濡れたまんまじゃダメだから
そろそろかな? やっほー。聞こえてるー?
おっ、繋がってる! よしよし。
やっぱりこのくらいの時間にならないとダメみたいだねぇ。
こんばんわ~。私だよー。
キミとこうして挨拶するの、初めてじゃない? あはは、なんか変な感じするね。
【小さく笑うエリューシアの声に混じって、カサカサと葉擦れの音が聞こえる。】
あぁ、今日は歩きながらお話ししてるの。
お月様が綺麗でさ。風も気持ち良いし、ちょっとお散歩でも、って思って。
キミは夜のお散歩とかする?
薄暗くて、でもお月様の光が少しだけ眩しくて。
静かな世界で、自分の足音だけが聞こえて。
おっと、そっちの世界はこっちよりも賑やかなんだった。
羨ましいけど、そこだけはちょっと残念かもね。
でも、何か考え事をしたいときとか、なんとなくボーっとしたいときとかにはオススメだよ。
暗くて危ないから、そこは注意だけどね。
ひゃっ!? なんか冷たいのが――
【ポツポツ。僅かに聞こえ始めた水の音が一気に強くなり、ザーザーと激しい雨音へ変わる。】
わわっ! 雨!? さっきまで晴れてたのに!
どこか凌げるところ探さないと……!
ってそういえばキミって雨大丈夫なの!? 水で壊れたりしない!?
分かんないよね、そうだよね!
ええい、とにかく走れー!!
【バチャバチャと激しい足音が聞こえる。だが、それよりも近い場所からドクンドクンと早い鼓動が聞こえる。】
少しでも濡れないように、キミのこと抱きかかえて走ってるからね!
ちょっと聞き苦しいと思うけど我慢してねー! というか、出来れば聞かないでー!
あっ! あの岩陰なら――っ!
【バチャバチャ。足音が止まり、雨の打ち付ける音も少し遠くなる。】
はぁー……はぁ……。ふぅ…………。
【ドクンドクン。聞こえていた鼓動がゆっくり遠ざかり、聞こえなくなる。】
なぁんで……残念そうに、してる、のさぁ……。もぅ……。
すぅー……。はぁー……。すぅー……。はぁー……。
うん。ちょっと落ち着いてきた……。
っと! そうじゃなかった! キミのこと拭いてあげないと。
ええと、拭くもの拭くもの……。あった!
【いつも声が聞こえる距離よりもずっと近く。ゴシゴシとタオルの擦れる柔らかな音が直に聞こえてくる。】
あっ、大丈夫?! うるさかったよね!?
……大丈夫そうだね? というか、むしろ気持ちよさそう?
ふぅん……? 気持ちよく無いんだぁ? そっかそっかぁ。
……ごしごし。
あはっ。やっぱり反応した。
心の声が聞こえる私に隠し事なんて出来ないんだから、素直になりな~?
まぁ良いや。何にせよ、もうちょっとしっかり雨を拭いてあげたいから。
もしも嫌でも我慢してねー。
ごしごし……ごしごし……。
ごしごし……ごしごし……。
……ふー。
ふふっ。
えー? 違うよぉ。ほら、物を乾燥させたいときって、風に当てたりするでしょ?
それだから。うんうん。
ふー……。
ごしごし……ごしごし……。
あ、あー。こことか水溜まってそうだなー。
でも溝になってるから、手じゃ届かないかもなー。
何か、棒とか使わないとかなー。
……こほん。というワケで。
いくよ?
かりかり……かりかり……。
かりかり……かりかり……。
【優しくなぞるように、カリカリと音が聞こえる。】
どう? 嫌だったりしない?
そっか、嫌じゃない、かぁ。良かった良かった。
じゃあ……良い機会だし、メンテナンス、もう少し続けるね?
かりかり……かりかり……。
かりかり……。
ごしごし……ごしごし……。
ごしごし……。
ふー……。
ふふっ。気持ち良い?
あー、そうだったねぇ。キミは魔道具のメンテナンスに付き合ってくれてるだけだった。そういう事にしてあげる。……ふふふっ。
んーん。なんでもない。
ねね、他に何かしてほしいこと、ある?
し、心臓の音はダメ!
――――だって、ドキドキしてるの、バレちゃう。
ダメなものはダメなの。
そ、そもそも、『してほしい事ある?』って聞いただけで、やってあげるとは言ってないし!
あんまり言うと、石ころの上とかでゴロゴロ転がすよ?
それはそれで気持ちよさそう?
……確かに?
でも、キミが壊れて繋がらなくなっちゃったらイヤだから、やっぱりそれも無しかな。
んー? あ、ホントだ。もう雨の音しないね。
通り雨だったのかな。
そうだね。また降られる前に、テントに戻ろっか。
よっ、と。
おー、すっかり晴れて雲一つ無いや。
雨が降って空気が洗われたからかな。
何だかさっきよりも、お月様が綺麗に見えるかも。
そっちはどう?
そっちの世界のお月様は、綺麗に見えてる?
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