異世界クッキング

【トントン、と軽快で規則的な音。少し遠くからパチパチと何かが弾ける、焚火のような音も小さく聞こえる。】


おや? この声は……。おーい、聞こえてる~?


お、聞こえてるみたいだね。こっちもバッチリ聞こえてるよ。


うん。キミの想像通り、今お料理してたの。良く分かったねぇ。

あ、お料理の音も聞こえてる? そっかそっか。


実はね、お昼とかにも通信しようと思ってたんだけど、ぜんっぜん繋がらなくて。

色々試してたらすっかり夜になっちゃった。


そっちも夜なの? へぇ、こっちと時間の流れは一緒なのかな。


【ぐぅーきゅるる、と可愛らしい音が聞こえる。】


…………ん~~? 何か聞こえた? 聞こえてないよね? ね?

聞こえてないって言ってよぅ……。

うぅ……、めちゃくちゃ恥ずかしい……。


うん、うん。気を遣ってくれてありがとね。

でも心の声が筒抜けだから、ホントの事は分かっちゃうんだ……。


いやぁ、魔道具を弄ってたらご飯食べるのすっかり忘れちゃってて。

それで今、遅めの晩ご飯を作ってたんだけど、まさか、こんな事になるとは……。


ホントは落ち着いて、のんびりお話ししたかったけど、お料理しながらでも良いかな?


良かったぁ。ありがと。


……なーんかイジワルなこと考えてるのも分かるんだからね? ふふっ。


【止まっていた包丁の音がまた聞こえ始める。】


でも、なんで急に繋がったんだろ。

もしかして、夜しか繋がらないとか? 昨日も夜に通信したもんね。


じゃあ、明日のおんなじくらいの時間に試してみようかなぁ。


今作ってるの? 野菜とお肉のスープだよ。

まぁ、お肉って言っても干し肉だけどね。今日見つけたんだけど、ちょっと保存が怪しかったから、早めに食べちゃおうかなって。


だ、大丈夫だよ! 別に野晒しだったりしたワケじゃないから。

食い意地も張ってまーせーんー! 


まったくもう……。乙女に向かって失礼な……。


……ふふふっ。ちゃんとわかってるよ。キミが心から心配して言ってくれてるの。

心配してくれてありがと。でも、本当に大丈夫だよ。


一人旅で変なもの食べて、それで体調崩して動けなくなっちゃう方が危ないからね。

食べ物が勿体ない~、とか思ってもそこの線引きはキッチリする事にしてるの。


んー? 実感籠ってた? そう? 気のせいじゃないかな?


さて。野菜も切り終えたし、沸かしてたお鍋に、っと――。


【ポチャポチャ。トポン。お湯の跳ねる音がする。】


お肉は手で適当にちぎって……えいっ。


味付けは……、干し肉からも染み出してくるだろうし、控えめにしとこうかな。さっさっ、っと。こんな感じで。


くんくんくん……。うん、匂いは良い感じ。

ちょっとひとくちだけ味見、っと……。ずずっ……。


ん、美味しい。


もう少しピリッとしてても良いけど、こんな時間だしね。

これくらいが丁度良いかも。


あとは野菜とお肉が柔らかくなれば完成だね。


あーあ、せめて匂いだけでもキミに届けられたら良いんだけど。

実は、頑張れば届いたりしないかな? 

おりゃ、ぱたぱた~。ぱたぱた~。


どう?


うん、やっぱり無駄っぽいねー。知ってた。


【グツグツ。パチパチ。薪の燃える音に混じって、鍋の煮立つ音が僅かに聞こえる。】


時々かき混ぜてー、っと。

そういえば、キミはもう晩ご飯食べた?


あははっ。なんでちょっと悔しそうなのさ。


折角なら一緒に食べたかった…………? あー、そういうこと! なるほどねぇ。


ずっと一人旅だったから、そういう考え方すら忘れてたよ。


前に誰かと一緒に食事したの、いつだっけ? んー……、思い出せないなぁ。



そろそろ火通ったかな。串で~、えいっ。おっ、良い感じ。


【トポトポ。ポチャン。器にスープを注ぐ音が聞こえる。】


じゃあパンも用意して、っと。いただきま――


あれ、ちょっと待って? もしかしてこれ、このまま食べると食事の音も聞かれちゃう?! それは流石にダメ! 恥ずかしすぎる!


ごめんね。一瞬だけ離れるけど、すぐ戻ってくるから!


え? ま、まぁ一緒に食べてるんだったらあんまり気にならないかもだけど……。


それなら自分も食べる、ってキミもう晩ご飯食べたんじゃないの? 食べすぎも身体に毒だよ?


もしかして……。

そ、そんなに私の食事してる音が聞きたいの……? ちょっと怖いかも……。


あ~、ごめんごめん、冗談だから。


……誰かと一緒に食べた方が美味しい、かぁ。

そんな言葉も久しぶりに聞いたよ。でも、そうかもね。


うん。私との晩ご飯、付き合ってくれる?

ありがとっ。でもスープ冷めちゃうから、なるべく早めにね?


ウソウソ。ゆっくり準備してきて大丈夫だよ。いってらっしゃーい。


――――寂しそうに見えた、ね……。そうかなぁ……そうかもなぁ……。

【独り言のようなトーンで、小さく何か聞こえた気がした。】


んー? なんでもないよ。おかえり。早かったね?

急がなくても良かったのに。


それじゃあ改めて。いただきまーす。


【木製食器の当たる軽い音。スープを啜る、控えめな音が聞こえる。】


んん。やっぱり美味しい。

それに……、すっごくあったかいや。


キミは何食べてるの? へ~、そっちも美味しそうだねぇ。

一口ちょうだい? なーんて。

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