損しかない。


「………………ありがとうございます」


 それから、十分に距離を置いてから、ようやくレナードは礼を口にした。

 対してアルはいつも通りだ。


「アイツいっつも嫌味ばっかり言ってくるの。アンタも絡まれてたんでしょ。ねちっこいから気を付けなよ」

「はい。ありがとうございます」


 アルが車輪を強く押して前へ出た。

 特に意味は無かったらしく、けれど彼女は溢れ出る熱を吐き出すと、先ほどまでレナードの居た倉の上層、大鐘楼を見上げた。


「最近、顔を見ませんでしたが、どちらに?」

「えー?」

 あぁ、と溢し。

「秘密の特訓中っ!!」

「秘密ですか。気になりますね」

「内緒っ」


 あからさまに秘密を打ち明けたがっている顔をしていたので訪ねてみたが、どうにも自制心はまだ働いているらしい。

 若干の鬱陶しさを覚えながらも、ふと隠れ家で聞かされた話を思い出す。


『そういえば、お前の母はこの辺りで入荷したらしいじゃないか。髪色も似ているしな。案外、あの身欠の娘はお前の叔母かもしれんぞ。どうだ、感動の対面じゃないか』


 言われてみると、顔付きが母と似ている気もした。

 赤い髪はこの地でも比較的珍しい部類だ。とはいえ、冬篭りで集まる者達を見れば何人かは見付かる程度。


 仮に血縁だとしてどうすれば良いというのだろうか。


 母の身は痩せ細っていて、長旅に耐えられる身体ではない。そもそも、この地はもうじきベレル氏を始めとする高原の氏族衆が徹底的に壊滅させる。

 男は奴隷に、女は母のように。

 奪い取った物資食料はそのまま次なる進軍の糧となる。

 解決策など無かった。

 あれほど弱った母が、こんな貧しい生活に耐えれるとも思わない。


 結局、自分が功績を挙げて氏族長となるのが一番だと結論付けるしかなかった。


 頼れる筈もない。

 しかも、母を見捨ててのうのうと生きている者達などに。

 そもそも自分はこの砦を壊滅させる計画に加担しているのだ。

 どの口がと目を細めた。


「で、アンタこの後どうするの?」

「あ、えと」


 ただ、彼女に関しては探りを入れろと命じられている。

 潜入任務は他にも駒がいるも、ここまで信用を受けているのはレナードしかない。手土産として、功績は多い方が良い。


「実は、主からは暇を貰いまして。ですが何をすればいいのか分からず」

「それで倉の中漁って何かないかってやってたんだ。あそこは止めた方がいいよ。さっきの奴が部屋から監視出来るみたいでさ、私が近寄っただけでもぎゃあぎゃあ言ってくるの」

「そうなのですね……」


 誰の目にも留まらず潜入出来たと思っていたが、それは盲点だった。


 と、その時レナードの腹が鳴った。


 彼は潜入任務中だ。砦で生活する村民らは共有の食糧庫から炊き出しを行っているが、騎士に仕える従士達は騎士からの下げ渡しを受ける。

 余所者が平然と並ぶには危険が多過ぎる為、食事は全て持ち込みだった。


「あっはははははは!!」


 遠慮の無い笑いに猛烈な羞恥を覚える。

 隙を晒さず、慎重にと生きてきた少年も、まだまだ五歳になったばかり。

 環境故にか驚くほど冷静ではあるが、やはり幼稚な一面は残っているのだ。


「そうだ。授業も終わったし、今からウチに戻って、こっそり美味しいもの食べようって言ってたんだけど、アンタも来る?」





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